映画評「綴り字のシーズン」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2005年アメリカ映画 監督スコット・マクギー、デーヴィッド・シーゲル
ネタバレあり、要注意

9・11以降急激に増えたような気がするが、現在アメリカ映画は家族の再生を描くことがブームになっている。既に壊れた状態にある家族が再生するというのが通常のパターンだが、本作は少し違う。

宗教学の教授リチャード・ギアは科学者の妻ジュリエット・ビノシュとの間に二人の子供を儲けている。息子マックス・ミンゲラは学業優秀で期待の息子だが、日本流に言えば小学校6年生の娘フローラ・クロスが校内スペリング・コンテストで優勝して地区大会へ進んだことから、関心は娘へと移って行く。

というだけならインテリ家族の揺らぎを常識的に描くドラマに過ぎないが、さにあらず。ここから全く趣きを変えて、教授が惹かれている神秘学を中心として家族各々の精神が渦を巻く、予想しにくい展開に入って行く。

「初めに言葉ありき」という聖書の文言ではないが、<言葉は神そのものである>という考えがある。この教授はそれをベースにした思想の持ち主である。
 少女に神の声を聞く力があるのではないかと思うようになった教授はユダヤの神秘学的秘儀を娘に授け深みに嵌まって行き、父から気持ちの離れた息子はヒンドゥー教により神に近づく手段を探り、妻は夢遊病のように光を求めてガラス細工を求め歩き、遂に精神病院へ送り込まれる。
 そして、全国大会の最後の一問を少女は故意に間違える、バラバラになった家族の心を再び結び付ける為に。

神の声が聞えない当方には、最近人気の出てきたギレンホール姉弟の母親らしいナオミ・フォーナー・ギレンホールの脚色(原作はマイラ・ゴールドバーグ)は些か説明不足ではないかと思われる。特に何度もフラッシュバックが挿入される箇所でのジュリエットの心理や行動は解りにくく、それが少女時代の交通事故のトラウマだけが原因なのかギアの娘への入れ込み様が深く関係しているのか、よく分らない。
 少女の最後の決断も解りそうでよく解らない。いや、解らなそうで解ると言うべきか。神秘的な能力のある少女だけが神秘に取り付かれず、家族の中で唯一冷静であったのは確かで、要はこの瞬間に彼女は神秘から家族全員を解放し、地に足を付けさせるのだ。
 とにかく、映画全体が神秘主義になってしまった。散文的にならない程度にもう少し具体的に説明が為されれば透明度の高い映像の力もあって心に染みる作品になったように思う。

僕が断然気に入ったのは、役柄と同じく全く利発そうなフローラ・クロス嬢。才気煥発そうなのに素直な可愛げもあり、目に力があって将来有望。フローラにオーラあり!

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この記事へのコメント

viva jiji
2007年03月02日 17:38
リチャード・ギア主演映画って、雰囲気優先で
内容が伴わないという印象が強いのね~。
この間、観た「プロフェシー」もそんな感想を
持ちました。

>透明度の高い映像の力もあって心に染みる作品に、

・・・なるはずだったんでしょうね~。(笑)

>フローラにオーラあり!

そうなんです。
彼女にもっと焦点を集めて描いて欲しかったですね。

題材としてはとても惹かれたんですけれど
残念な作品でした。
優一郎
2007年03月02日 18:07
こんばんは^^

私も本作をWOWOWで観ました!
★2つの評価になりましたが、非常に興味深い題材でしたので、レビューで取り上げる予定でいます。
一応、言葉の問題と宗教(神秘主義)の問題は、言ってみれば私のメイン・ストリーム。
母親の行状の意味、少女の最後の決断の意味も、きっちり解釈を加えたネタばれ記事になるかと^^;
あの少女の能力と同じで、私にも舌足らずな作品を一本の線で繋げるヘボい才能があるもので(笑)
オカピー
2007年03月03日 03:04
viva jijiさん

>「プロフェシー」
実は実話(洒落じゃないの)なんですってさ。色々と脚色してはいるのでしょうが、私が好んで見る数少ないTV番組「アンビリバボー」でやっておりました。

>フローラにオーラ
って洒落のつもりだったんですけど(笑)。
でも、気に入ってしまった。

私が信頼を寄せているブログの方がほぼ一様に説明不足と仰っているので、大体そんなところでしょう。
文句は言ったものの2時間前後でこれだけの話をきちんと描くのは難しい。批評は気楽な稼業と来たもんだ、てなところですね。
オカピー
2007年03月03日 03:24
優一郎さん

私は入力も出力も左脳という典型的な左脳人間ですから、とにかく理屈なんですね。テストしてみて、作る側に入らなくて良かったと思いましたよ(笑)。
勿論右脳的資質もないわけでなくて想像力もあるでしょうが、この程度ですと説明不足に感じます。

>舌足らずな作品を一本の線で繋げるヘボい才能があるもので(笑)
うらやましいジョー(笑)。
それはやはり右脳的働きの為せる業でしょうか。やっはり作家さんには作家が書こうとした内容が直感的にお解りになるのでしょうね。

高校の授業で、漱石「こころ」において、ふすまが開いていたことは何を意味するのかについて一時間話し合ったことがあります。確か結論は出なかったのですが、優一郎さんならお解りになりますでしょうか。
優一郎
2007年03月03日 15:21
こんにちは^^
私も典型的な左脳人間です^^;
「レインマン」のダスティン・ホフマンのような才能があったら、雀プロになるのに・・・などと思います(笑)
右脳の使い手で思い出すのは、野球ファンが今でも珍プレーとして語り継いでいる例のボール・ヘディング。ショート後方に上がったフライを右脳でキャッチしたのは、確か・・・宇野選手でしたね(笑)

漱石の「こころ」は何度か読み返しているのですが「ふすまが開いていた」だけでは、何のことやらさっぱり思い出せません^^;
右脳だけでなく、記憶を司る海馬も廊下が顕著なようです(笑)
優一郎
2007年03月03日 15:23
「老化」を「廊下」と表記するようでは、ますますもって、老化減少が顕著なよう^^;
いや、「老化減少」ならいいのか、「老化現象」ですね(笑)
オカピー
2007年03月04日 03:44
優一郎さん、こんばんは。

仰るように映画の見方は完璧に左脳人間ですね。しかし、右脳が発達していないと直感的に読み切れないところもありそうなんですがねえ。まあ、私は専門家ではないのでよく解りませんが。

宇野だけに右脳なんですね(こりゃおもろい)。

「こころ」ですが、Kが自殺をする夜の晩に<先生>がいつぞやと同じく襖が僅かに開いているのに気付いて、その後Kが死んでいるのに気付く、という説明部分なのです。Kは<先生>に何か話しかけようとしたのか、あるいは死ぬ前にただ見ただけなのか、and so on...

老化減少は<今年の四字熟語>になると良いですね(笑)。
優一郎
2007年03月05日 06:33
おはようございます!

本作のTBを持参いたしました。
ん・・・言いたいことが要を得ず、それこそ舌足らずかもしれませんが、長文レビュー。どうか、お時間のある折にでも、ご笑覧ください。

漱石の「こころ」。襖の件、思い出しました!
確か、この襖を巡っては、授業でも取り上げていたように思いますが・・・何せ記憶が定かでなく、もう一度、読み返さねば確かなことは言えません。

この場合は当てはまらないですが、人間が何かをする場合、必ずしも論理的な動機があるとは言いきれず「なんとなく」としか言いようのない行動を取ることがありますよね。
作家は「なんとなく」では済まされませんが、映画を観ていると「なんとなく」なのだろうな・・・と思うこともままあります^^;

とはいえ、本作の少女の決断が「なんとなく」では締りが悪いので、論理的な解釈を加えてあります。ご共感いただけると良いのですが。
オカピー
2007年03月05日 18:21
優一郎さん、こんばんは。

早速お伺い申し上げました。
私の凡その考えも似たようなところかもしれません。
そちらにちょっとだけ書き込みする予定です。あくまで軽くですが。
kimion20002000
2007年03月06日 02:34
TBありがとう。
これは、脚本のせいかもしれないけど、あのリチャード・ギアも東洋仏教に嵌っているからなあ。ギアが口出しして、わけがわかんないシナリオにんってしまったのかも(笑)
オカピー
2007年03月06日 17:03
kimion20002000さん、こんにちは。

言葉と神の関連性を扱った古くて新しい素材は珍しくて価値があると思いますが、それを軸として家族と崩壊と再生を描いた部分、正確には崩壊の描き方が喰い足りない、描き足りないという印象です。
現状のどっちつかずの状態なら、細君の描写をもっと単純化し、大衆寄りの作劇にすべきだったとは思います。
しかし、捨てがたい作品でした。

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