映画評「世界最速のインディアン」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2005年ニュージーランド=アメリカ映画 監督ロジャー・ドナルドスン
ネタバレあり

「13デイズ」のロジャー・ドナルドスンは堅実ながら面白味の薄い監督で、その特徴が良い方に出た実話ドラマである。オーソドックスな秀作と言うべし。
 タイトルが「インディアン・ランナー」のイメージと重なって陸上選手のインディアンでも登場すると思いきや、心臓疾患のある63歳の老白人が主人公。

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ニュージーランドの田舎町に住むバート・マンロー(アンソニー・ホプキンズ)は、第1次大戦をテーマにした戦争映画によく出てくるバイクの“インディアン”を自己流に改造し続け、アメリカのボンヌヴィル塩平原で1000CC以下バイクの世界最速記録を出そうとなけなしの金をはたいて渡米、その為に船中でコックの真似事もしなければならず、アメリカについてからも不審がられてスムーズに行かない。物価の高さに驚き、花を強引に売り付けられ、売春婦に迫られるといったカルチャーギャップに悩まされる。

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という辺りで、彼を尊敬している少年(アーロン・マーフィー)との交流を始めニュージーランドの場面は好調だったのに、凡俗に陥りがちなカルチャーギャップの描写が続くのかと悪い予感が過るが全くの杞憂で、モーテルのオカマ(クリス・ウィリアムズ)が人情を示して以降は誠に快調である。
 流線型の“インディアン”を引っ張るトレーラーを作らせてくれる中米出身の中古車屋のおじさん、前立腺肥大の特効薬をくれる老インディアン、トレーラーを修理させベッドのお供までしてくれる老女(ダイアン・ラッド=ローラ・ダーンの実母)、ベトナム戦争から一時帰休中の若者まで登場する人物が好人物ばかりで、スローライフ的な素晴らしい旅の風情が次々と展開して誠に気分宜しい。

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大会が始まってからもこの流れは止まらず、登録制であることを知らずに参加した為に出場を危ぶまれたマンロー老人に援助の手を差し伸べる四輪レーサー(クリス・ローフォード)も大会関係者も尽く心優しい人たちばかりで、大会に参加できただけでなく、遂には目標通り世界記録を作ってしまうのだ。

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「良い人ばかりで何だい!」という声が聞こえてきそうだが、コントラストとしてアメリカに着いた当初に出てくる感心しない人々が十分その役目を果たすので、寧ろその変化に富んだエピソード群を楽しまなければつまらない。
 主人公からして品行方正な聖人君子というわけではなく、他人の茶々に対して怒りもすれば老女とは言えすぐに同衾もする。しかし小事に拘らず何事にも前向きな好々爺ぶりが結局周囲に影響を与えてしまうのであり、彼の人柄を反映する鏡のような存在として彼らは登場しては消えるのである。それも、ささやかな善意が示されるだけで大げさなものでないのが良く、その積み上げがあるから記録を作る前の表彰(?)シーンが嫌味にならないわけである。
 税関吏も警官も融通の利かない日本の役人と違って実に良い。個人的にロス空港のイミグレで似たような経験をしているので、アメリカの小役人はこうしたものかもしれぬ。

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主人公を演じるアンソニー・ホプキンズの飄々とした魅力が秀逸で、種々雑多の共演陣も爽やかな演技で心和む。

僕は少年時代将来乗る気もないのにバイクの機種などを懸命に憶えたものだが、結局構造にまで興味が及ばなかったので、バイクの改造について全く解らないのが残念。

今年最初のいい映画。

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この記事へのコメント

2008年01月04日 22:29
実話に基づく・・ってところがいいですね。
出会った人をも幸せにしちゃう天然ジイさんライダー・・・
カッコよくて、お茶目でした。
2008年01月05日 09:52
どうも!この作品を新年に観るなんて気分爽快じゃないですか!
すごく好きな作品です。
わたしの父親がバイク乗りですので、こういった話はとても身近だし、
しかももう老いて体力も弱って来てるのに、なぜあんな重くて危険なものに乗りたがるんだろう?と家族は心配してるのですが、マンローじいさんのこの笑顔を観ると、やはり好きなことはいつまでもやりたいものなのだなあと思えてきます。そしてそれが一番ハッピーなことなのだとね。
言われてみると、みな良い人ばかりですよね。
それはやっぱり「人たらし」(ここではいい意味です)なマンローの魅力がそうさせるんだろうな。類は友を呼ぶということですかね。
ということで、わたしもオカピーさんブログに集う方の友ならば嬉しいな!今年もよろしくお願いします。
オカピー
2008年01月06日 01:11
ひらりんさん、こんばんは。

>実話
事実は小説より奇なり、なんて言いますものね。
勿論映画的に改ざんするところも少ないですが、基本が凄いわけですから、やはり事実は奇なりです。何を言っているんだか。
本作でのスピード記録は事実とは違うようでした。
オカピー
2008年01月06日 01:20
しゅべる&こぼるさん、こんばんは。

>バイク乗り
そうでしたか。
我が家では兄がバイク好きですが、今はもう乗りません。
父親は6年前にやっと普通免許を取り、それまではずっとバイク。だから家族旅行なんてしてもらったことはありましぇん。
僕は生まれてこの方バイクとは無縁、雑誌を買ってまでバイクの型名を勉強したのに。(笑)

>良い人ばかり
日本の役人には個人的に酷い目に遭っているので、特に税関吏と警官の態度がお気に入りなのでした。

>マンローの魅力
そうでしょうね。嫌な奴に警官はあんな態度をとらない。

最後は大変うまくまとめましたね。さすがです。

今年も宜しくお願いしますね。
豆酢
2008年01月08日 21:58
プロフェッサー!!
大変遅れましたが、今年もどうぞよろしくお願いします!!

昨年中は、プロフェッサーからいろいろなことを学ばせていただきました。わたくしめの波のありすぎる(苦笑)TBとコメントにも、実に真摯に対応して下さり、感謝しております。今年こそは、プロフェッサーの明晰かつ簡潔なレビュー記事を目指して…たぶん挫折することでしょう(笑)。

そんなわけでこの映画、実は劇場で観ていたときの記事をTBさせていただきます。しみじみ良かったなあと思える、いい作品でしたね。ホプキンズ爺やは、人喰い男よりもこの役の方が似合っているのではと感じました。
オカピー
2008年01月09日 02:59
豆酢さん、こちらこそ宜しくお願い致します。

>簡潔
ものぐさで長く書けないだけなんですけどね。^^;
でも、「簡潔は良い映画の要素である」という持論は、映画評にも通ずるとは思いますから。

>記事
豆酢さんも書かれていたですか。
参考にしたかったなあ。(笑)
基本的に僕のレビューと合致するもので大変良かったと思います。^^

>人喰い男より
正しく。
「日の名残り」の名演も忘れ難いですよね。
2008年01月14日 12:59
明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願いします。……と遅すぎる新年の挨拶ですみません。m(__)m

アメリカでの公開時にはまるで知らなかった作品だったので、タイトルを初めて見たときはてっきり僕も陸上選手のインディアンが登場してくるのかと思ってしまいました。(笑)
この映画は実話だということに甘えずに、レース会場への道中も楽しく見せてくれる演出が嬉しかったです。スピード主義に侵された男とスローライフ的な旅の対比も面白かったですよね。何でアメリカでの興行成績が失敗に終わってしまったのか不思議です??
オカピー
2008年01月15日 02:52
白羽の矢さん、こんばんは。

>陸上選手のインディアン
そう思いますよね。^^;
いきなりニュージーランド!
何がインディアンじゃあ、と思いましたです。
幸か不幸か“インディアン”というバイク・メーカーは知っていたので、その後はすぐに納得したのですけどね。

>スピード主義・・・スローライフ的な旅の対比
正にそうでしたね。
すっかり気に入ってしまいました。

>アメリカでの興行成績
結構ミーハーだからなあ(因みに根拠はありません)。

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