映画評「個人教授」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1968年フランス映画 監督ミシェル・ボワロン
ネタバレあり

映画見始めの頃好きな女優は「シベールの日曜日」のパトリシア・ゴッツィ、「みじかくも美しく燃え」のピア・デゲルマルク、そして本作のナタリー・ドロンだった。エリザベス・テイラー、マリリン・モンロー、グレース・ケリー、オードリー・ヘプバーンといったハリウッドの大物女優でなく、大成することなく終った欧州の女優ばかりというのも今考えると面白い。しかし、夫々に輝くものを持っていた女優であると言えるとは思う。

今の電動自転車に気を持った程度のバイク(リトル・ホンダ)で通学している高校生ルノー・ヴェルレーが、妙齢美人ナタリーが同棲中のレーサー、ロベール・オッセンのランボルギーニ・ミウラ(子供時代に人気のあったスポーツカー)を持て余しているのを見かねて手伝って上げたのがきっかけで、恋人が連戦でそばにいないことに不満に思い気持ちが揺れ動いている彼女と宜しい仲になるが、最終的に彼女の為を思って別れていく。

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以前【自転車が活躍する映画10選】という記事を書く時に本作が頭に浮かんだのだが、どうも自転車ではなかったことに気付かされて没にしたことがある。しかも今回見直して別の勘違いをしていたことに気付いた。僕は幕切れのヴェルレーは泣いていたと記憶していたのだ。ところが、実際には凛とした表情でバイクを走らせ、哀愁を漂わせていたに過ぎない。どうも霧雨と涙がごちゃごちゃになったらしい。

50分過ぎに初めてかかった後繰り返される主題曲「愛のレッスン」が大好きでレコードを買って繰り返し聞いた。当時のフランシス・レイは神ががって良い曲を書いていたと思うが、僕が好きなのは一般的に人気のある「男と女」「ある愛の詩」ではなく、「白い恋人たち」「雨の訪問者」「パリのめぐり逢い」そして本作だったりする。

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閑話休題、監督のミシェル・ボワロンは「お嬢さんお手やわらかに」「殿方ご免遊ばせ」といった軽いお色気喜劇で感覚の良さを発揮していた人で、本作でもスポーツカーを追いかけ回す冒頭から実に軽妙である。彼の手紙を破くナタリーを物陰から見つめるヴェルレーを望遠で捉え、それに気づいた彼女に切り返すカメラワークも大変宜しい。勿論切ないラスト・シーンの長回しも優秀。

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なかなか大人の対応ができない昨今の作品群の男女と違って全員が大人の対応をするのが爽やかな印象に繋がっているが、中でもヴェルレー少年の燃えたぎっていたにちがいない情熱を抑えた対応は素晴らしく、だからこそ我々もあの幕切れに甘酸っぱい感慨を覚えるのだ。

因みに本作のヒットの影響もあって、「課外教授」「課外授業」「新・個人教授」「続・個人教授」「プライベート・レッスン」といった似たようなタイトルの作品が続々と作られ全部鑑賞したが、この中で断然良いのが「続・個人教授」で、本作以上に「肉体の悪魔」の香りがする佳作だった。他の作品はどうでもよろしい。

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この記事へのコメント

シュエット
2007年11月17日 12:52
P様TBありがとうございました。こんな胸キュンは、数十年たっても胸キュンです。この頃の映画って何度見ても同じ感覚が沸いてくる。これは若い頃見た感覚によるものなのか、それとも演出が優れているのか…「大脱走」なんてマックイーンのバイクの逃走シーンはドキドキだし、最後の射殺場面では胸が痛むし、各シーンごとに感情がわいてくる。「明日に向って撃て!」なんかもそう。本作のこの初々しさは何時見ても新鮮。しかし、それに続く作品まで観られてるとはさすが!笑ってしまうわ(笑)
やはり音楽とシーンが胸に刻まれてますよね。全く最近作で音楽や場面がずっとずっとある感覚ともなって残っているって無いんですよね。
オカピー
2007年11月17日 22:28
シュエットさん、こんばんは。

両方でしょう。
昔の作家は奇をてらわず質実に作りますから心を打つ。誰が何をやっているかよく解るように撮りますよね。
【映画】は70年代に終わったような気がしますね。今の、特にハリウッド映画は、【エイガ】ですよ。

>続く作品
「プライベート・レッスン」以外はまだ10代だったんじゃないでしょうか。

>音楽
映画音楽を最初に変えたのは「卒業」でしょうが、つまらなくしたのは「アメリカン・グラフィティ」でしょうよ。あれ以来既成曲を使うのが当たり前になりました。
インストの場合はメロディアスではない、効果音的なものが多くなっていますから、昔のように映画館から出る時に口笛でも吹きたくなることが全くないですね。やっぱり【エイガ】だ。(笑)
2008年03月01日 10:46
ホンダのモペットがとてもお洒落っす。ルノー・ヴェルレーとナタリー・ドロンのファッションも今でも参考になるし。ご指摘の通りフランシス・レイの音楽も効果大ですよね。しかし…邦題がいまいちで、もったいないなぁ。
オカピー
2008年03月02日 02:57
ぶーすかさん、こんばんは!

>モペット
そんな名前でしたか。
日本では販売されなかった気がするなあ

>邦題
あの頃はこれで全くOKだったんですよ。客も入ったし。
ただ内容は余り表現できていませんね。
最近の横文字オンパレードよりずっと良いですが、ここへ来てやや日本語タイトル復活の感じもあります。
2008年05月14日 00:30
オカピーさん、こんばんは。
この作品も、わたしは大好きな作品です。
>全員が大人の対応
大昔のTV放映、ゴールデン洋画劇場での高嶋さんの解説では、「最後に青年が大人の行動をとったとき、雨に打たれていた頬には涙が流れているのが見える」とおっしゃっていたのを今でも覚えています。
自分が幸せにできない、彼女が自分では幸せになれないことを知ったとき、愛するが故に去ることを選ぶなんて、なかなか大人でもできませんよね。
自分のことが可愛くて、自分の未来を大切にするから相手に答えを出さずに去っていくという人は多いかと思いますし、なかには、そういう選択をして置いてきぼりにした異性の周りをいつまでもうろつく人もいます。
自分の選択したものは、この青年のように大切にするべきだと思います。だから相手にも優しくなれるし、相手から完全に去っていくこともできるのではないかな?自分も相手も大切にするためには、恋を成就させるか、もしくは、つらいかもしれないけれど破局させるしかないのでしょうね。
オカピー
2008年05月14日 19:56
トムさん、こんばんは!

欧米では全く無視されている作品のようですね。
単にセンチメンタルな内容と理解されているんでしょう。
日本人はもう少し本作の持つナイーヴさに気づいているのかもしれません。甘っちょろいだけの作品ではないのは確かです。

>涙
物理的には涙が出ていないと思ったのですが、或いは実際に流れていたのかもしれませんし、或いは象徴的な意味で仰ったのかもしれませんね。

>選択
そうですね。
理性的な判断により勇気ある撤退をし、完全にそれを貫く高い意識が切ない。自ら身を引くと言っても、「椿姫」のような、ロドラマ的な別れではないような気がしますね。
2011年12月31日 23:39
オカピーさん、いつも楽しく交歓させていただいて感謝しています。最近は、ドロンのマイナー作品ばかりを取り上げておりますが、マイナーだからこそ、の面白さ、マイナーでもドロン映画史の位置づけには重要であったり、といろんな発見があります。
いつも、コメント交換でも貴重な意見をいただいたり、基本的には横道にそれっぱなしなので、オカピー評には助けていただいています。
また、来年もよろしくお願いしますね。
ところで、ミッシェル・ボワロン&アラン・ドロンの「学生たちの道」の記事をアップしたのでこちらにTBしました。
デビュー当時のドロンが高校生役で、フランスワーズ・アルヌールが年上の恋人の役でした。
「個人教授」に繋がるプロットも多かったように思いますよ。
わたしからすると、いろんな原型なるものが、たくさん発見できた作品でした。
では、また来年も楽しくやりましょう。
お体お大切にしてくださいね。
オカピー
2012年01月01日 22:10
トムさん

喪中につき、簡単に、今年も宜しくお願い致します。

>「学生たちの道」
昔、この作品を紹介していた雑誌を持っていましたが、どこかへ行ってしまいました。
1963年頃の貴重な「スクリーン」誌も学校に行っている間に捨てられてしまったんですよねえTT
いずれにしても、題名しか知らない未見作です。ボワロンは結構感覚の良い監督ですから、なかなか面白そうです。しかし、これを観るには、有料放送やNHKを待っているのではダメでしょうねえ。

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