映画評「アンリ・カルティエ=ブレッソン 瞬間の記憶」

☆☆★(5点/10点満点中)
2003年スイス=フランス映画 監督ハインツ・ビュートラー
ネタバレあり

建築家よりは多少知っている名前が多い写真家だが、それでもアンリ・カルティエ=ブレッソンは知らなかった。数年前に観た「キャパ・イン・ラブ・アンド・ウォー」に出ていたらしいが(苦笑)。ジャン・ルノワールの助監督を務めたこともあるらしい。

彼に限らず、大多数の写真家は動いているものの最も輝く瞬間を捉えて記録するわけで、映画監督ジョン・フランケンハイマーをして「写真は映画より数段難しい」と言わしめているが、その正否はともかく、1908年生れで撮影時94才だったこの写真家の写真は、殆どが路上で撮ったスナップ写真なのに構図が全く素晴らしい。誰かが言っていたように、こうした才能は勉強して出来るものでもないし、その意味するところは良い写真のどこが良いのか指摘するのは不可能に近いということである。

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無名の人を小さく収めた写真が多いが、有名人も多く撮っている。マリリン・モンロー(下の画像)、ココ・シャネル、イーゴリ・ストラヴィンスキー、シモーヌ・ド・ボーヴォワール等々大変幅が広い。しかし、所謂典型的なポートレイトとは趣きを異にして、庶民同様被写体が大きくないものが多い。
 写真家は事の変化に敏感で、革命直前の中国に赴き、暗殺直前のマハトマ・ガンジーに会っている。これも瞬間の芸術家ならではの才能かもしれない。

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能ある鷹は爪を隠すと言うべきか、ご本人は芸術家らしからぬ気さくさで実に嬉しそうに話す。そのインタビュー模様を中心に、被写体の一人イザベル・ユペールや夫人だったマリリン・モンローを撮って貰った劇作家アーサー・ミラーなどへのインタビューで構成されているが、この種のドキュメンタリーとして特別に目を引くものはない。

一番印象的なのは、彼の撮った数々の写真そのものである。

写真は瞬間の芸術、映画は省略の芸術。by オカピー

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この記事へのコメント

viva jiji
2007年06月19日 15:59
天才的な写真家さんの解説付き、動く写真集。
こういう感じの映画ってとても好きなものですから
プロフェッサーのシビアな5点にはちょっとショック。^^
真っ赤なセーターを粋に着こなした90代の
ブレッソン爺ちゃんが素敵だったのに~(^^;)
オカピー
2007年06月20日 00:46
viva jijiさん

すんまそん。
姐さんも私の☆が気になるようになりましたか?(笑)

私としては、完成した映画は料理だと思っています。
素晴らしい写真群は主たる食材、写真家の愛嬌は素敵なソース、その他のインタビューはその他の食材、演出は火加減、等々と考えてきた時に、果たして食材を生かしきるだけの料理になっていたかと言えば、出来ていないのではないかと感じた次第。

或いは本人の解説付きの写真集を買った場合と、どの程度の差があるのか、という視点で評価した場合も、ちょっと疑問が付くんですね。そこに差を付けるのが映画ならではの技術でしょうから。

しかし、写真そのものは大変素晴らしく、あの爺ちゃんは愛嬌があって良かったですね。晩年の淀川さんを見ているようでした。
シュエット
2007年06月21日 11:54
本作、劇場で見ました。
マグナムを立ち上げた3人の写真、比較してるシーンありましたよね。これは面白かった。3人3様。キャパはアクション。彼の写真を見るとなぜsか血が騒ぐ。ブレッソンは構図。静謐さがあり落ち着く。もう一人忘れた。大阪では本作の公開にあわせて写真展も開催されてこちらも行きました。こちらでもドキュメンタリー・フィルム上映もあり、映画で紹介された作品が展示されてました。だからかも知れませんね。私も写真集じっくり自分で眺めているだけでもいいかなって…ただ、いろんな人のインタビューで背景などもわかって、そうそうシャネルのエピソードも面白かった。そういう意味では写真集がより面白く見れましたね。時折はっとするくらい完璧な構図の写真に出会います。写真集ご覧になってられなかったら、機会ありましたらご欄になってくださいな。
オカピー
2007年06月22日 04:31
シュエットさん

いかに色々な作品が観られるようになってきたとは言え、所詮地方は地方。こんな映画は観られません。
ブレッソンは構図、その意味はよく解ります。基本的に絵画の三角構図は写真にも応用が利くのでしょうが、瞬間的に切り取るわけですから難しいですね。それだけでは語れない構図の美しさもありますし。

写真集はチャンスがあったら見てみます。

シャネルを怒らせてしまったんですね。あの物真似も受けましたよ、何を言っているか解らないというおじさんの。
シュエット
2007年06月22日 12:58
今日買った男性月間雑誌「PEN」が「アンリ・カルティエ・ブレッソン」の特集です。今、東京で写真展開催されている関係でしょうね。で、その中で知った情報。別にどうということもないんですが、へぇっと思って。彼28歳の時ジャン・ルノワールの「ピクニック」続いて、ジャック・ベッケルと共に「ゲームの規則」でも第2助監督してたんですって。その後1940年にドイツ軍の捕虜になって3度目で脱走に成功したそうです。ちょっとへぇ~の情報でした。
オカピー
2007年06月22日 18:32
シュエットさん、情報有難うございます。

「ピクニック」はともかく、「ゲームの規則」の第2助監督とは凄いですね。ルノワールはピンと来ない映画を作りますが、何度か観てピンと来た時の感動がたまらない。「ゲームの規則」はそんな作品でした。
そう言えば「ゲームの規則」の記事で貴族の黄昏に関し、ヴィスコンティに言及したのですが、ヴィスコンティがルノワールの助監督をしたことがあると、その後で知ったなんてこともありましたよ。
2007年06月25日 22:53
お久しぶりです、プロフェッサー。

で、ごめんなさい。ブレッソンのドキュメンタリーじゃないのですが、彼が若きヴィスコンティと共に助監督を務めたという映画「ピクニック」の記事を持ってきてみました。「ピクニック」は、ルノワールの作品の中では特に好きな一遍です。一番分かりやすい作品かもしれません(笑)。

ヴィスコンティのデビュー作「郵便配達は二度ベルを鳴らす」は、元々ルノワールが撮る予定であったと聞きます。ヴィスコンティもそうですが、ジャック・ベッケルなど、ルノワールの元からはいろいろな才人が巣立っていったのですねえ。
オカピー
2007年06月26日 02:09
豆酢さん、こんばんは。

私は「ゲームの規則」が一等好きです。あっ、古い表現ですみません。一番好きです。
「素晴らしき放浪者」と一緒に上映された「ピクニック」は、観たとずっと思い込んでいましたが、多分観ていないんじゃないでしょうか。^^;
というのもこの両作が頭の中でこんがらがっていましてね。すっかり豆酢さんの信用を失いそうですが、一応事実をご報告する次第。数年前に「放浪者」を再見してそれに気が付いたという不面目。
というわけですので、必ず観ます。お約束致します。

ジャック・ベッケルも好きな作家です。「肉体の冠」「モンパルナスの灯」「穴」、良いですよね。
ルノワールが「郵便配達」を作ったらまた感じが違ったでしょう。私としてはこの題材にはマルセル・カルネに凄く適正を感じます。「嘆きのテレーズ」からの安易な発想でした。^^;
シュエット
2008年02月13日 10:38
以前にもコメント入れさせていただいてますが、先日、本作を劇場で見る機会があったので、記事にしましたのでTBさせていただきます。
やはり今回も30%不満に終わりました。私は本作は100%ブレッソンの写真でいい!と。これは私のわがまま的な意見なんですけどね。写真家は彼が撮った写真そのものが雄弁に語っているし、ブレッソンの、完璧な一瞬の瞬間には言葉は不要。ブレッソンの言葉は味があって良かったですけど、それ以外は不要と…100%ブレッソンの写真だけ観ていたい。あくまでも私個人のわがままですけどね。
オカピー
2008年02月14日 02:51
シュエットさん、こんばんは♪

僕もインタビューをああいう凡庸な形で挿入するくらいなら、写真と本人のインタビューだけで良いと思います。

一方で、例えば「ディープ・ブルー」は自然と実写映像の凄さを示す為に作られたから余分な要素は要らないと思いますが、こちらは写真という映画の親戚が被写体。
写真だけでOKだとしたら、映像芸術である映画としての存在感を否定することにもなりかねないなあ、なんて構成・構造・狙いにうるさい僕は思ったりもします。
尤も写真を美しく映画のフィルムに焼きつけるのも難しいのでしょうけどね。その辺は現場と縁のない僕にはよく解りません。^^;

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