映画評「大列車作戦」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1964年アメリカ映画 監督ジョン・フランケンハイマー
ネタバレあり

先日「自転車が活躍する映画10選」という企画を行ったところ意外なほど好評だったが、鉄道が活躍する映画をやるなら(いずれやります)第一に思い浮かべるのが本作である。
 実話をベースにしているが、脚本・演出・撮影が三位一体になって為し得た戦争サスペンスの傑作と言って良いと思う。

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フランス市民が連合軍による解放に現実感を覚えた1944年8月、ルノワール、セザンヌ、ピカソ、ゴッホ、ロートレックといったルーブル美術館所属の名画1000億ドル相当を美術好きのドイツ軍大佐ポール・スコフィールドが祖国に持ち込もうと木箱に梱包させた上で列車に運び込む。
 その報を受けたレジスタンス鉄道員の三人、即ち、操車係長バート・ランカスター、ミシェル・ミロ、ポール・ボニファスらが妨害工作を働いて阻止しようとする。

これが全体の骨子だが、それだけでは面白さが伝わらないので、もう少し詳説する。

連合軍が午前10時にパリ近郊の駅に、高崎線で言えば浦和あたりに爆撃するので、彼らはそれまで列車の出発を引き伸ばそうと細工をするのだが、大佐は独断で出発、空襲の中を列車が出発する場面の迫力に手に汗を握る。
 機関士ミシェル・シモンがコインを給油管に仕掛けて故障に見せかけたのがばれて処刑される場面の断裁的な処理が良く、シモンが前夜酒場でコインを掴むショットを強調した意味がここに現れる。

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いずれにしても機関車は修理する必要があり時間稼ぎが出来るのだが、これを美術列車のある駅まで直行させる必要がある。その途上でイギリスの戦闘機スピットファイアに襲撃される大スリル。数百メートル先に短いトンネルが見え、そこまで急ぎに急ぎ、中へ入った瞬間に急ブレーキをかけ、外に出る寸前でストップ。見ているこちらが冷や汗を掻くほどである。

次にはもっとスケールの大きい、大昔に見た時にも一番楽しめた見せ場が待ち受けている。即ち、駅名の偽装で、そこに人間の陥りやすい方向観念の錯誤を加えたアイデアが優秀なのである。
 真っ直ぐ東に進んでいると思わせて実は少しずつ楕円状に方向を変え結局元の駅に戻そうというレジスタンス側の作戦で、ばれやしないかとヒヤヒヤさせる。
 作戦は成功、ランカスターらが飛び降りた無人の機関車が暴走して転覆、それに列車が追突する場面も大迫力で、連合軍の空爆を避ける為に美術列車の屋根を白く塗るサスペンスを経て、いよいよ終幕を迎える。

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ドイツ側にもレジスタンス側にも「人命より絵か」と疑問に思う人々もいて、そこに考えさせられる要素もあるわけだが、アクションを軸としたスリルとサスペンスを純粋に楽しむべし。

奥行きを意識した撮影も頗るダイナミックで、どでかいスクリーンで観ないと真価が発揮出来そうもないなあと思うショットや場面が多い。

主演のバート・ランカスターはアクロバット芸人という前身を生かした身軽なアクションを披露して好調。ジャンヌ・モローがレジスタンスに協力するホテル経営者として出演、出番は少ないながらも映画的な綾を生み出している。

フランケンハイマーというだけに、怪物級のお手並みでした。

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この記事へのコメント

2007年07月20日 07:50
TB&コメント有難うございます。私も大好きな作品、採点が厳しいオカピーさんには珍しい高得点で嬉しいです!
<鉄道が活躍する映画
ぜひやってくださいよー^^)。でも「シベリア超特急」という怪作から「愛する者よ、列車に乗れ」のような迷作などは除外されちゃうかなぁ?最近、「ハンネス、列車の旅」というフィンランドを舞台にしたアキ・カウリスマキ風の作品を観ましたが、面白かったです。入院していて観れなくて悔しいのが「夜行列車」です。再放送してくれないかなぁ。
オカピー
2007年07月20日 17:24
ぶーすかさん、こんにちは。

傑作中の傑作ですから10点でも良い。しかし、TVでは大画面でも限界がありますから、小さくても良いから映画館で観たい作品です。
感動=√画面の大きさ(高さ) というのがオカピーの公式です(笑)。

鉄道は自転車に比べて登場数が多いから、幾つかに分類しないととてもではないから収まらない。最低でも30本くらい選ぶことになるでしょうね。

「夜行列車」の再放送・・・可能性はありますけど。
私は映画館で2回観て、TVでも観ました。人生は正に旅・・・良いですよ。
豆酢
2007年07月20日 23:37
これはひょっとすると、クレマンが「鉄路の闘い」で取り上げた史実を元にしているのでしょうか。実は、先日「鉄路の闘い」を観て、打ちのめされたところなんです(^^ゞ。
プロフェッサーの解説を拝読するだけでも、緊張の連続で胃が痛くなってくるようです(笑)。大画面とはいきませんが、これはぜひとも鑑賞してみなければ。

鉄道が活躍する映画なら、私でも思いつきそうです(笑)。ぜひ取り上げてみてください。
オカピー
2007年07月21日 01:47
豆酢さん、こんばんは!

>鉄路の闘い
素晴らしい映画でしたけど、詳細は忘れてしまった。トムさんに怒られるけど。^^;
妨害工作などから考えても同一とは言えないまでも、一部が流用されている可能性もありますねん。^^)ゞ
いや、実際にはTVでも凄いですよん様(笑)。

鉄道関係は多いですよねえ、サスペンスに戦争にロマンスと。
2008年06月10日 01:33
オカピーさん、こんばんは。
ルネ・クレマン評を少しまとめてみました。ファンゆえ、声高に過大なクレマン評となっています。
まだまだ書くことはつきませんが、ひとくぎりということで・・・。
オカピーさんのご意見もご紹介させていただいてしまいました。
映画評「萌の朱雀」と用心棒さんとこの「ドイツ零年」のコメントの欄に直リンクさせていただきました。ロッセリーニとバーグマンの失敗についてです。事後報告すみません。
では、また。
オカピー
2008年06月10日 02:45
トムさん、こんばんは!

拙いコメントにつき、却って恐縮です。

先日、当方は用心棒さんとトムさんとイエローストーンさんの芸術論VS娯楽論を拝読させて戴き、それに関し何かコラムを書きたいと思いつつ躊躇しているところ。
一言で言えば、どちらが正しいか否かではなく、用心棒さんやトムさんのご意見に対し、イエローストーンさんの方が難しく考えてすぎているような気がしております。
2020年05月02日 20:23
オカピーさん、こちらにもお邪魔します。
「大列車作戦」観ました。
素晴らしいアクション作品でしたね。上記の豆酢さんのコメントにありますけど、この作品が製作配給されその公開の翌年にルネ・クレマンの「パリは燃えているか」が製作されていたことなど、「鉄路の闘い」というかルネ・クレマンとは、何か関係がある作品なのではないでしょうかね?

そんななか、最近の一本調子なんですが、どうしてもランカスターとドロンの関連に結びつけてしまうんですよね。
しかも、ここでのランカスターの共演者は1973年の「スコルピオ」にも一緒に出ていたポール・スコフィールドです。
そして、1972年の「暗殺者のメロディ」でドロンと共演したリチャード・バートンは、ポール・スコフィールドと親しかったようです。ドロンは、スコフィールドのことを後年のカイエ誌のインタビューで絶賛していましたし・・・。リチャード・バートンは、「暗殺者のメロディ」でドロンのことをある程度、評価していたようですし・・・。
全く関係のないところからは何も生まれないと考えると、これらのことにどんな関係があったか???わからいけれど、ドロンはこんな絢爛な生態系で、どんな影響を受けていったのか・・・本当に興味はつきませんよ。

ああ、果てしない・・・ですわ。

では、また。
オカピー
2020年05月03日 12:30
トムさん、こんにちは。

>「鉄路の闘い」というかルネ・クレマンとは、何か関係がある作品
>なのではないでしょうかね?

「鉄路の闘い」⇒「大列車作戦」⇒「パリは燃えているか」という流れ(がもしあるならば)を考えると、クレマンが「大列車作戦」を取り囲んでいるようで、面白いですね。
 映画、に限らず文化は、相互に関連し合うものと思います。先日ルネ・クレールの「自由を我等に」に取り上げましたが、製作会社は「モダン・タイムス」を剽窃のかどで訴えようとしたところ、クレールが留めたとのこと。「自由を我等に」ではチャップリンのギャグを相当借用してい、彼はチャップリンを尊敬していたのは確か。相互に影響し合ったのです。最近日本の若者に多いのですが、やたらにパクリなどと言うべきではありませんね。

以上の感慨は、トムさんの“ドロンはこんな絢爛な生態系で、どんな影響を受けていったのか・・・本当に興味はつきませんよ”というコメントからも想起しました。
2020年05月03日 15:59
>クレマンが「大列車作戦」を取り囲んでいるよう
ほんとにそうですね。
そして、この作品の凄いと思ったのは、まずはキャストでした。ジャンヌ・モロー、シュザンヌ・フロン、ミッシェル・シモン。フランスの往年の名優ばかり。驚きましたよ。

オカピーさんがおっしゃるようにアクション、サスペンスを主軸にした作品だと思うんですが、どうもテーマには考えさせられてしまって。シュザンヌ・フロンの美術館長は実在のレジスタンスの闘志だったらしく、この逸話の記録を残していて、この事は史実のようですし・・・。

>ドイツ側にもレジスタンス側にも「人命より絵か」と疑問に思う人々もいて、
元来、文化・芸術は、人間を救済するものであるはずなのに、この作品では逆にそれを巡った争いになってしまいました。
ナチスは、武力で不利になっている戦況で、敵国の尊厳(芸術)を奪って優位に立とうとしたんでしょうね。パリ焦土化の計画も、単なる都市破壊ではなく、同様の目的だったんだと思います。しかし、人間の尊厳とは命を超えるものなのか、否か?考え込んじゃいますよ。

ともあれ、ドロンの「パリは燃えているか」への出演は必然ですよね。クレマンの「鉄路の闘い」と尊敬するランカスターの「大列車作戦」を考えれば、このオファーに飛びつくのは人情だと思いますよ。(笑)

あっそれから、わたしの記事でデュヴィヴィエのスクリーンプロセスの内容の箇所にオカピーさんの記事を直リンさせていただいています。事後報告ですみません。

では、また。
オカピー
2020年05月03日 21:03
トムさん、こんにちは。

>ジャンヌ・モロー、シュザンヌ・フロン、ミッシェル・シモン。
>フランスの往年の名優ばかり。

先ほど調べてみたら、フランスとイタリアとも合作関係があったということによる豪華共演陣だったわけですね。

>文化・芸術は、人間を救済するものであるはずなのに、
>この作品では逆にそれを巡った争いになってしまいました。

論点が少しずれますが、一大事になると文化・芸術がないがしろにされるのが世のならい。今回のコロナ騒動でも、日本政府の芸術や文化に対する冷淡さが目につき、僕は腹を立てています。特に欧州のこの辺りのケアが凄いですよね。
 ただ生きているだけでは意味がないということを考えると、文化・芸術は大事。だから、この作品に出て来る「人名より命か」という疑問は愚問に近いようにも思いますね。その疑問は分らないわけではないですが。

>オカピーさんの記事を直リンさせていただいています。

却って忝く思います。今後ともよろしくお願い致します。

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