映画評「冒険者たち」

☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1967年フランス映画 監督ロベール・アンリコ
ネタバレあり

アラン・ドロンは僕が映画ファンになった頃最も人気のあった男優であり、映画館やTVにひっきりなしに登場していたので自ずとご贔屓になってしまった。そんな彼の主演作品のNo.1を述べよと言われれば即座に「太陽がいっぱい」を挙げる。一番好きなのは何かと問われれば、本作「冒険者たち」と答えよう。しかし、本音を言えば、好きだからこそ非常に書きにくい。

ハリウッドで失敗したドロンは本国復帰第一作の本作で完全に巻き返した。それは誰も否定できない事実である。やはりフランス映画界はドロンの魅力の何たるかを知っていたのだ。共演のリノ・ヴァンチュラの憎めないキャラクター、ジョアンナ・シムカスの楚々とした美しさも抜群だった。

最初はヒロイン、レティシア(ジョアンナ・シムカス)が自動車のスクラップ処理場で鉄屑を探す場面。いきなりピアノと口笛でリレーされる主題曲(レティシアのテーマ)が流れる。これが文字通り全編のテーマになっているが、哀調を帯びて誠に素晴らしく、いつも観た後は暫く口笛を吹く日々が続く。

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工場の持ち主らしいローラン(リノ・ヴァンチュラ)は鉄屑を譲ってくれという彼女の頼みをにべもなく断るが、爽やかな雰囲気に惹かれて彼女をだだっぴろい野原に同行させる。そこで親友である飛行家マヌー(ドロン)は複葉機を駆ってローランの立てた狭い柱の間を潜り抜けた後、彼女を乗せて曲芸的な飛行を繰り返す。
 こうして三人は切っても切れない関係となっていく。二人の間に美しい女性が入って来ても、ローランとマヌーは互いを信頼し合っているので、固く結ばれた友情は決して崩れることはないのである。
 男女間の友情はあるのかと問われれば、ある条件下でありうると答えたい。例えば、男二人に女一人の関係において男同士の友情が恋愛感情に優る時である。「そんな馬鹿な」と思われるかもしれないが、僕は個人的に近い体験をしているし、本作の状況は正にそれである。女性への恋愛感情が友情を壊す話など、実際に近いとは言え、余りにも面白味がないではないか。この作品の第一の価値はそこにある。

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彼らは夫々夢を持っている。
 マヌーは凱旋門を複葉機でくぐり抜ける夢、ローランは400km/hの高速レーシング・カーを完成させること、レティシアは金属オブジェのアーティストとしての成功である。が、凱旋門は大きな旗に遮られて抜けることができず、ローランの車は完成間際の試走で炎上、レティシアは新聞で酷評され、三人の夢は尽く潰える。
 しかし、彼らはくじけず、次の夢即ち冒険をコンゴ沖の海に沈む数億フランの財宝探しに求める。こうして舞台をコンゴに転じ、墜落した飛行機を操縦していた元パイロット(セルジュ・レジアニ)が絡んで意外と早く財宝を発見するが、塞翁が馬、彼を見張っていたギャング団の急襲に遭い、レティシアは儚くも死んでしまう。

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レジアニを追放した二人は彼女を潜水服にくるみ水葬に付す。手を広げて沈んでいくレティシア。映画史上最も美しい葬儀シーンと言っても過言ではなかろう。レティシアを演じたジョアンナ・シムカスはこれ一作で映画ファンの記憶に残る女優となった。むべなるかな。

さらに二人は彼女の故郷エイクス島に親戚を訪ね、好感を覚えた従弟に1億フランもの大金を残す。ローランは彼女の夢を実現する為に要塞の廃墟を買い取り、レストランに改造しようという計画を立てる。
 マヌーはパリに戻って大金をはたく生活を続けても虚しく、結局島に戻ってくるが、後をつけてきたギャング団と攻防戦となる。要塞に残されていた古い武器を使って彼らは応戦するものの、マヌーが撃たれて死んでしまう。

この幕切れがいつもながら圧巻である。
 ローランが臨終間際のマヌーに「レティシアはお前と暮らしたいと言っていた」と嘘を言い、マヌーが「嘘つきめ」と笑って対応してこと切れる。互いを知り尽くした上での会話であり、これが空々しく見えないのはロベール・アンリコの爽やかさの醸成に配慮した抒情的な演出のおかげである。元パイロットがギャング団にマヌーを「別人だ」と言い張って人間らしさを発揮した後殺されるという脚本の効果も無視できない。

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彼らは夢に生きた。夢は青春の象徴である。レティシアに続いてマヌーという夢を失ったローランは、余生を追憶に生きるしかないだろう。本作が青春への鎮魂歌(レクイエム)である所以である。茫然とローランが立ち尽くす要塞をカメラは上空から俯瞰で捉え、ゆっくり回転しながら静かに遠ざかっていく、まるで要塞を青春の墓場に見立てるかのように。

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この記事へのコメント

2007年07月29日 18:07
あっ、アラン・ドロン、命!のトムさんが
いらっしゃられる前に、このような私めがコメントしたら
バチがあたるかも・・・・許してくださいね(^^;)

いい映画でしたね~~!!
プロフェッサーの文章でまざまざと各名シーンが
蘇ってきましたわ~~~!♪^^

あの頃は口笛をフィーチュアした映画音楽って
けっこうあったような気がします。
我が父の大好きな「誇り高き男」とかね。

最近の映画は映画音楽らしき音楽って私、
あまり意識に残りませんの~。
ほとんど、効果音的存在ですよね。
「めぐりあう時間たち」のF・グラスや「ピアノ・
レッスン」のM・ナイマンぐらいしか・・・。
その分を埋め合わせるかのように往年のヒット曲の
カヴァーかオリジナルそのものを流すのが多い。
音の使い方も比重が変わっちゃった。

口笛を言えば映画以外ですがB・ジョエルの
「ストレンジャー」のイントロは当初、シビレましたぁ~^^
オカピー
2007年07月30日 03:46
viva jijiさん

>トムさん
本稿を挙げる30分くらい前にいらしてちょっとタイミングがずれてしまったんですよ。
明日以降満を期して書き込んで戴けるものと思います。^^

中盤のイメージ映像の羅列などとりとめないような印象なのですが、実はよく計算されていましてね、ロマン溢れる名編です。「太陽がいっぱい」同様戦慄するくらい素晴らしい幕切れだったですよね~。

>最近の映画音楽
「アメリカン・グラフィティ」が既成曲を使った結果、一方で規制曲を使うタイプの系列と、パニックやアクションのように大げさなそれこそ効果音的な使い方をする系列とに二分され、印象に残る映画音楽、音楽が印象に残る場面が余りにも少ないですね。
ニューシネマ以降映画がつまらなくなった一つの原因になっていると思います。

>ビリー・ジョエル
あの口笛は痺れましたねえ。
LP「ストレンジャー」全体も良くて、20代の頃よく歌っておりましたよ。「ウィーン」なんて良かったな。
2007年07月30日 17:49
コメントありがとうございます。また、カット&ペーストのトラックバックありがとうございます。オカピー様の名文を堪能させて頂きました。
この映画「冒険者たち」には原作や脚本では表せない魅力がありますね。
映画でしか表現し得なかった作品、それは演出のロベール・アンリコ監督なのか。1967年と言う時代も重要な要素ですね。そして40年経った、今もブログ等で文字により魅力が伝えられていくのですね。
オカピー
2007年07月31日 00:33
blue1 totoさん、初めまして!

はい、ロベール・アンリコは絶大な人気を誇った監督ではないですが、いつも良い仕事をしたと思っています。ブリジット・バルドーが出た「ラムの大通り」も素晴らしく楽しい作品でしたが、ご覧になりましたか?

そうですね、原作や脚本ではあの素晴らしいイメージの積み重ねも、悲しくて胸が潰れそうになる音楽もないですから。映画的魅力に富んだ永遠の名作ですよね。
映画が大きく変わろうとしていたのが1967年、社会に冒険の気分が漂っていた時代ですね。
2007年08月01日 00:50
親愛なる姐様、バチなどと、めっそうもない。優れた映画作品は誰のものでもありません。それは人類の至宝なのです。ジャンジャン。

ところで、おっしゃるように、映像と音楽の一体感も映画ならではのものですよね。効果音といえば、すべて映像の効果なのかもしれませんが、人間の深奥にまで届く効果を生み出して欲しいものです。

それにしても本当に素晴らしい映画作品は、いつまでも輝き続けていますよね。最初にアラン・ドロンを好きになったのがこの作品でした。ゴールデン洋画劇場だったと思います(昭和50年か51年ころ)。解説されていた高嶋忠夫さんもレティシアの水葬シーンに涙が止まらなかったと言っていたことを思い出します。
ドロン・ファンとしては、この後ルイ・マル、メルヴィルと、当時の時流に乗ったと思いきや、そのすぐ後に、出演しても大きなメリットのないデュヴィヴィエの遺作に出演しているところが憎いんですよ。こういう生き様にファンをやめられない要素があります。
では、また。
オカピー
2007年08月02日 00:28
トムさん

私の最初のドロン体験は「太陽がいっぱい」だったと思います。兄と姉が観ていたのを一緒に観ました。小学生の幼い心にも響く音楽とドロンの美男子ぶりに、数年後に始まる映画への傾倒の端緒となった作品であり、俳優でした。

本作は映画ファンになってから観ました。あるいはゴールデン洋画劇場だったかもしれません。その後もことあるごとに観ましたね。音楽を聴きたくて、悲劇的な結末にも拘らずワクワクする気持ちがありました。

>デュヴィヴィエ
トムさんのように綿密に研究をしていませんが、再浮上し始めたドロンが余りパッとしなくなっていたベテランの作品に出演しても確かにメリットは少なかったでしょうね。「悪魔のようなあなた」は出来栄え以上にお気に入りの作品で、邦題の「あなた」も大変良いですね。貴方でも貴女でもないところが。
シュエット
2008年09月17日 17:40
>本作が青春への鎮魂歌(レクイエム)である所以である。
相かもしれませんね。この映画、録画してたのをやっと日曜日に観れての記事アップです。ずっと若いとき見て、メロディはよく覚えているけれど、私の中でそれっきりだったのはなぜだったんだろうと思いながら観てました。この映画に流れている「孤独感」は、例えば「イージー・ライダー」や「明日に向って撃て!」などとは違う孤独感のせいだったのかもしれないなって思いました。孤独を知っている者たちの映画。いわゆる青春映画にありがちな孤独さえ甘美なメロディとして描かれる、そんな甘い映画ではない。それが当時の私には大人の映画として移ったんでしょうね。
フランス映画だなぁってつくづく思う。
オカピー
2008年09月18日 02:14
シュエットさん、こんばんは。

この作品は十代から二十代にかけて何度も観ましたよ・・・って、TVなんですけどね。
だから、完全版を観たのは大分後になりますが、細かい点はともかく、とにかく二人の友情に感銘したものです。

青春への訣別という意味で、「華麗なる賭け」に本作と同じような印象を持っていますが、どんなもんでしょうか。

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