映画評「涙そうそう」

☆☆★(5点/10点満点中)
2006年日本映画 監督・土井裕泰
ネタバレあり

昭和中期に歌謡映画なるものが流行ったが、夏川りみの大ヒット曲をモチーフに作られた本作も形式こそ違え、発想的には近い。

監督は「いま、会いにゆきます」で大いに首を傾げさせてくれた土井裕泰なので、大きな期待はしない。

舞台は沖縄本島、軽食店を開く夢を持っている21才の若者・妻夫木聡は、再婚した母の夫の連れ子だった5才年下の<妹>長澤まさみを、ガレージを改造した自宅に迎え入れる。十余年前妹の父は出奔、母も間もなく病死し、離れ小島に住む母方の祖母の下で二人は仲良く暮していたが、その後青年は夢の実現の為に高校を中退して本島に出、汗だくになって働いているのである。

これが全体の設定で、現在と少年時代を描く序盤のカットバックは些かぎこちない感じもあるが、そう悪くない。

その後は兄が自分の夢だけでなく、親の代わりとして妹の進学の為に懸命に体を張り、妹はそんな兄に引け目を感じながらも慕っている・・・そうした模様がそこそこ感じ良く描かれているので、TV畑の土井監督も「いま、会いにゆきます」より進歩したかと思われたが、90分過ぎの台風襲来で全てがパーになる。妹の部屋で破れた窓ガラスに襖を貼り付けた兄が倒れ、呆気なく死んでしまうのである。

泣かせる映画の何が悪い、というコメントがあった。
 しかし、この作品を批判する人の多くは「泣かせる映画が悪い」とは言っていない。手段もしくはその用い方が悪いと言っているのである。現象としての「死」をそこに置けば観客は泣く、という映画ファンを馬鹿にした展開が問題なのである。本作の死の扱いは唐突で、おざなりに過ぎる。
 自分の家族・知人が死んで泣かぬ人は殆どいないが、演出により泣いているわけではないように、そういう扱いの<死>によりもたらされた涙は映画的な感動とは関係ない。死はおざなりにもなおざりにも扱うべきではないし、兄妹愛をしっかり描けば十分に泣かせる映画は作れる。お互いに支えあって生きてきた義理の兄妹だからこそ、その絆は本当の兄妹より確固たるものであるはずで、それを物語の支点にしない手はないだろうに。

それ自体は脚本家(吉田紀子)のせいであって監督の責任ではないが、完成した作品の最終責任を負うのが監督。汚名を着るのが嫌なら、今後きちんとした作品を作ってそういう仕事を任せられない監督になるように精進すべし。

兄妹の 愛情の機微 空しくも 台風の風に 粉々に散る

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この記事へのコメント

2007年07月16日 15:35
センセー!
本作、観てませんがよろしいでしょうか?^^
質問でぇ~~す!

>全てがパー

っていうのは、今までの兄と義妹の苦労が、パー・・・
なのでしょうか? または
映画としての出来が、パー・・・なんでしょうか?^^;
(もしかして、両方かや!・笑)

>泣かせる映画の何が悪い。

最初から泣きたいために観る映画と、映画の内容がエピソードが
関連・醸成して必然的に涙が出て泣く映画とは全く異なりますね。

「これは泣くための映画」
「これは笑うための映画」
「これはビックリするための映画」
私はこんなふうな観方で観たことないわぁ~。^^
・・・思わず、涙が出てしかたがなかった。
・・・思わず、笑っちゃいましたよ~!
・・・いいんや~、ビックリしましたよ~!
映画は、これが、いいのにね。
2007年07月16日 20:23
TBありがとう。
なかなか、いい短歌じゃないですか(笑)
オカピー
2007年07月17日 03:14
viva jijiさん

>全てがパー
基本的には映画として積み上げてきたものがパーという意味です。^^;
勿論死んでしまうので、苦労も半ば水の泡なんですが、彼は死ぬ前に妹の成人式用に着物を買っているんですね。

>私はこんなふうな観方で観たことないわぁ~。^^
右に同じであります。
話を調べて映画を見たことなどないです。アウトラインすら知らないことも多く、タイトルから想像したものと実物が違ってびっくりなんてこともよくあります。それが良いんです。
本作などタイトルを見れば内容がほぼ理解できてしまいますけどね。
オカピー
2007年07月17日 03:16
kimion20002000さん

>短歌
鏡花ならぬ、狂歌という話もありますけど(笑)。

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