映画評「Vフォー・ヴェンデッタ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2005年アメリカ映画 監督ジェームズ・マクティーグ
ネタバレあり

原作は1980年代の劇画と聞くが、映画版に関して言えば9・11の影響が沈潜している。

アメリカ合衆国が崩壊した近未来、英国では議長サトラー(ジョン・ハート)が大きな画面を通じて官憲や役人たちを動かして独裁者として権力をほしいままにし、完全に国家の管理下にあるTV局の報道は【大本営発表】と化している。
 そんな或る年の11月5日、1605年11月5日に国家転覆事件を起こした無政府主義者ガイ・フォークスの仮面を被った謎の人物“V”(ヒューゴー・ヴィーヴィング)が中央刑事裁判所を“1812年”の曲と共に爆破した後、TV局を乗っ取って1年後の新裁判所爆破を予告し、有志に革命への参加を呼び掛ける。
 そんな彼の計画に結果的に巻き込まれたのがTV局の裏方イヴィー(ナタリー・ポートマン)で、刑事フィンチ(スティーヴン・レイ)とその相棒が調べ上げた彼女のプロフィールから“V”の正体に迫ろうとするが、その間にも現政府に深い関与のある要人が次々と殺され、予告された11月5日が近づいて来る。

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というお話で、「マトリックス」をこしらえたウォシャウスキー兄弟が脚本(兼製作)を担当しているせいで世間では大騒ぎになったが、その反動で評価が相対的に低くなったように思う。皮肉なもので、仮想現実に空しさを覚えて「マトリックス」を評価しなかった僕は寧ろ楽しめた。過去の出来事と古典をベースにした物語だからである。

名前から想像されるようにヒトラー(とスターリン)を投影させたサトラーなる議長の存在による【庶民の力を利用して出来上がった全体主義国家】への揶揄、ナポレオンのロシア遠征失敗を奏でるチャイコフスキーの交響曲「1812年」による【独裁者の零落】の暗示・・・未来を舞台に過去の出来事を複合的に再構築した上で、“V”をテロリストと思わせておきながら実は「巌窟王」即ち復讐する英雄とオーヴァーラップさせるという発想が大変面白い。
 現在的解釈では、民衆の被害をもって体制を脅迫することがテロリズムであるから、原則的に庶民に被害を与えない主人公は英雄であり、政権樹立の為に人体実験を行いテロ事件を偽装したサトラーこそテロリストに他ならず、彼が行う言論の統制には現アメリカ政権への皮肉すら漂う。

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実は、僕が一番感心したのは刑事二人が真相追及の為に動く捜査模様のミステリー的趣向で、昨今の小手先的な刑事映画ではなかなか味わえない本格ムードが楽しめた。
 イヴィーの両親の死、超人“V”の誕生の謎も彼らの捜査から小出しに判ってくる、という具合に捜査と主人公二人の行動を連動させながら展開していく構成が上手く、内容にも無駄が殆どない。その意味で前半の方が気に入っている。

イヴィー即ちナタリー・ポートマンが剃髪されてしまう獄中を始め、首を傾げる設定や描写もあるが、一種の超人ものなのだから多少のことは大目に見ましょう。

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「理念は愛することはない」という開巻と「理念は決して死なない」という幕切れの台詞がコントラストを成し、主人公がイヴィー即ち庶民の手に革命を委ねてこの世界から去っていく場面で効果を発揮している。些か勧善懲悪的ではあるが、後味は悪くない。

監督ジェームズ・マクティーグは新人だが、堂々たる演出ぶり。

「毒(恐怖)をもって毒(恐怖)を制す」お話でした。

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この記事へのコメント

豆酢
2007年05月18日 13:53
同感です。この作品は、公開前に騒がれすぎたことが残念。なにも予備知識なしに観れば、非常に見ごたえのある寓話でしたもの。それからナタリーの丸刈りシーンですが(^^ゞ、これを観て「裁かるるジャンヌ」のリアル剃髪シーン(これも実際に剃っているそうです)を思い起こしました。ひょっとしたら、イヴィーを聖ジャンヌ・ダルクに見立てているのかもしれませんね。
ジェームズ・マクティーグには、本格的ミステリものを撮ってもらいたいですねえ。

オカピー
2007年05月18日 15:30
豆酢さん、こんにちは。

IMDbを調べましたらアメリカではえらい評判が良いらしいのに、日本ではさっぱりですねえ。日本人はアメリカ人より理屈っぽいですね。あれが変だの、これが変だの。
「マトリックス」のような仮想現実ものは、楽しめる映画の要件を満たしていないと思うので大体のところ評価しないのですが、こちらやはり現実に即したところが大変興味深かったですね。

>ジャンヌ・ダーク
そういう部分もあるのかもしれませんね。色々なネタを下敷きにしているようなので。

>マクティーグ
全くです。最近良い捜査映画やミステリーがないですよね。刑事映画はあってもアクションに走りがち。

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