映画評「三本指の男」

☆★(3点/10点満点中)
1947年日本映画 監督・松田定次
ネタバレあり

戦後GHQがチャンバラ時代劇を事実上禁止したので、時代劇で食っていた東横映画(現・東映)は大いに困った。そこで代替として登場してきたのが冒険ものや探偵ものである。本作は看板スター、片岡千恵蔵が金田一耕助に扮したシリーズ第一作で、原作は「本陣殺人事件」。原作との差異は指摘しないが、元来そういうレベルで作られていず、市川崑の金田一シリーズと比べれば児戯に等しい。

米国から帰国した金田一が恩のある久保家に訪れる。当主が養女として引き取った姪の克子(風見章子)が、名家の一柳家の長男・賢造に嫁ぐことになっているのだ。女工時代の親友・白木静子(原節子)も祝いに訪れるが、祝言直後の深夜に密室状態の部屋で新婚夫婦は殺されてしまう。

事実関係としては、克子が昔ある男と関係があったことを告げる脅迫状めいたものが届き、事件の直前にその男の成れの果てと想像される三本指の男が周囲をうろつきまわっている、ということが挙げられる。しかし、これから推理してくださいと言われてもとても無理じゃね。

画像

問題点ばかりだが、決定的なのは描写のバランスの悪さである。最初30分は布石を置く部分だが、事件への伏線は二つの脅迫状と三本指の男の出没以外になく、ひたすら封建的な因習に縛られて動きが取れなくなっている旧家の状態を説明するだけ。ところが30分過ぎに事件が起ると、金田一は静子を助手に付け、碌に調べもしないのにあれよあれよという間に事件を解決してしまう。
 73分しかないのに、背景の説明に30分も掛け、事件をほんの数分程度描いた後、残り30分は専ら事件解決に当てるというのは、どう考えても探偵ものとして全くバランスが取れていないと言わざるを得ない。バランスが悪いどころか、推理過程が殆ど抜けている。

原作ではどう扱われていたか記憶がないが、警察が帰国したばかりの新米探偵に対して神のように崇めて無条件に協力するのも実に奇妙だし、それ以上にすんなり行き過ぎて面白味が足りない。

水車と琴の糸を使ったトリックはなかなか興味深いが、その前提となる密室が全くいい加減な設定で、ミステリーとしてナンセンス千万。「まだ遅くない」という二番目の脅迫状はインチキ描写に支えられたもので、僕はこういう映像上のインチキは大嫌いである。

ネタばれ気味だが、金田一に多羅尾伴内が絡んだようなお話になるに至って、もはや語る元気も失せる。

さて、上の写真は誰でしょう? 「白い恐怖」のイングリッド・バーグマンではありません。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

優一郎
2007年06月22日 02:08
「フラガール」のついでに・・・と言っては何ですが、こちらにもコメントさせていただきます^^

本作は数年前に観ました。作品評価はプロフェッサーとほぼ同じでございます。ただし、これくらいのレベルだと、もう呆れたり笑ったりして楽しむしかないですよね。
多羅尾伴内シリーズも何本か観ておりますが、オールド・ファンにとっては、時代の思い出とともにお宝なのでしょう。

写真の主は「永遠の処女」。
つい先だっても、妻との話題にのぼったばかりでした。なるほど、映像の質感まで「白い恐怖」のバーグマンのようですね(笑)
優一郎
2007年06月22日 02:09
千恵蔵や高倉健の金田一は洋装で、珍品の部類になるでしょうか。
プロフェッサーは石坂浩二で譲れないのでしょうが、実を申せば私めは古谷一行イチオシ派^^;
角川で「犬神家」が作られた時期からいくらか遅れて、古谷主演のTVシリーズがスタートしました。現在WOWOWで放送中。私は30年ぶりに観ております。

映画に比べれば、撮影、美術、編集、役者のランク・・・どこを取っても適いません。ただ一点、TVでは連続活劇としての面白さが生かされております。新たな殺人で謎が深まって第一回が終了といった具合で、否が応にも期待が膨らみます。
しかも、尺がたっぷりですから、私のような横溝ファンには嬉しいくらい原作にも忠実。TVシリーズ開始当初に横溝翁も「石坂ではハンサムすぎる。古谷がピッタリ」と言ったとか言わないとか。状況に応じてリップ・サービスをしていた可能性はありますが(笑)
オカピー
2007年06月22日 05:29
優一郎さん

ピンポ~ン♪
日本で「白い恐怖」が公開されたのは51年なのですが、既に作者は御覧になっていたのか何かで読んだか、「白い恐怖」の設定を戴いているんですね。最後は眼鏡を外して美しさをアピールする(「白い恐怖」は中盤)。

>多羅尾伴内
当時の感覚では本格推理は映画にならない(これは事実でもあります)ということだったのか、どうしても冒険要素が加わり、金田一というより明智です(笑)。

>金田一
はい、石坂浩二に限ります(笑)。
しかし、古谷一行は間違いなく、私にとっても次善です。もし石坂版がなければもう文句ないところでしょう。
兵ちゃんが良いのはやはり本当のインテリであること。品格は顔に出ますから。
2007年06月22日 18:39
プロフェッサー、こんばんは。

市川+石坂版からファンになった私には耐えられない内容のようですね。
千恵蔵センセイの容姿もそうですが、本編のデキとしても・・・。
気分によっては大爆笑しながら最後までみれるかもしれませんが・・・。

あと、上記のコメント内容に私もふれさせていただきますと、優一郎さんには失礼ながら、当然、私も石坂浩二に限ります。古谷の作品は一番多いと思いますので当然、けっこうみてます、古いシリーズも今、手にいれ、みようとしています。見ることに抵抗はないのですが、内容とは別に俳優の好みでいうとバツです。個人的に好きではないのです、古谷一行。金田一だから彼でも見ているというのが正しいところです。
長くなりましたが、また。
オカピー
2007年06月23日 03:27
イエローストーンさん、こんばんは。

古谷一行はたくさん放映されたのですが、私が忙しい時期でしたし、TVのない時代とも重なっていますから、それほど観ていません。初期の何作かでしょうか。優一郎さんとは逆で、何回かに分かれていたのが苦手だったなあ(結構気が短いほう、笑)。
しかし、推理小説に再び関心がもて始めましたので、古谷シリーズも見たいような気がします。

稲垣五郎は石坂耕介を踏襲している感じがしますが、インテリ性に疑問が残るのと、CGがあったりでどうも。ビデオ撮影というのがそもそも弱くて、その辺りでも古谷版はフィルム撮影ですので良いでしょう。

片岡版は後学の為に一本がとこ観ても面白いのではないでしょうか。
2007年06月23日 08:38
プロフェッサーおはようございます。
なるほど、やはり本編好きとしては、フィルムがいいですよね。また、原作を忠実に描くにはTVの連続ものとして描くしかないので、その点、初期の古谷版は原作ファンには内容的には評価が高いようですね。
私も基本は1本ものですね、そこにいかにまとめるか、原作もよみますが、やはり映画好きなので。ただ後期の古谷の2時間もの、内容的には初期ほど評価されてませんが、他では映像化されていない中短編の原作も映像化しているのでけっこうみました。ただやはり古谷は好きではないな。
あと稲垣はビデオですが、プロフェッサーとは逆にCGがいいんです。やはり、昔の東京や、女王蜂の月琴島はCGでなくては描けなかったでしょう。それに、内容もけっこうデキがいい。吾郎ちゃんは抵抗あるのですが、中短編の東京事務所を開いている頃の原作が好きな私はこのCGを活用して映像化してほしいのですが、無理でしょうね~。
2007年06月23日 08:46
つづけて、すみません。
フジの鶴太郎版もみているはずなんですが(意外と本数おおいんですよね、それとキャストがけっこういい)、よく憶えていないんですよ。以前中井貴一がスーツで犬神やったのは怒りのせいで妙に憶えているのですが(笑)。
あと昔、10チャンで小野寺昭がやっていたのが、内容は憶えてませんが、すきでしたね。おそらく兵ちゃんのイメージに近かったからかもしれません。
おっと、本編の話ではなくなってしまいましたね。

では、また。
オカピー
2007年06月24日 03:45
イエローストーンさん

TVで金も映画のようには掛けられないでしょうから、安くなったCGも悪くはないのでしょうが、偽をいかに本物らしく見せるか工夫したことが映像表現の技術を上げて行ったと考える私は、それ以外に考えられないところまではCGを使って欲しくないんですね。

動かないもの(風景等)のCGは基本的には賛成なのですが、やはり私は市川版の素晴らしい実写のイメージが強いです。あの映像こそ本当の本物。ビデオではあのクラシックな感じは絶対出せないなあ。

稲垣版は先日「悪魔が来たりて笛を吹く」を適当に観ただけですので、全般的なことは言えませんが。
私は薄っぺらな印象しか持てないビデオ撮影は嫌いでして、TVドラマはもう30年間基本的に観ていないです。最後に観た連続ドラマは多分「青春の証明」です。
2007年06月24日 06:02
この話題、私ももう少し混ぜてくださいませ^^

古谷金田一は、確かに野卑な印象がありますね。私が古谷一行を推す理由は、物理的に一番彼を観ていることで生まれた愛着であって、役者のランクからして石坂金田一には及ばないと観るのは当然でしょう。
「MASH」にしろ「がんばれベアーズ」にしろ、私は映画版よりも後発TVドラマに、より親近感が働いてしまうんです^^;

話題に出ている小野寺金田一。そもそも、疑惑の髪型だった小野寺昭が?長髪のカツラをつけて金田一を演じる姿に、私は非常に違和感をおぼえました^^;
石坂金田一も、一部カツラでの芝居がありましたよね?
小野寺昭は確か、明智も演じているはずで、「殿下」の愛称があった彼には、都会的な探偵がイメージにふさわしい気もします。

他では、中尾彬の金田一。重々しくニヒルな雰囲気は、とぼけた味わいがある原作イメージから遠い印象。
鹿賀丈史、トヨエツの金田一は、地毛で演じられるのは良いけれど、長身でシャープすぎる感じ。
2007年06月24日 06:03
「風采の上がらない男」と原作には繰り返し出てきますから、そのイメージを大事にするなら渥美清、片岡鶴太郎、西田敏行の金田一もアリだと思います。ただ、片岡鶴太郎ではいかにも物足りなかった。実は、西田金田一が原作のイメージに最も近い風采なのではないかと私は思っています。

中井貴一、稲垣五郎の金田一は未見。想像するに、やっぱり二人とも明知小五郎タイプのような気がしますけれど、どうなのでしょう?

古谷のTVシリーズで、一番のお薦めは「悪魔が来たりて」です。
映画版より、フルート曲の物哀しさが際立っており、沖雅也が非常にハマリ役でもあります。
また、ミステリーの要素は弱いものの、エログロ路線の「三つ首塔」が個人的には好み。
森村誠一のシリーズでは「人間」、「野生」よりも「青春の証明」が圧倒的に面白かったですよ。最も地味な印象なのが一般的なのでしょうが、原作も一番好きでしたね。
2007年06月24日 06:06
蛇足ながら、もう一言^^;

昨今のTVドラマを見ない理由は、やっぱりヴィデオ映像だからという理由が大きいです。私も。
私にとっては愛着もひとしおな「怪奇大作戦」が、キャストも一新して新シリーズをTV放映しました。
名だたる演出家たちの名前に引かれて観たけれど、ヴィデオ映像ではあのオドロオドロしさが現れていませんでした。しかも、CGを使われては・・・^^;
結局は、オリジナルの特撮の素晴らしさを改めて認識させてくれたドラマとなりました。
2007年06月24日 10:46
おはようございます。
やはり画に深みというか、重みともいうんでしょうか、ビデオではほんとに薄っぺらな画になりますよね。そこは分かります。お二人に同感です。
ただ、先述のように、私も当然フィルムのが好きですが、ビデオ撮りのTVドラマをみることは別に抵抗はないんですよね。
あと、金田一も好きなので、誰がやっても一応みます、最近では12の上川隆也(2本でけですが)もけっこう好きです。これも2枚目すぎますけど。ただ、兵ちゃん意外は私の場合、誰がやっても抵抗があるので、画とか金田一より(スーツ姿などは論外ですけど)、内容を重視してしまいますね。その場合に稲垣版は、なかなかいいデキをしていると思います。最初はよくみずにバカにしてたんですけど・・・。
私は記事で上川版の「獄門島」・稲垣版の「悪魔が来たりて」「八つ墓村」そして市川版との比較記事などを3つ書きました、お暇があれば今度お目を通しいただければと思います。
優一郎さんコメントで、古谷の「悪魔が来たりて」みたくなりました、あと久々に西田版も。
また、千恵蔵センセイの「獄門島」の記事も楽しみにしております。
では。
2007年06月24日 11:40
追伸。
私の金田一もののTVドラマに関する記事は、プロフェッサーがこだわる映像的評価は皆無で、あくまでも内容、ストーリーについて語っており、かなり思い入れが深くなっていますので、重苦しいのですが、まあ、お暇な時に、よろしければ、参考程度に・・・。
では。
オカピー
2007年06月25日 03:02
優一郎さん

>石坂浩二の鬘
後期の作品でしたね。急遽撮影になったので間に合わなかったようです。リメイク版「犬神家」は地毛らしい。

私は生意気盛りだったこともあって、松竹の「八つ墓村」はかなりいい加減に観てしまった。今となれば勿体ない。渥美清は名優なれど、寅さんのイメージが強くインテリには見えませんからね。まだ若かったんですよ。^^;

森村誠一の「人間の証明」は新鮮でした。ああいう構成の作品は(今でこそ映画で腐るほどありますが)珍しくて・・・ポーランド映画の「影」があったくらいでしょう(1956年ですから、凄い!)。但し、映画版は凡庸のきわみでした。映画なら「野性の証明」のほうが上。
「青春の証明」はTVミニシリーズで、楽しみに見た作品。多岐川裕美がブレイクした直後で、興味がありましたから(笑)。恐らくこれを最後にTVシリーズは観ていないはず。
オカピー
2007年06月25日 03:15
イエローストーンさん

80年頃には既に推理小説に飽きてしまっていて、横溝氏に至っては30年くらい読んでいないでしょう。
最近また興味が出てきて、古典を中心に読んでみたいなどと思っていますので、貴ブログの記事も参考に致しましょう。

片岡耕助の「獄門島」は公開時は前後編仕立てで2本の映画だったのですが、今回の放映版では一本(それでも2時間ない)として放映されます。あの頃は結構流行ったようです。ちょっとした連続活劇気分だったのでしょうね。
今度は失敗しないようにしないとね。

この記事へのトラックバック

  • <三本指の男> 

    Excerpt: 1947年 日本 73分 監督 松田定次 脚本 比佐芳武 撮影 石本秀雄 音楽 大久保徳次郎  古川太郎 出演 金田一耕助:片岡千恵蔵    白木静子:原節子    一柳糸子:杉村春子 .. Weblog: 楽蜻庵別館 racked: 2007-07-01 10:52
  • 三本指の男 #903

    Excerpt: 1947年 日本 「本陣殺人事件」の片岡千恵蔵版。中尾彬と田村高広のバージョンはキモい作りでしたけど、なかなか良かったです。先にあっちを見ているんで、こちらはなかなか強引な展開もありましたが、ちゃん.. Weblog: 映画のせかい2 racked: 2007-07-06 07:31
  • 三本指の男

    Excerpt: 戦後すぐの映画です。ミステリーなのに、緊迫感よりもほのぼのとした印象の方が強く残っています。主人公の二役というのは、「怪人二十面相」をヒントにしたのでしょうか? Weblog: 映鍵(ei_ken) racked: 2010-06-22 20:47