映画評「ウエスト・サイド物語」

☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1961年アメリカ映画 監督ロバート・ワイズ
ネタバレあり

ミュージカル映画は200本ほど観ていると思うが、ミュージカルのベスト5を選ぶならこの作品は必ず入れねばならない。それくらいの傑作である。
 アーサー・ローレンツの舞台ミュージカルの映画化で、作曲はレナード・バーンスタイン、原案・振り付けはジェローム・ロビンズ。

シェークスピアの「ロミオとジュリエット」を下敷きにしたお話で、4分ほどのオーヴァーチャーの後ニューヨークを俯瞰した移動撮影の見事さ。

カメラが下界に下ると、ジェット団なる白人のチンピラたちが指を鳴らしながら街を闊歩する。誠にクールで格好良い場面で、これに対立するスパニッシュ系のシャーク団を加えたチンピラたちによるシャープな群舞が繰り広げられる。この類の群舞は全体に散りばめられ、それ以前のミュージカルではなかなか観られないダイナミックさに興奮を止められない。

ロケを駆使した新しいタイプのミュージカルだった。1949年製作「踊る大紐育」がロケを駆使した最初の傑作だが、その後ミュージカルはセットの世界に戻り、本作がその精神を取り戻したというのがより正しいミュージカル史であります。

シャーク団を率いるベルナルド(チャキリス)の妹マリア(ナタリー・ウッド)が元ジェット団リーダーのトニー(リチャード・ベイマー)とダンス・パーティーで知り合って恋に落ちる。
 既に群舞の見事さに脱帽していたが、この辺りでは場面の繋ぎの鮮やかさに感心させられた。大俯瞰からチンピラ場面への直線的繋ぎ、トニーが上方を見やるとカメラが上昇して運命の人であるマリアが初登場する繋ぎ、踊り始めたマリアがスペクトルのようになってパーティー場面へと進む繋ぎなどで、ロバート・ワイズの編集者出身という特性が最大限に発揮されている。

クールでシャープな群舞と並んで、「アメリカ」など押韻を駆使したユーモラスなナンバーの数々も楽しい。その間にトニーとマリアによる「トゥナイト」など情味溢れる楽曲が挿入され気分を盛り上げ、緩急自在といったところだが、喧嘩に赴く連中とトニー&マリアを捉えた対位法的描写には痺れる。案外「パッチギ」のクロスカッティングはこの場面の影響を受けていないかな。

本作がロケ以外に映画史に与えた影響としてはミュージカル映画として初めて人種差別や青少年の暴力といった社会性を本格的に取り込んだことを上げねばならないが、結果的にこれ以降作られるミュージカルの幅を狭めることになってしまう。頭の固い文学寄りの批評家たちが「社会性のないものは駄目」といった烙印を押してしまうようになったからである。
 僕は本作をそういったドラマ性でも勿論楽しんだわけだが、最高の評価を与える理由は優れたナンバー、撮影、編集という純粋に映画的な要素にこそある。

因みに、ナタリー・ウッドの歌声は「マイ・フェア・レディ」でオードリー・ヘプバーンを葺き替えたマーニー・ニクスン。

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この記事へのコメント

rainman
2007年03月24日 20:54
初めまして。他人の映画評を読むのが好きなのですが、このブログに出会って感銘を受けました。
色々お話したいこともあります。これから是非よろしくお願いします。
オカピー
2007年03月25日 02:49
rainmanさん、初めまして!

恐れ入ります。
数多いブログの中でも経験だけは豊富な部類と思います。
コメントは大歓迎です。
こちらこそ宜しくお願い致します。
viva jiji
2007年03月26日 09:55
田舎の映画館で初めて観たリバイバル上映の本作。
おにぎり2個ほおばりながら朝から晩まで
アホになって画面を凝視していましたわ。(笑)

アタマの軟らかいニキビだらけの女子には
かなり強烈なインパクトを残しました。

リーンもそうですが、饒舌なドラマ性はもちろん、
画面も展開も、大きく大きく撮るワイズは好きでした。
(「サウンド・オブ~」も、然り!)

プロフェッサーのご指摘の編集!
私も再見するたびに、その巧みさに嬉しくなります。

編集の妙味が大スクリーンに奥行きを感じさせます。

>社会性のないものは~

アタマの“不自由な人”はほんとに困ったものですこと!(笑)



オカピー
2007年03月26日 18:56
viva jijiさん

本作に関しては上でも大体のところを語っていまし、姐さんの仰るとおりですので、これ以上は述べるもがなでしょうね。
しかし、姐さんにコメントにも絡めて話しますが、どうも嫌いなジャンルがないと公言する私のことを「頭の固い」男と思っている方がいらっしゃるようです。
姐さんが以前仰ったように、彼もまた読者として歓迎したいと思いますが、正直なところ、やる気なくなっちゃいますよ。
オンリー・ザ・ロンリー
2008年07月21日 18:35
何度、タンブリンやチャキリスに蹴飛ばされたことやら!。
我が家の200インチのホーム・シアターでは本作品と「西部開拓史」そして「サウンド・オブ・ミュージック」の3本が威力を発揮しています。
オカピー
2008年07月21日 22:28
オンリー・ザ・ロンリーさん、こんばんは。

>何度、タンブリンやチャキリスに蹴飛ばされたことやら!
蹴られがいもあることでしょう(笑)。

>200インチのホーム・シアター
凄いですねえ。
「サウンド・オブ・ミュージック」は本作同様空撮も見事ですし、大迫力でしょうね。
オンリー・ザ・ロンリー
2008年10月28日 22:58
ご無沙汰しています。
★どこに入れたか忘れてしまいましたが「ソール・バスの世界」のDVDが届きました。オカピーさんのご指摘のようにPALだったものをNTSCに変換の為とか16ミリ撮影が原因か画質の悪さ、あるいはヒッチ作品は皆無だったり、枢機卿、80日間世界一周、栄光への脱出、スパルタカスなでがなく、ちょっと寂しい感じです。がしかし、タイトル・デザインと言うジャンルを確立した氏の功績をむしろ今の若い人に是非とも観てもらいたいものです。
オカピー
2008年10月29日 00:46
オンリー・ザ・ロンリーさん、お久しぶりです。

>ヒッチ作品は皆無
それはちょっと寂しいなあ。

>タイトル・デザイン
そうですね。
昨今の作品はいきなり物語から入り、タイトルバックは映像というのが圧倒的に多いですから、寧ろ洒落たタイトル・デザインを見たら、却って新鮮でしょうね。
今年観た“新作”では「ヘンダーソン夫人の贈り物」という作品のタイトル・デザインが、ソール・バスとは全然違うタイプですが、素敵でしたよ。
オンリー・ザ・ロンリー
2008年10月29日 09:05
★お早うございます、オカピーさん。「サイコ」で喧嘩した?話を聞いた事があります。あるいは版権の関係で採り上げなかったのでしょうか。☆今年は図書館で「乾いた花」(篠田)と「殺人狂時代」(岡本)を観ました。前者はタイトル・デザインの項目(誰だか失念)がありましたがデザインなんておくがましいレベルの低さ、後者は何と柳原良平。だけど完全に「おかしなおかしなおかしな世界」にそっくり。パクリなんて書くとカミソリの写真付きが来そうで止めておきますが(笑)。いずれにせよ邦画もバスに影響された訳ですね。
オカピー
2008年10月30日 01:45
オンリー・ザ・ロンリーさん、こんばんは。

>「サイコ」で喧嘩した?
ふーむ、そんなことがありましたか。トリュフォーとの対談集「映画術」では出てこなかったなあ。そういう余地はなかったでしょうけど。

>版権の関係
これはあるかもですね。
著作権絡みですが、「ディスタービア」という作品が管理者に「裏窓」の盗作として訴えられました。

>「乾いた花」
10年くらい前に観ましたが、どんなデザインだったかな。
>「殺人狂時代」
こちらはチャップリンのしか観ていません(笑)。
尤も「おかしなおかしなおかしな世界」も主題歌以外は憶えていないんですけど(笑)。

>バスに影響
クールですからね。
さすらい日乗 指田文夫
2013年05月02日 21:26
素晴らしい映画ですが、ほとんどアメリカ共産党員によって作られた劇です。
彼らだからこそアメリカ社会の問題点、人種差別と葛藤が描かれたのでしょうね。
これについては、津野海太郎の『ジェローム・ロビンスが死んだ』がその背景をよく書いています。津野はあまり好きではありませんが、この本は非常に良い本だと思います。
オカピー
2013年05月03日 20:18
指田文夫さん、こんにちは。

赤狩りで生き残った方々が作ったということでしょうか。
とにかく、現在でも残っているアメリカ人の共産主義への憎悪は異常なものを感じますが、いずれにしてもそうした難しい社会を生きてきた人々の思いが良い作品・映画として結実したことは我々呑気な人間には有難いことです。

ただ、日本におけるこの呑気な気分がいつまで持つのか最近少々不安になってきました。現政権改憲案の独裁を可能ならしめる項目に。
その一方で、日本がどんな国になるのか見極めるまで死ねないという気にもなりますが。

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