映画評「県庁の星」

☆☆★(5点/10点満点中)
2006年日本映画 監督・西谷弘
ネタバレあり

桂望実のベストセラーと言っても最近の小説類は滅多に読まないので知らない。西谷弘という監督も全く知らないが、カメラワークや編集を観れば一見してTV畑の人と分る。平明だが、全く面白味がないのである。

ある県庁のエリート職員・織田裕二が、自ら推進する開発プロジェクトの一環として他の数名と共に民間研修に出ることになる。
 派遣されたのが三流スーパーの満天堂、教育係が年下のパート・柴咲コウなので、屈辱感を覚える。おまけに公務員ならではのマニュアル至上主義が全く通じない。

という序盤はかなり面白い部類と言って良い。ただ問題もある。
 公務員と派遣先企業社員とのそりが合わないのは、主人公の信じがたいほど極端に大きい功名心のせいなのか、公務員一般の風刺を狙いとした故なのか不透明なのである。公務員は得てしてそういうものであると同時に、彼の出世への願望はそれ以上に大きいのだと言わんとしているのだろうが、はっきりしているのは、彼の性格を序盤で描けば描くほど公務員VS民間企業という図式は曖昧になる、ということである。
 スーパーにしても同じことが言える。このスーパーは在庫の管理も出来ない、平均を遥かに下回る企業体質である。やはり平均的な民間企業とは言えず、図式は益々曖昧になる。

一言で言えば設計ミスで、脚本は佐藤信介だが、「春の雪」同様これも心もとない。原作のせいか?

序盤の面白さは問題はあってもとりあえず合格を出せるが、中盤にさしかかると後半の展開が「スーパーの女」の二番煎じになるのではないかという不安が出始め、予感的中。それも大分廉価版でござった。

その前提となるお話がある。織田君はプロジェクトから外され、その結果出世の頼みの綱であったゼネコン一家にも見捨てられ、途方に暮れてしまうのである。この一連の描写が誠にくどくて歯切れが悪い。TVでは当たり前なのかもしれないが、映画はこれでは困る。【じっくり】と【くどい】は似て非なるもの。

そんな彼に助け舟を出すのが犬猿の仲と思われた柴咲君で、彼女の一言から彼はチームワークを重んじ、頭だけではなく体も動かすように態度を一変させる。些か調子が良すぎるところもあるが、折りしも消防庁を始めとする役人連中から【失格】の烙印を押されかけたのを、彼お得意のマニュアル戦法で切り抜けることになり、言わば《ギヴ&テイク》の関係が成立する。

半年の研修が終って県庁へ戻った彼は、自ら進んで建設課から民間との接近が多い福祉課へ転属、開発プロジェクトに経費の無駄が多いことを指摘する。議長・石坂浩二は非難するが、知事・酒井和歌子は建議を受け入れる姿勢を見せる。

ネタばれで申し訳ないが、知事が織田案を検討してきた佐々木蔵之介に対し「前向きに検討すると言ったでしょ?」と言う、ちょっとしたどんでん返しがある。役所の言葉で【前向きに検討する】は否定であるが、この知事の描写も甚だ曖昧。彼女が議長の圧力に負けて長いものに巻かれたのか、それとも議長以上のタヌキだったのか判然としない。タヌキだったほうが権力の不気味さが醸し出されるだけに、この辺りははっきりして貰いたいところ。タレント知事だけに前者であろうと想像は付けられるものの、設計が悪いことに変わりはない。

面白くなる要素は確かにあるが、出来上がったものは余り大したことがない。残念でした。

織田君は8月に陸上の星になります。

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この記事へのコメント

2008年06月02日 10:39
ご指摘の通り酒井和歌子のどんでん返しは驚きでした。でもそれぐらいだったなぁ…^^;)。「スーパーの女」の二番煎じなのに、その面白さの半分もなかったです。問題定義の仕方が伊丹監督に比べると甘すぎるんですよねー。安全パイで作ってるのがイカンです。
オカピー
2008年06月03日 02:46
ぶーすかさん、TB&コメント有難うございました。

>「スーパーの女」
事前調査の密度も違いますね。

僕は設計の悪さが気になったなあ。
狙いは読めますが、人物描写を眺めると総論と各論が一致しない。
TVを見慣れた客層に合わせた甘いお話でしたね。

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