映画評「夏の夜は三たび微笑む」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1955年スウェーデン映画 監督イングマル・ベルイマン
ネタバレあり

イングマル・ベルイマン最初の傑作ではないかと思う。それまでの作品でも優れた感覚を示しているが、他に代え難いという印象を覚えるほどのものではない。

19世紀末か20世紀初めのスウェーデン、中年弁護士グンナール・ビョルンストランド、その処女妻ウーラ・ヤコブソン、先妻との間にできた神学生の息子という一組と、軍人とその妻マルギット・カールクヴィスという一組が、女優エヴァ・ダールベックのパーティーに招待される。

弁護士と軍人は共に女優の愛人であり、ウーラとマルギットは親友同士、息子は小間使ハリエット・アンデルソンにモーションを掛けて煩悩を消失しようとするが果たせない。
 そんな彼らが思惑を持って一同に会したらどうなるかというお話で、ジャン・ルノワールの秀作「ゲームの規則」を思い起こさせる構成だが、僕はどちらもシェークスピア「真夏の夜の夢」の影響下にある作品と考えている。ウッディー・アレンの「サマーナイト」も同様で、欧米における同作品の影響の大きさは計り知れない。尤も、ベルイマンに心酔しているアレンの「サマーナイト」は本作へのオマージュと思って差し支えない。

さて、「真夏の夜の夢」では魔法により恋の行方があらぬ方向に進むわけだが、本作の魔法は<ワイン>である。
 ワインが関係者の心を解きほぐし(たように意識的に思い込み)、自殺を企てた神学生の息子は前から互いに懸想していた処女妻と駆け落ちを決意、マルギットに誑かされてロシアン・ルーレットに挑戦する羽目になった弁護士はエヴァと寄りを戻すしかなくなり、軍人夫婦は愛を確認、落ち着くべきところに落ち着くのである。

画像

最後の三分の一に相当するパーティーの部分が各人の思惑が交錯し抜群に面白い。
 実は殆どが女性陣の仕組んだ罠であるわけで、<魔法>の役目を果たすワインは<だし>に過ぎない。翻弄される男性陣の中でも、危うく命を失う羽目になる弁護士は独り道化師である。

駆け落ちをするきっかけとなる仕掛けベッドの伏線的扱いなど誠に上手く、その説明役だった小間使ハリエットが御者に結婚を迫る辺りの野趣も見事。
 白夜独自の狂おしいムードに乗ってたくまざるユーモアが広がり、56年度カンヌ映画祭<詩的ユーモア賞>受賞にはさもありなんの印象あり。

これをアメリカ映画が理に落ちる形で映像化したら頗る嫌味な話になり、イタリア映画や日本映画なら悪趣味になる。フランス映画なら問題なくこなせるだろうが、北欧ならではの厳粛なおとぼけといったムードは難しいかもしれない。けだし逸品と言うべきであろう。

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この記事へのコメント

2007年06月05日 23:35
TBありがとうございました。こちらからもTBさせていただきました。
ベルイマン映画のうちでも,これは私の好きな作品です。これほど乱脈を極める色恋物語を,優雅でスウィートに処理する感覚はさすが北欧映画という感じですね。
おっしゃるとおり,フランス映画はこの種のものは余裕でしょうね。アメリカ映画は意外に不道徳を許さないので,理屈っぽく正当化してしまいそう。日本映画ではドロドロの情話になってしまいそうで怖いです。(^^
オカピー
2007年06月06日 17:23
ジューベさん、こんばんは。

色気たっぷりに描いても猥雑にならないのが北欧、特にベルイマンならではの個性ですね。私も大好きな作品です。
神の問題を深刻に考えるグループの作品も好きですが、本作の持ち味はなかなか類がないですからね。

アメリカでもドイツから渡ったエルンスト・ルビッチあたりなら作れそうですが、逆に洗練が行き過ぎてしまうかも。
2008年07月25日 09:53
ベルイマンでこんなにコミカルな娯楽作品を作っていたとはと、驚きいた作品です。なるほど、アメリカやフランスで作られていたら、またかなり違ったものになりそうですね…。ところでイタリアで映画化されたら、あっけらかんとした明るいシェークスピアそのままになってしまったのかなぁ…。やはり「白夜」の北欧が舞台というのがミソですよね。
オカピー
2008年07月25日 23:49
ぶーすかさん、こんばんは!

ベルイマンは結構コメディーを作っていますよ。
中でも未公開作「悪魔の眼」は傑作であ~ると思っています。
これを未だに正式輸入していない配給会社は何をやっとるんじゃろか。

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  • 『夏の夜は三たび微笑む』 ~白夜に交錯する恋愛模様~

    Excerpt: 1955年/スウェーデン/104分監督・脚本:イングマール・ベルイマン撮影:グンナール・フィッシャー出演:グンナル・ビョ Weblog: キネマじゅんぽお racked: 2007-06-05 23:11
  • 「夏の夜は三たび微笑む」「第七の封印」

    Excerpt: ●夏の夜は三たび微笑む ★★★★★ 【NHKBS】「愛のレッスン」のグンナール・ビョルンストランド、ウラ・ヤコブソン、エヴァ・ダールベック出演。弁護士フレデリックは若くて美しい妻がいるにも関わらず、.. Weblog: ぶーすかヘッドルーム・ブログ版 racked: 2008-07-25 09:30