映画評「ストレンジャー・ザン・パラダイス」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1984年アメリカ=西ドイツ映画 監督ジム・ジャームッシュ
ネタバレあり

ジム・ジャームッシュの商業映画第1作。

これを最初に(そして最後に)観たのは86年4月、つまりロードショーであるが、とにかく驚いた。こんな映画は見たことがないと思ったのだ。それ以来ジャームッシュには注目し続けてきた。それから21年ぶりの再鑑賞ではいかに。

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ニューヨークのぐうたら青年ジョン・ルーリーが、クリーヴランドの叔母から電話を受け、その入院中ハンガリーからやって来る従妹エスター・バリントの面倒を10日間ほど見ることになる。最初は煙たがるが、少女には愛らしいところもある。
 1年後親友リチャード・エドスンと組んだいかさまポーカーで大儲けした勢いで、従妹に会いにクリーヴランドへ行くが、寒いので従妹を連れ出してフロリダに南下する。

憎めないチンピラ二人と美少女の珍道中をスケッチ風に描いただけだが、何に驚いたかと言えば、ワンカット・ワンシーンで構成された場面の転換を全てブラック・アウトで行うという手法に、である。
 フェードイン・フェードアウトの類は古典的な場面転換方法であるが、通常は小説の<章>に相当するシークェンスごとに使われることが多い。ところが、この作品ではそれを言わば段落毎に用いて、しかも奇を衒っているのではなく、時間経過を示す省略法として抜群の効果を上げているのだ。ジャン=リュック・ゴダールの発案と言われるジャンプカットにも比すべき手法である。

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卒業制作だった「パーマネント・バケーション」以降全てのジャームッシュ作品が旅をテーマにしているが、その中でも本作のとぼけた旅の扱いは抜群。CCRによるカバーもヒットした「アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー」をシャウトする“スクリーミン”・ジェイ・ホーキンズの好きなエスターと嫌いなルーリーとの対照も可笑しいが、何と言っても終幕のおとぼけは映画史に残ると言って過言ではあるまい。即ち、
 エスターが被った帽子のせいで麻薬密売人と勘違いされ大金を受け取り、その金でハンガリーに戻ろうとしているのを置き手紙で知ったルーリーが、彼女が心変わりしてモーテルに戻ったのも知らず、彼女の残した金でチケットを買って連れ戻そうと乗り込んだ飛行機でハンガリーへ直行してしまうのである。

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このすれちがいの際立った可笑しさはブラックアウトによる<間>が生み出したものだ。やはり傑作と言うべし。

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この記事へのコメント

シュエット
2007年05月27日 22:59
P様、コメントありがとうございます。ジム・ジャームッシュの作品、私が気に入ってるのは、ご指摘のように「間」なんでしょうね。なんともいえないこの「間」。ダウン・バイ・ロウでも、3人の関係のなんともいえない間ですよね。このあたりの間というか、ずれが面白いと受け止められるかどうかですよね。ブロークン・フラワーズでも、終わったとき近くにいた若者が「えっこれで終わったん?」て言っていて、私それ聞いて「これがジムなんだ」って思いました。で、私も女なんですけど、先日のブロークン・フラワーズのコメントのやり取りで、ジムの作品ってこれはやっぱり男の映画かなって思いました。それで何なんだって言われても困る。
シュエット
2007年05月27日 23:04
(すみません。2重にコメントは言ってしまいました。1つ削除してくださいね)続きです。彼は詩がとても好きなんですって。彼の映像ってまさに詩だと思いませんか?私そんな気がします。で、彼は戦争を知らない世代~第二次大戦はもちろん知らないし、革命を叫んだ学生運動も知らない(年齢的にはかすっているんですけどね)~その後のしらけ世代だと思うんです。そのあたりが私はとても共有感を持ちます。これゴダールの「はなればなれに」のオマージュ作品でもあるんですよね。でもジムはこれをジム世代の感覚で見事に描いている。すごいなって思いました。ゴダールのよりも私はジムのほうが素直に受け止められました。私も同じ世代だからかな。これが彼の作品ハートで受けとめられる所かなって思いますんです。
シュエット
2007年05月27日 23:07
(さらに続き)
そして私的に、ジム作品でハートにびたっくるのはこれも含め初期の3作ですね。ナイトオンザプラネットなどは作品的には面白いんですけどね。本作評、さすがP様!(笑)私もゆくゆジム作品も記事書いていきたいんですけど、なんかジムは女には難しいなって最近思ってきている。好きなんですけどね。ジムは男の映画、そんな気がします。そう思われませんか?私はそんなジムに添っていきたく思っておりますけどね。この作品に流れている、熱くなりたいけど状況がしらけさせてしまう、このしらけ感とずれ、そこからくる間、やっぱりこれは私の世代だ!です。なんか、まとまりがなくなってしまってすみません。もうすぐ「メルキアデスエストラーダの3度の埋葬」記事UPします。したらTBしますね。
オカピー
2007年05月28日 01:14
シュエットさん

webryは最近ちょっと不調です。コメントの反映も妙に時間が掛かったりします。

私はシュエットさんや豆酢さんのように、研究文的に詳細に書く根性がないですし、あくまでガイド的なので、ポイントだけしか書きません。基本的にはそれで良いと思いますが、時々viva jiji姐さんにシュールだなんて叱られます(笑)。

姐さんの評価など見ますと、ジャームッシュはやはり男向けの作家なのかなあと思いますが、シュエットさんのようなファンがいらっしゃるのは心強いです。「ダウン・バイ・ロー」がまた良いですね。
「ブロークン~」も基本においては変わっていないなあと感慨にふけりました(笑)。
オカピー
2007年05月28日 03:15
(続きますです)
それからジャームッシュの90年代若手作家への影響たるや、皆様が考えている以上ではないでしょうか。恐らくはタランティーノ、ガイ・リッチーやその亜流はジャームッシュの出現なしには現れなかった若手でしょう。80年代以降最高の影響力を持つ作家はジャームッシュです。

>「はなればなれに」
そういう三人組ですね。(映画に限らず)オリジナリティは他の作者たちの模倣からできるという持説があるのですが、まさにそういう感じです。

不調と言っているそばから大不調でした(TT)
シュエット
2007年05月28日 18:57
P様。確かに豆酢ちゃんの記事は「研究文的に詳細に書く」すごいです。視点もとても客観的に見ているし。私は違うんですよ。直感で受け止めてしまうと子あるので、この直感はどこからくるの?よくわからないから、一生懸命言葉捜してるだけなんです。だからP様の簡潔明瞭なコメント、羨ましい。わたしもそうなりたいんですけど。シュールで委員ですよね。だって評論家ではないから。直感を簡潔に言葉にしたい、と思っています。でも「よかった!」ばかりになってしまうんで、どうよかったのか、ことば捜します。それだけ。P様のコメントとてもストレートに伝わってきます。
オカピー
2007年05月29日 02:59
シュエットさん

人それぞれで面白いですね。
しかし、viva jiji姐さんのご贔屓ブログの管理人はいずれも評価の精度が高くて優秀だと思います。好みその他異論は仕方がないところですが、読んでいて頷ける部分が多いです。

私は論理的な直感派だから困ってしまいます(笑)。
評価は客観に立脚していますが。
映画を評するときのスタンスはいつも同じ。
即ち、主題と狙いを把握しその達成度を測る(主題と狙いのどちらが大事なのか言えば、私にとっては実は狙いなのです)。

しかし、映画によってスタイルは変えざるを得ません。
ヒッチコックの映画のように細かなテクニックで見せる映画を、トータルで語っても何ら面白くないですし、「南極物語」をそういうポイントで捉えてもまた意味がないです。
豆酢
2007年05月30日 13:28
…なるほどなあ…。
はっ、すいません(^^ゞ。プロフェッサー、ご無沙汰してしまって申し訳ありませんでした。毎日記事を拝読にうかがっていたのですが、いずれも読み逃げばかりでして。
わたくしの名前が出てきてドキドキしてます(笑)。映画に限らず、芸術を客観的な立場から判断するのは、非常に難しいと思っています。芸術は人の感性に直接働きかけ、御しがたい感情のうねりを発生させることに価値を見出すものだと思いますし。あるものを見て、個人が抱く感情は人それぞれ。だから、“感想”というのは、やっぱり個人の主観にすぎないでしょう。
でも、主観的な感想をたくさん集めれば、自ずとある一定の方向に評価を位置づけることは可能です。プロフェッサーが仰るように、論理的な直感というのは極めて正しいあり方だと思います。
豆酢
2007年05月30日 13:36
長すぎると叱られたので、続きますです。

映画を評価するとき、その技術的なレベルと、とりあげるテーマ性の両面から作品を探っていくのが理想的でしょう。でも“映画は娯楽だ”という考え方も一方にはあるわけで、娯楽に徹した作品に崇高なテーマを求めてもしょうがないですよね(^^ゞ。
映画を観る際に私が一番とまどうのは、評価の力点をどこに置くかということなんです。こればっかりは、いくらたくさん映画を観ていても慣れないし、難しいことだなあ…。
オカピー
2007年05月31日 01:07
豆酢さん、こんばんは。

はい、読んで戴けるだけでOKですよ。でも、たまにはコメントを戴けると嬉しいです(^^)

私はテーマの崇高性=優秀映画と考えません。
娯楽的なものは、娯楽映画としてよく出来ていればそれで良いわけです。とは言え、論評する場合はただ「面白い」では失格。
逆に崇高なテーマをもっていても描き方、扱い方が下手でたどたどしければ、【絵に描いた餅】です。

>力点
正に私が言いたいのはそこで、作品の狙い若しくは性格を正しく把握することが大事であると繰り返し言ってきた所以です。

寓話に対し完璧なリアリティーを求めたり、作者が喜劇を目指しているのに悲劇と受け取ったり、色々な方のコメントを読む時基本レベルでとんでもない的外れをしているものが少なくないです。

正確に把握するのは難しいことですが、やはり本数をこなしかつ一生懸命考えれば、自ずと精度は上がっていくというものです。^^)/~
しゅぺる&こぼる
2007年08月12日 20:59
おっと、やっぱりありましたね。「ストレンジャー・ザン・パラダイス」
プロフェッサーのところにお邪魔すればどんな映画も揃ってる!(笑)
昔「ザン・パラ」なんてこっぱずかしい省略をしてこぞって当時の若者が観にいったのですよね。
田舎の高校生だったわたしはロードショーから数年して深夜映画枠で字幕ノーカットで観ました。
その頃、やっとそういう形で放映してくれるようになってました。
ビデオに録画して何度も何度も観ましたね~。
これと「パーマネント・バケーション」「ダウン・バイ・ロー」は
わたしにとっては本当に青春映画ですよ!
だからこれは「カウチポテト」映画だとずっと思ってます。
とても新しいアメリカ映画なんですよね。
ゴダールの「はなればなれに」は未見です。
空気感が似ているのでしょうか?それともお話が?
今度探して観てみますね。
わたしはこの映画を観ると「真夜中のカーボーイ」を思い出します。
ウィリーとエディ、ラッツォとジョンは「ゴドーを待ちながら」に出てくる4人なのかなって思って・・・
TBさせていただきます。
オカピー
2007年08月13日 15:06
しゅべる&こぼるさん

ミッドナイト・アート・シアターですね。あの番組は画期的だった。それに寄与したのが「ナポレオン」の放映だったと私は思います。TVで観る映画がぐっとよくなった時代です。深夜映画は字幕は当たり前になりました。ゴールデンタイムは反比例するように程度が低くなり、現状に至ります。

>新しいアメリカ映画
世界でも類がないと思いましたね。不条理な作品はゴダールあたりが既にものしていましたが、さすがのゴダールもフェイドアウト(ブラックアウト)のこんな使い方は思いつかなかった。
当時は小津との結びつきなど思いもしませんでしたが、段々近いものに思えてきています。

>真夜中のカーボーイ
人物の配置と旅程は似ていますね。
ただ、あの作品は英国人シュレシンジャーのアメリカ風刺映画でもあったので、ムードは違うような気がします。

>ゴドーを待ちながら
さすがにベケットは出てこなかった。しゅべる&こぼるさん、かなりの読書家と見ました。さすがですね。^^

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