映画評「プルートで朝食を」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2005年アイルランド=イギリス映画 監督ニール・ジョーダン
ネタバレあり

「狼の血族」で日本初登場したニール・ジョーダンの演出に久しぶりにご機嫌になった。

北アイルランド国境に近いアイルランドの教会に捨てられたパトリックは養子に出され、女装好きの少年時代を経て本格的なオカマになり(キリアン・マーフィー)家を追い出され、ロンドンにいるはずの母親を探す旅に出る。
 ロック・バンドのリーダーと懇ろになるが、彼らはIRAの活動とも密接な関係があり利用されたことが判明、海を渡って英国に到着しマジシャン(スティーヴン・レイ)のパートナーになるが、IRAの活動家を恋人に持つ親友(ルース・ネッガ)に関係を割かれる。ロンドンのクラブの爆破事件に遭遇して容疑者となり、警察も呆れるほどの珍プレイの果てに釈放され、捜査官(イーアン・ハート)の紹介で働き始めた覗き部屋で実の父親である神父(リーアム・ニースン)から母親の住所を告げられる。

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単純だが紆余曲折の多い作品で、平均3分全36章に分けられたお話が多彩な音楽に乗って軽快に展開する。
 僕が気に入ったのは選ばれた楽曲のセンスと展開の軽快な呼吸である。この呼吸の良さが無ければ、主人公パトリックが悲劇的な環境に生まれ育ちながら他者が繰り返し使う「真剣」という言葉に逆らうように人生を楽観的に生きる姿に共感も生まれにくい。監督と編集者の殊勲である。

同じくらい貢献したと言える音楽について少し触れれば、本編の最初と最後に使われるのはルベッツの「シュガー・ベイビー・ラブ」。今でも時々聞くので懐かしいという感じはない。
 ウェスタンの名曲「ゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイ」もかかるし、ジョニー・プレストンの「悲しきインディアン」もあれば「慕情(ラブ・イズ・ア・メニースプレンダード・シング)」もある。コール・ポーターといった戦前のクラシック、ハリー・ニルスンやヴァン・モリスンの70年代ロック。駒鳥が進行役なのでシルヴァー・コンヴェンションの「フライ・ロビン・フライ」も出てくる。
 そう言えば、主人公が好きだったのはボビー・コールズボロの「ハニー」。バッファロー・スプリングフィールドの「フォー・ホワット・イッツ・ワース」をBGMにした主人公が女スパイとして活躍する幻想場面は愉快。そして、総仕上げはダスティ・スプリングフィールドの「風のささやき」。彼女の声に陶然となった。

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「ティファニーで朝食を」をもじったようなタイトル(原題・邦題とも)の元になった台詞も良いが、正体を隠して母と会った後故郷に戻った息子の「何と呼べば?」という問いに対し神父が「ファーザーと呼べ」と答える台詞に泣かされる。ご存じのようにfatherには神父という意味と父親という意味があり、後者の意味を込めて神父が発言したのは言うまでもない。

子供を産んだばかりの親友と共にロンドンで生活を始めた彼は三人目の子供を産む母親の姿を遠目に眺める。彼が生を受けて以来これほど幸福感を味わった時期はないにちがいない。主人公は最初小汚い感じだったが、最後には堂々とヒロインと言えるくらい綺麗になっていたように思う。

僕が☆☆☆☆を付けたのは本気です(ジョーダンではないということ)。

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この記事へのコメント

2007年08月12日 19:30
♪ワッシ、ワリワリ、ワッシ、ワリワリ~
・・・・シュ~ガーベイビィラァ~~~ヴ!♪

この暑いのに歌いながら登場させていただきましたっ。^^

もともとN・ジョーダンのセンスと語り口は好きでしたが
本作は特に饒舌さと華やかさに終始目を見張りました。
たしか私の昨年の上半期ベストワン!でございます。^^

同じく昨年の「僕を葬る」にも賞賛記事を私、書きましたが
両方ともストレートじゃない方々が主人公でしたのよね。
「ヘドヴィック~」もそうでしたがあの方々の濃い生き方に
元気をもらえる、そんな映画が増えてきたみたい。

ふつうの男女をうまく撮る作り手も少なくなったのかしらね。
ま、世の中がこうですから、ふつうの男女を描いても
スクリーンに機微と彩が出づらくなっているのも確かかも。
オカピー
2007年08月13日 03:00
viva jijiさん

細かく分けた章構成と音楽でご機嫌になりましたね。
平たく言えば、最近になく面白い作品でした。本文にも書いた女スパイの幻想と留置場から出すなと駄々をこねる場面は妙に可笑しかったなあ。
途中内容が重くなり始めるのですが、楽曲の使い方ですっかり飛んでしましました。ジョーダンなので、社会派的な部分は勿論冗談ではないのです(笑)が、本作ではあれは主人公に対する試練として用意された要素と考えた方が良いでしょうね。

多分本年のベスト10に入れることになると思うであります。^^

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