映画評「東京日和」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1997年日本映画 監督・竹中直人
ネタバレあり

「無能の人」で<有能の人>ぶりを示した竹中直人が、写真家の荒木経惟が陽子夫人と共同執筆した同名私小説を映画化したドラマ。

旅行代理店に勤める妻のヨーコ(中山美穂)を素材に自費出版した写真集が一部の愛好家に認められるにすぎない写真家・島津巳喜男(竹中直人)は妻に食わせてもらっている状態だが、彼女は頗る情緒不安定で、かつ、自分を「おばあちゃん」と慕ってくる少年に女児の服を着せようとする変わり者、精神的理由による飛蚊症まで発生し、精神的には彼が支えているようなところもある。
 やがて新婚旅行で訪れた福岡県柳川を10年ぶりに再訪するが、間もなく子宮筋腫で帰らぬ人となる。

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実際の陽子夫人が倒れたのは1990年、43歳の時だが、映画では95年、34歳となっている。アラーキーは70年代からTVによく出ていてお馴染みであり、本作は相当の部分で創作と言って良いだろうが、二人が支え合って生きてきたというのは映画の通りなのであろう。

エンディングが感動的。二つのひまわりが寄り添うように咲いているショットをエンド・クレジットの間ずっと映し続けているのである。その前主人公が4年前のパーティーで故人となった妻が名前を間違えた理由に気づく場面から続く感銘である。

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柳川での一連のショット、特に街を散策するところがムードに優れて素晴らしいように、全体的にムードの映画である。従ってお話はさほどがっちりしていないわけだが、注目したいのは回想形式にしたことによる利点。
 夫人が既にいないことを観客は知っているが、死別なのかあるいは別の理由なのかはっきりしない。劇中の支え合いぶりを見るうちに、死別なのだろうと見当は付く。これがちょっとしたサスペンスとユーモアを生むのである。
 最初は柳川で彼が整髪して貰っている間にヨーコが消えてしまう。観客だけが事前に見た川べりから彼女が消え、情緒不安定だから観客は川にでも飛び込んだのかと不安にかられる。実際の彼女は船の中で眠っていることが判明する。次は、彼女が急いで横断する時に宅配便の車と衝突。軽い事故のように見えたがこれが死因だったのかと思わせた後、次の場面で包帯を巻いたヨーコが現れ、肩すかしを食らわせる。すぐに彼女が生きていることを竹中のセリフで解らせる呼吸が抜群で、優れたユーモアになっている。

勿論二人の夫婦関係の機微を味わうべき作品だが、僕はこうした遊び的な部分があってこそそれが生きてくると思うので、詳述した次第。脚本の岩松了の殊勲であります。
 固定撮影と移動撮影を使い分けた竹中の演出も良いが、人物に回り込む移動ショットの多用は些か気になった。

主人公の名前が面白い。日本映画の代表的監督二人・島津保次郎と成瀬巳喜男の合わせたに違いないが、誰のアイデアだろうか。そもそも「東京日和」というタイトルが小津安二郎を思わせたりもする。
 そう言えば、エルンスト・ルビッチ監督作品「生きるべきか死ぬべきか」の舞台版の話も絡み、映画ファンを喜ばせる要素が多い。

幕切れ近くで荒木経惟氏が車掌役で出演。

90年代版「夫婦善哉」でありますな。

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この記事へのコメント

2007年09月06日 16:29
破天荒でアグレッシブな作品しか印象にないから、言われないと分からないくらいアラーキー色が感じられませんでした。でもあのやたら広いベランダの家はアラーキーの家ですよね。ちなみに「無能の人」は大好きです。でもテレビでなかなか放送してくれないですね。また観たい作品の1本です。
オカピー
2007年09月07日 02:08
ぶーすかさん、こんばんは。

>アラーキー
そうでしたね。
本作の主人公は本人と違って全く売れていない感じですしね、せいぜい自己を投影した人物像程度なんでしょう。
最後に本人が特別出演していましたね。
しかし、あの奥さんはコントロールが難しそう。純粋なのか狂気が入っているのか、微妙な感じでしたね。

「無能の人」は私もご無沙汰。珍しい職業の中でもトップクラスに入るであろう石屋が主人公でしたね。

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