映画評「隠し剣 鬼の爪」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2004年日本映画 監督・山田洋次
ネタバレあり

山田洋次監督による藤沢周平の時代小説の映画化第二弾。

舞台は前作「たそがれ清兵衛」と同じ庄内は海坂藩(うなさかはん=架空)、時代は幕末、安政四、五年(1857,8年)から文久元年(1861年)にかけてである。

下級武士・片桐宗蔵(永瀬正敏)は、大事にしていた元奉公人のきえ(松たか子)が嫁ぎ先で虐待されているのを知り、背負って連れ帰ってしまう。二人の間には身分違いの思慕が育まれるが、勿論公にすることは出来ぬし、日中人妻を無理矢理連れて来るところを他人様(ひとさま)に見られては実家に帰すしかない。

その頃武道の同門だった幼馴染・狭間弥一郎(小澤征悦)が江戸で謀反を起して捕縛されるが逃亡し、同等の剣の達人と目された宗蔵が家老(緒形拳)からその斬殺を命じられる。
 この辺りの展開は前作と似たような印象があり、やや新味を欠くが、新味不足など物ともしないのが山田作品の凄さである。

朝間義隆との共同脚本は「隠し剣 鬼ノ爪」という短編の剣客ものと「雪明かり」という恋愛ものを上手く融合、妹夫婦(田畑智子、吉岡秀隆)を交えた「男はつらいよ」風の人情にくるんで全く隙がない。芸術的に砥ぎ済まされ過ぎて凡人の理解を超えてしまった感のある前作のような凄みはないが、優れた構図やショットやシーンの滑らかな繋ぎは相変わらず絶品である。
 「男はつらいよ 寅次郎紅の花」撮影中に死去した高羽哲夫のピンチヒッターに選ばれて(その前の「学校」でも協力している)以来山田作品を任せられている撮影監督・長沼六男は山田監督の指導により相当のテクニックを身に付けたと思う。

内容としては幕末の下級武士が権力(義理)と個人(情)の狭間で味わわねばならない辛い心境が木目細やかに描出されているが、一方でアクションの切れ味も良い。終盤にやっと紹介される隠し剣<鬼の爪>。詳細は伏せるが、これが稀に見る格好良さなのである。

英国式の新しい武器や新しい兵術を巡る騒動は山田組の面目躍如。当時の武士は上肢に手を置いて走る<ナンバ走り>しか知らず、手と足を交互にして走る西洋式が出来ずに難儀する挿話など歴史的事実に則って大変興味深かった。

そして、大団円はハッピーエンドの寅さんを観るが如し。

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この記事へのコメント

かよちーの
2007年03月10日 11:58
TBありがとうございます。
更に明快な解説がありがたいです。
自分のルーツが古く遡れば父方商人、母方武士なのですごく興味深かったです。
オカピー
2007年03月10日 15:14
かよちーのさん、こんにちは。

私も田舎侍の血を引いているのではないかと思いますよ。江戸時代(以前?)からきちんと苗字を持っていた家系ですから。しかし、家系図などはないんですよね。源氏の末裔だったりしてねえ(笑)。

水際立ったショットの説明を一つ二つ加えようかと思ったのですが、上手く説明できそうもないので止めました。
おおざっぱに言えば、雪の場面で二人が再会する場面のショットやその構成が実に良かったです。

TB返しお願いしますね(笑)。
maimai(映画DVDがそこある)
2007年11月11日 15:43
いつもTBありがとうございます。
「必殺」みたいで痛快でした。
オカピーさんの文書力にすごいと思いながら拝見させて頂いてます。
ところで、相互リンクをお願いできないでしょうか?
よろしかったらお願いします。とりあえずリンクを貼らさせて頂きます。
オカピー
2007年11月11日 21:07
maimaiさん、こんばんは。

こちらこそTB有難うございます。
Livedoorブログとは相性が悪く、こちらからはTBできないことが多いのですが、一度こちらからもやってみますね。

いえいえ、お粗末なものです。寧ろ客観に努めた採点の方が当てになるかもしれません。^^;

>相互リンク
大変有難いお申し出です。早速こちらもリンクを貼らせて戴きました。
kimion20002000
2008年04月18日 00:35
山田監督は、こうした時代の下級武士を描くことがうまいですね。ほとんどの武士は、ふだんは農業をやりながら生活の苦しさに耐えつつ、いざ、というときに忠誠心で駆けつける存在だったわけですからね。
オカピー
2008年04月18日 14:36
kimion20002000さん、TB&コメント有難うございます。

>下級武士
時代劇においても、現代劇と同じで、プロレタリア的な視点で映画を構成しているんですね。現代劇と違うのは、主君若しくは雇用者への忠義の度合いが全然違いますけど。
しかし、彼はかつてのプロバガンダ映画みたいな嫌らしい主張はしないから、爽やかで良いです。何より良いのが映画として「上手い」こと。
オンリー・ザ・ロンリー
2008年07月24日 04:53
確かに再会する雪のシーンなどは美しく、全編にわたりカメラは松たか子を綺麗に撮っていますね。だから彼女に貧しさが感じられないとの指摘があったような。
まっ、高麗屋のいいとこのお嬢さん丸出しでしたけど許しましょうよ。綺麗なもの観て損はないでしょう。命令でがんすか?。そうでがんす。
オカピー
2008年07月24日 20:41
オンリー・ザ・ロンリーさん、こんばんは!

>松たか子を綺麗に・・・だから彼女に貧しさが感じられない

綺麗なものは綺麗なんだからしようがないということで。
他の作品においてですが、この人への演技批判が多いのはどういうことなんでしょう?
僕は最近の若い人の演技観には相当固定観念(それもかなり歪んでいる)があると思います。

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