映画評「ある結婚の風景」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1974年スウェーデン映画 監督イングマル・ベルイマン
ネタバレあり

イングマル・ベルイマンが作った5時間のTVミニシリーズは日本で放映された時に観て、これだけのものをTVで放映するスウェーデンの文化水準に驚いた。その後映画館で約半分に短縮された劇場用即ち本作を観たが、やはり感心したものである。それからはや四半世紀が過ぎ、ベルイマンは物故してしまった。

結婚10年を迎えた心理学研究所の教授エルランド・ヨセフソンと離婚専門の弁護士リヴ・ウルマンが親友夫婦の壮絶な喧嘩の末の離婚を目にする。
 というのを伏線的契機として、何の亀裂もないと思われたこの夫婦が僅かな隙から夫を浮気に走らせ、やがて離婚。彼女も幾人もの男性遍歴の末に再婚するが、二人の愛情は実は消えることなくくすぶり続けていて、結婚20年に当たる年に別荘でランデブー、その時二人は互いの愛情を理解する心境に至っている。

画像

紆余曲折はあるが簡単にまとめればそんな物語。
 6章構成に章ごとに時間を区切って集中的に展開したのがスマートで、だらだらした印象を回避している。章が進むに連れちょっとした切れ目に水が入ったことから決壊に到るダムのようにこの夫婦は離婚という瓦解の方向へ進む。説得力のある構成であり、展開である。

画像

殆ど二人だけで繰り広げられる台詞劇の様相で、その点において同じように熟年夫婦の口論に終始する「バージニア・ウルフなんかこわくない」と双璧を成す秀作であるが、中味は些か違う。
 あの作品があの夫婦独自の持ちつ持たれつの関係を凝視的に描いたものであるのに対し、本作では夫婦を含めた男女の繋がりとは何か、愛とは何か、といった人生の命題に対する回答を時には殴り合いにまで発展する激しい愛憎表現と10年という時間経過を通して普遍的なアングルから導き出そうという狙いがあったものと理解できる。
 練り込まれた辛辣な台詞群からは男性論や女性論、男女や夫婦といった枠を超えた人間論、人生哲学が浮かび上がってくるが、いずれにしてもその先に見えるのは弱くて惨めな人間の裸の姿である。ベルイマンのかつての神秘主義的な作風は本作では見られないものの、最後の一幕に僕は人間の神秘を見る。
 そこに本作が底流に据え置いたテーマがあるとも思う。<愛>である。くすぶり続ける二人の関係を見続けるうちに次第に思えてきた、愛とは相手の心に触れ理解することである、と。

画像

以上は僕の限られた頭脳の拙い理解に過ぎず、その一端すら把握できていないかもしれないが、がっかりすることもない。160分余りを飽かさずに見続けさせる構成、台詞、演技の見事さに感服するだけでも観た甲斐があるというものである。
 こうした少人数の台詞劇では脚本が上出来であっても演技者にそれに応える力量がなければ【宝の持ち腐れ】同様になるが、勿論本作のお二人には文句の付けようがなく、特にリヴ・ウルマンは圧巻。

ただ、5時間版や168分の劇場公開版にあったはずの火山や入り江といった自然を捉えたショットが164分の今回の放映版からは削除されているのは残念。削られた4分にあったはずのショット群は登場人物の感情をシンボライズする重要なものだったからである。

ウッディー・アレンがカメラワークまでベルイマンを追いかけていることに改めて気付きました。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

十瑠
2007年12月20日 16:44
あちゃーっ!

先日の放送を録画した翌朝、再生ボタンを押してみるとスクリーンは真っ黒けのケ。
BSチューナーの電源を入れ忘れてました。(愕然!)

ま、も一度放送されるとふんではいますが、これは是非とも見たい映画でした。
オカピー
2007年12月21日 04:07
十瑠さん、こんばんは。

それは残念でしたね。
現在はレコーダーの内臓チューナーなのでデジタル放送の録画に関してはミスはまずありません。
デジタルWOWOWに変えて以降、デジタルビデオ時代には似たようなことをよくやりました。

短縮版とは言え長いですから、体力が要りますよ。
難解ではないですが、深いところまで把握するのはやはり難しい、挑戦のしがいのある作品です。

明日も(いや今日だな)苦労しそうだなあ(独り言です)。
2007年12月22日 21:06
録画はしてあるものの、まだちゃんと最後まで
再見できずにおりますが、これまた、
楽しみが先にあるのも、“楽しみ”^^

ベルイマンというお人が特別な逸材なのか、
プロフェッサーご指摘のようにスウェーデンという
お国柄が文化的高水準を保持する何かがあるのか、
それとも物の本に書いてあったように
過去の統計からみると“寒い地域から高い文化や学者が
生まれやすい”のか・・・。

よくぞここまで男女をぶつけさせたと感心したホン、
さぞかし全てにキメ細やかであったろう丁寧な演出、
それに的確に応える名優たち。

プロフェッサーも男性ですから、正直なところ
あまりお得意ではない類の内容ですのに(^^)
きちっと本作の意図するところをお掴みに
なって、神業とも思えるあの名構成にも言及
なさっていらっしゃる。
すばらしい映画評ですよ!

>ウッディー・アレンが

きっとアホになるくらいベルイマン作品をアレンは
観倒した(笑)んじゃないでしょうか。^^
オカピー
2007年12月23日 01:39
viva jijiさん、こんばんは。

>ベルイマン
勿論特別な逸材です。^^

>寒い地域
これ、作風その他に歴然と出ますよねえ。
イタリア人にベルイマンみたいな映画を作れと言っても無理。
フェリーニの天才をもってしても無理。^^

短縮版なのに全く不都合がないのは、
裏を返せば残った部分が無駄なのではないか、
という疑問に繋がりかねませんが、そんなことはなかったですね。
いずれ5時間版も手に入れたいなあ。

>あまりお得意ではない類の内容
ばればれですね。^^;
最初はどう書いたものやら難儀しまして、
何とかお読みになった内容に落ち着いた次第。
その甲斐と待った甲斐もあって、かなり褒められました。
うれちいな。\(^^)/

>アレン
いやあ、こんなに拝借しているとは思わなかったです。
11月に再見した「世界中がアイ・ラブ・ユー」で
アレンが熊のように動く場面なんて正にそのものですし、
彼が作り出す自虐的男性像はベルイマン映画の男性像のパロディではありませんか!
2007年12月23日 08:08
>5時間版

私もたしかTVで観た記憶があります。
でも、全部ではなく途中からですが。
最初から観れなかったこと・・・今でも悔しい!

>最初はどう書いたものやら難儀しまして、

これまでの正攻法のプロフェッサー評から私、
鑑みるに、これはかなり難産でしたのかしら?
でも何度も言いますが、それこそベルイマンでは
ありませんが、構成といい、段落の入れ方といい、
センテンスといい、短いくくりの中に的確な表現、
とてもいいと思いますよ。

やれ、飛んだの、走ったの、死んだ、生きた、
銃ブッぱなすの、バケモノだの、怪物だのの類より、
こういう人間の根源をほじくるような話は
ホント、書きづらいもんですわん。^^

>アレン・自虐的男性像

プロフェッサーは「ブロードウェイと銃弾」での
主人公、ジョン・キューザックの配役はどう思われます?
先日3回目の鑑賞でしたが、モッサモッサして暗い
キューザックより、やはり自虐的お芝居はアレン自身が
一番、巧い!っと私は再々確認したんですが・・・
D・ウィーストとアレンの掛け合いが観たかった^^
オカピー
2007年12月24日 02:26
viva jijiさん

>正攻法~難産
ほらっ、正攻法という以上に余り内容に踏み込まないスタイルですから
難産でしたね。
尤もこれにしても決して細かいところに踏み込んだわけではないですが。
姐さんに褒められれば言うことなしです。^^

>ジョン・キューザック
そりゃあ、自虐を演じさせればアレン本人がベストですよっ。
目に自信がまるっきり見えないところが良いですね。^^;
キューザックはモッサモッサか、あはは、面白い。
2008年07月28日 11:27
こんにちはー。さすが、5時間のTVミニシリーズもご覧になっているんですねー。私が観たバージョンは「章を繋ぐ時に使われた景色がない」ものだったようで、コメントを拝見すると、そちらも是非とも見てみたくなりました。しかし、少々体力がいりますねー。これが放送された頃も、丁度入院中だったので、今頃録画したのを観ることができました。ちなみに、私もこの作品には特にウッディー・アレンが傾倒しているなぁ…と感じました^^)。
オカピー
2008年07月28日 22:49
ぶーすかさん、こんばんは!

>景色
例えば、二人が落ち着いている時は凪いだ海、二人が激昂している時は噴火する火山といった具合でした。

>アレン
映画全体がベルイマン風なのは「インテリア」ですが、他の映画例えば「ハンナとその姉妹」にはベルイマン風生活付け、その他の映画における人物を追うカメラワークなど、にやりとすることが多いです。
2010年09月18日 13:20
TV版でTBさせていただきました。
5時間近くがきちんと滞りなく
放映されることに感謝しまして保存版作成。

時間のあるときは
(以前、CS録画のもの)、初期のベルイマンから
ゆっくり観直しているきょうこの頃です。
大好きな本作、ほんとうに好きなものは
なかなか文章にするのがやっかいなこと~(^ ^)
でも
エイヤッて勢いでとうとう書きました。
もうこれを書いてしまったら
ブログ完結、って気分。(笑)
オカピー
2010年09月19日 01:42
vivajijiさん、こんばんは。

>保存版作成
おおっ、珍しいですね。(@_@)
しかし、TVオリジナル版は貴重ですからねえ。
その気持ちよく解ります。^^

貴重と言えば、
何だか長いことオリジナル版が世界中で観られなかった
「ファニーとアレクサンデル」の、
そのオリジナル版がブルーレイとDVDで11月に発売だそうです。
少し高価(ブルーレイで9000円ちょっと)ですが、
買わないと後悔することになるかなあ。

>ほんとうに好きなものは・・・
正に。
僕の場合は「太陽がいっぱい」は完全に手抜きでしたし、
「冒険者たち」はそれなりに書いたものの、思い余って
何だかしっくり来なかったです。
他に「突然炎のごとく」とか「七人の侍」とか
手抜きのオンパレード。

>ブログ完結
そんなことを仰らずに、益々頑張ってくださいませ。<(_ _)>

来週WOWOWが放映する中村登特集ご覧になってください。
特に「古都」と「紀の川」。
「古都」は市川崑版がなかなか良かったけれど、その前の中村版も良いらしい。
「紀の川」は映画館で観て感激した文芸大作。

この記事へのトラックバック

  • 「叫びとささやき」「ある結婚の風景」「秋のソナタ」

    Excerpt: ●叫びとささやき ★★★★★ 【NHKBS】ハリエット・アンデション、カリ・シルヴァン、イングリッド・チューリン、リヴ・ウルマン出演。19世紀末、スウェーデンのとある地方の大邸宅に召使の女と二人だけ.. Weblog: ぶーすかヘッドルーム・ブログ版 racked: 2008-07-28 11:06
  • ある結婚の風景

    Excerpt:   他者と暮らすという現象そのものが「忍耐」の繰り返し。   それは血を分けた親子であっても今をときめく恋人同士であっても   現象としては他者とのそれであって同じこと。 .. Weblog: 映画と暮らす、日々に暮らす。 racked: 2010-09-18 13:08