映画評「パーマネント・バケーション」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1980年アメリカ映画 監督ジム・ジャームッシュ
ネタバレあり

「ストレンジャー・ザン・パラダイス」が大いに話題になったので日本でも紹介されたジム・ジャームッシュの卒業製作映画。昔観たのにすっかり忘れていた。
 彼の映画は旅や放浪が絡むが、これは放浪そのものがテーマである。

ビ・バップ時代のアルトサックス奏者チャーリー・パーカーに憧れ、ロートレアモンの詩「マルドロールの歌」を諳んずる若者アリー・パーカー(クリス・パーカー)は、定着するのを嫌って恋人のいるアパートを離れて町を彷徨し、盗んだ車を800ドルで売り払い旅費を捻出してパリへ向う。

難解な映画ではないが、楽しむにはチャーリー・パーカーやロートレアモンに関する最低限の知識が必要かもしれない。
 名前がパーカーなので子供にはチャーリーと付けたいと願い、彷徨するうちに出会った黒人の話もパーカーを思わせるサックス奏者の自殺騒動。救急車のサイレンの音が“ドップラー効果”で「虹の彼方に」のイントロように聞えたらしい。彼がパリへ行くのは、恐らくロートレアモンの移り住んだ街だから。

廃虚の建物に篭る変なベトナム帰還兵(?)やスペイン語らしい言語でわけの分らない歌を歌っている女性と出会った後、精神病院に入院している母親を見舞い、さらに映画館前でドップラー効果のジャンキーと会う。といった風に構成される、主人公が下町を彷徨する一連の場面のムードが大変面白い。ニューヨークという現実の街をドキュメンタリー的に撮りながら、異空間で起こっているかのような現実味の薄い場面を次々と繰り出し、観客に現実味とフィクション性の狭間を漂わせるのだ。

車寅次郎を引用するまでもなく人間には放浪に憧れる部分があり、主人公に至っては「人生は旅、旅は終りのない休暇である」と宣言する生れついての放浪者。その心情を当然未熟ではあるが気取らない演出で綴っているのが却って気分を出す。
 パリに向けて旅立った船の航跡の後ろでマンハッタン全景がどんどん遠ざかっていき、そこに先のサックスによる「虹の彼方に」を被せ旅への憧れを駆り立てる幕切れの感覚が良い。

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この記事へのコメント

シュエット
2007年05月04日 22:04
vivajijiさんのブロークン・フラワーズでは随分盛り上がりましたね。Jiijさんとこで私がパーマネント・バケーションのことコメントしましたが、P様と同じではありませんか。なんかこれ好きなんです。はまったのは「マルドロールの歌、僕の愛読書。でももう読み飽きた」ってセリフ聞いて、誰だこの本のタイトルを出すなんて、マニアックな監督は誰なんだ!って嬉しくなって。だってこの本学生時代からずっと私の本棚にいまもきちんとありますから。ジム・ジャームッシュの作品って、なんか好きだなぁってそんな感覚ですよね。うれしいなP様と同じ感覚共有できて。なかなかTBできる作品はありませんが今後ともよろしくお願いします。
オカピー
2007年05月05日 04:29
シュエットさん

「ブロークン・フラワーズ」に関するviva jijiさんの言い分もよく解りますし、男衆の感じたことも間違いではない。
チャーリー・パーカーまでは分るとしては、「マルドロールの歌」まで繰り出すとは、本当にマニアックですよね。
当方も結構マニアックで、盗んだ車のカーステレオから流れていた曲は、ジェイネッツのSally Go Round the Rosesだなんて分ったりして(笑)。

いや、私なんていい加減にしか観られませんよ。皆さん、本当に精緻に観ている。感心しております。
シュエットさんにおかれましては、余り頑張り過ぎないように。
こちらも余り新作が観られない状況なのでTBできずに恐縮です。

こちらこそ宜しくお願いします。

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