映画評「グエムル-漢江の怪物-」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年韓国映画 監督ポン・ジュノ
ネタバレあり

「殺人の追憶」で重量級の演出を見せたポン・ジュノの新作は、怪物パニック映画である。
 怪獣映画と紹介する雑誌等もあるが、怪獣映画では怪獣が事実上の主人公と考えるのが妥当であるし、本作はホラー仕立てでもあるので、その紹介は半ば誤りと言わねばなるまい。

2000年、とある研究所、アメリカ人上司の指示で韓国人所員が古いホルムアルデヒドをソウルの中心を流れる大河・漢江(ハンガン)に流し捨てる。
 6年後、川のそばで売店を営む老人ピョン・ヒボンを手伝う息子ソン・ガンホは眼前で起きた惨事に呆然となる。アンコウと両生類の混血みたいな大型の怪物が河川敷で遊んでいる人々を襲撃し、中学1年生の娘コ・アソンを連れ去られてしまったのだ。
 間もなく犠牲者を弔う会場に「怪物はウィルスの宿主(原題)」と主張する役人が現れ、怪物に触れた人々を隔離する。死んだと思っていたアソン嬢が生きたまま下水溝に閉じ込められていると知ったソンは父と弟パク・ヘイルと妹ペ・ドゥナと共に施設を抜け出して救出に向かい、怪物と対決する。

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これが物語の骨子であるが、「殺人の追憶」で戒厳令時代の韓国を批判したポンなので、アメリカの対韓国政策に対する批判をモチーフにした作品であることは間違いない。
 怪物はあるいは韓国社会に巣くう魑魅魍魎の暗喩かもしれない。うがった見方をすれば、拉致された少女が韓国市民で、怪物は拉致した北朝鮮と見做すこともできる。モチーフから考えれば、数年前に実際に少女を轢き殺したアメリカ軍の車両かもしれない。怪物に加えて、政府や官憲も市民の敵である。つまり、主題は「民衆は権力に唯々諾々と従うべからず、権力に屈するべからず」という主張と理解できる。

重厚で美しい映像は「殺人の追憶」と変わらないが、殊勲と言えるのは、不仲の家族が怪物に娘を奪われたことで離合集散を繰り返し最終的に再生する模様をブラック・コメディ風に描いたことであろう。韓国ロマンスの場合は喜劇性と悲劇性を水と油のように扱ってしまうが、本作のユーモアの扱いは重厚でトーンが乱れず、見事である。この流れの中で、終始眠ってばかりいるソンが他人と違う体質の為に麻酔をかけられても眠らないのは皮肉っぽく、笑わせてくれる一方で、「権力に従わない」という主題を体現しているように思われる。

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日本映画は平均的には韓国映画より優れている(と思う)が、本作のような爆発的な作品をなかなか生み出せていない。
 しかし、本作について、これだけの総合技術があるのなら、メタファーに塗り固めるのではなく、純娯楽的に、同時に、アンチ・ハリウッド・スタイルで作って欲しかったという思いを抱いたのも事実。具体性を欠いて解りにくいところが多いのである。例えば、最後の毒ガスがどんなものか正確に判らない以上、怪物が倒れて人間が無事なのが腑に落ちなかったりする。

半世紀前の日本の「ゴジラ」のように、韓国特撮映画(CGだから特撮ではないが、説明上の綾と理解されたし)の嚆矢となるか。

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この記事へのコメント

2007年08月04日 18:48
TBありがとう。
「グエムル2」が製作されるらしいけど、日韓合作で、ゴジラ君とグエムル君をたたかわせてみたいなあ。途中から、協力して、アメリカ軍をやっつけるという反米映画にして(笑)
オカピー
2007年08月05日 01:40
kimion20002000さん、こんばんは。

ゴジラ君は図体がでかくて火も吹くから、グエムル君の苦戦が予想されますね(笑)。しかし、意外と頭脳を持っているグエムル君は宗旨を変えてゴジラと結託、斥候として活躍、陽動作戦で引っ張り出してきた米軍をぐしゃという具合ですか。
しかし、グエムル君の人気次第では、いずれ復活しそうなゴジラ君と何かしらやりそうな可能性もありますね。
シュエット
2007年08月27日 09:33
お早うございます。
いやぁ、私、このリアルさとパワフルさに韓国映画の力見た気がしました。面白かったです。すこし見方違うかもしれませんが、TBさせていただきました。
オカピー
2007年08月27日 21:53
シュエットさん、こんばんは。

TB&コメント有難うございました。

面白かったですよ。
特に家族をブラックユーモアで描いたところが良かったです。韓国ロマンスのユーモアとは次元の違う重さがあって。

その一方で、風刺ではなく直球で観たいという気持ちもありますね。
2007年09月05日 05:32
おはようございます^^

私の本作に関する評価は、ほぼ序盤のグエルムの暴れっぷりとパニック演出への★になります。最初で心臓バクバクになったせいか、後半のドラマ部分は惰性で観ていた感もあったりして^^;
あ、もちろん、娘の遺影の前で泣きじゃくる家族の姿を観た瞬間にも、驚いてのけぞりましたが(笑)

前作よりコメディ色が濃いめですが、犯人を追いつめていく刑事と、怪物を追いつめていく家族といった構造的類似性、コメディとシリアスを使い分け融合させる演出法は近似値だったように思います。
おっしゃるように日本映画は娯楽大作はてんでダメで、マイナーな作品は相も変わらずチマチマとしておりますでしょうかね。

ポン・ジュノは資質として直球は撮れても撮りたがらないような気もします。本作でも十分に純娯楽的でアンチ・ハリウッド・スタイル。
「グエムル2」などやめて、王道ロマンスや韓国剣劇など、韓国映画のオハコ・ジャンルで、アンチ・コリアン・スタイルの傑作を作って欲しいと私は思ってます。

なお、ポン・ジュノの次回作は短編オムニバスの一本で、香川照之と蒼井優を主演に起用するらしいですね。
オカピー
2007年09月05日 18:11
優一郎さん、こんばんは。

台風が近づいてきたせいでこちらは大雨です。雷もしています。
裏の、根がむき出しの大木が倒れて我が家を壊さないかと心配です。他人の所有なので切り倒せない歯がゆさ。

記事での要求は、どちらかと言えば、本作に対する不満の表明というよりは一般的要求。何しろあれだけの合成技術があるなら、むしろ純粋に家族を守るといった単純な通俗的な映画が見たくなってきたという気持ちです。本作の真のテーマはやはり反米でしょうから。あの家族は韓国そのものではないかなあ。

純娯楽的作劇と言うとハリウッド的になりがちなので、あえてアンチ・ハリウッド的と付け足したわけですが、昨今のハリウッドにしてもこねくりまわした作品が多くてなかなかストレートな作品が少ないのが実情。
先の「宇宙戦争」も9.11で抱いたアメリカ人の恐れを、逃げ回る運命を背負わされたユダヤ民族への思いを強めているスピルバーグが描いた疑似純娯楽作で、バイロン・ハスキンの「宇宙戦争」のような単純明快さではありませんでした。
オカピー
2007年09月05日 18:18
続きます。

今まで見た韓国映画は100本足らずだと思いますが、真に実力のある監督は片手くらいかなという印象ですね。まだまだ泥臭い韓国風作劇に縛られて、そこから抜け出す監督が少ない。
翻って、邦画界は完全に洗練されていて、寧ろ泥臭い作品を探す方が難しくなっている反面、優等生的になり過ぎてパワー不足を感じます。北野武が破綻を恐れずに映画を作っているのが目立つくらい。邦画にも頑張って貰いたいですね。
2007年09月06日 09:45
おはようございます^^
台風のお見舞いに伺いました。

>大木が倒れて我が家を壊さないかと心配です。他人の所有なので切り倒せない歯がゆさ。

さぞやご心配でしょうね。
私はこのコメントを拝見して・・・
「優一郎が我がブログを壊さないかと心配です。他人なので切り倒せない歯がゆさ」
と深読みをしてしまいました^^;

演出意図やメタファーを深読みするのも、映画の楽しみには違いありません。ですが、深読みなど一切要らぬ純度の高い娯楽作品が少ないのが、なんとも歯がゆい昨今ですよね。
メッセージだテーマだなんてものは、はっきり言って犬にでも食われちまえばいいんです(笑)

メッセージは 「俺の作品は面白いぞ!」
テーマは 「映画って素晴らしい!」
そんな作品が観たいもんです(笑)
オカピー
2007年09月06日 20:33
優一郎さん

>深読み
それは考え過ぎです(笑)が、本作とはちょっと関連付けたつもり。
近くで道路が崩れて通行止めになっています。
やばいなあ。
明日記事が更新されていない時は家がつぶれたとお思い下さい。

>メッセージやテーマ
映画を作る技術があって初めてこれらは意味を成すもので、文学的なメッセージ性やテーマ性がそれに優先するような評価は映画評とは言えませんね。
実は映画史に残る作品は意外とそうしたものが絡んでいないものが多いですし、絡んでいてもやはり優れた技術が伴っています。
「第三の男」のテーマは一体何だったのか、ということを今こそよく考えてみたいですね。

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