映画評「夜行列車」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1959年ポーランド映画 監督イエジー・カワレロウィッチ
ネタバレあり

27年前の大学生時代に池袋で観て気に入り1年後にもう一度映画館で観て惚れ直したが、それからもう四半世紀以上の年月が経ってしまった。参りますね。

イエジー・カワレロウィッチはアンジェイ・ワイダよりずっとリリカルで僕の好きな作家だが、日本で一番最初に公開された「影」は国情を反映させたミステリー風の秀作、次に公開された「尼僧ヨアンナ」は風刺恐怖劇で圧倒的な凄みがあった。
 公開順としては三番目になる本作はぐっと普遍的なドラマである。部分的に風刺的な香りのする部分(群集心理が爆発する場面など)もあるが、余り硬く見ないほうが後味が良くなる。

真夏、ワルシャワからバルト海沿岸の避暑地に向けて出発する夜行列車に様々な人々が乗り込んで来る。弁護士夫婦、牧師たちの一行、新婚カップル、不眠症の男などなどである。列車では妻を殺して逃亡している男が話題になっていて、後の展開の伏線となる。

サングラスを掛けた訳あり風の男レオン・ニェムチェクが切符に指定された15番の寝台にこれまた訳ありそうな女性ルチーナ・ウィンニッカを見出すが、結局妥協して16番の寝台を得たのが後々災いを呼ぶ。妻殺しの男を逮捕しに乗り込んできた警察隊に16番寝台の男として逮捕されてしまうのである。

観客は既に気付いているが、16番はルチーナが二等車の切符を譲った男の寝台で、彼女は譲ってくれた男を二等車両に発見する。未明、逃げ出した男を官憲と乗客たちが追う。
 朝の冷気を感じさせる異様に迫力のある場面だが、その後列車から捕縛された犯人を捉える超々ロングショットが美しくも悲しい。

ルチーナは二等車両に乗り込んでいる今の恋人ズビグニエフ・チブルスキーから逃げ昔の恋人に会う為に列車に乗ったことが判り、その昔の恋人との間にあった苦い過去を手首の傷が物語る。ニェムチックの暗い印象は自殺した若い娘を救えなかった医師としての無念が原因であることも判る。

哀しさを中心とした感情が渦巻いたこの列車は、人々の喜怒哀楽に彩られる社会の縮図である。一夜の付き合いと言えども別れにはそこはかとない寂しさを覚えずにはいられない。通行するのに難儀した狭い通路も思い出になろうとしている。こうして人生はなおも続くのだ。
 寝台側と通路側の窓の外に流れる景色や窓に映り込む人の姿を頻繁に捉えたカメラはこの世の無常を詩情たっぷりに示し、儚い人生を生きる我々の胸を締め付ける。

俯瞰撮影のオープニング部分から時々使われるスキャット、50年代に全盛だったMJQ(モダン・ジャズ・クァルテット)風ジャズもムードを限りなく盛り立てる。
 しかし、明るい居間ではムードに酔い切れないので、採点は暗い映画館で観た時のものと察せられたし。

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この記事へのコメント

viva jiji
2007年02月24日 15:46

プロフェッサー!
アタイ、十瑠さんに怒られチまっただよーーー。

「姐さん、ナニしちょる?」だってーーーーー!!

アホな新作映画、観てただよ。トホッ。

でも、でも、プロフェッサーの書かれたストーリー描写で
うん、うん! 思い出した、思い出した!!

ありがとう!プロフェッサー!

いいよねー、好きですわ~~、この映画。
ボケボケ・ビデオのでも出してきて観よぉーっと!!(笑)
十瑠
2007年02月24日 16:44
>一夜の付き合いと言えども・・・・・。こうして人生はなおも続くのだ。

メモメモ!

>寝台側と通路側の窓の外に流れる景色・・・・この世の無常を詩情たっぷりに示し、儚い人生を生きる我々の胸を締め付ける。

更に、メモメモ!
恐れ入りやした! 優一郎さんかと思いました。(笑)

昔は、サスペンス風味の印象が強かったですが、すっかりムードに酔う映画になりましたね。
最後の寝坊した新婚さんもイイ味を残しました。

それにしても、姐さんは・・・カワイソ・・・
らしいっちゃあ、らしいですけど(笑)
オカピー
2007年02月25日 03:04
viva jijiさん
十瑠さんのところでのコメントには笑ってしまいました。十瑠さんのコメント・バックもまた最高で...。
ぼけぼけでもビデオがあるだけマシかも(笑)。

>ストーリー
本作は映画の細かなことに触れるより、こう述べたほうが意味があると思い、技術的なことは余り指摘しませんでした。
ビブラフォンをフィーチャーしたジャズが抜群でした。映像から漂う旅情、詩情、無常観と結びついて、もうたまらん気分になります。
27年前に池袋から映画に酔ってふらふらになって歩いて帰った記憶が蘇ります。最高でした。
オカピー
2007年02月25日 03:19
十瑠さん

それにしても偉く褒められたものだなあ。褒め殺しでも良いから、今後ともヨロシクです(笑)。
私が映画評なるものを書き始めたのは、大学生にもなって小学生なみの文章しか書けないのを恥じて、それを克服しようとしたからなんですね。
これはその3年目くらいに観た作品でしょう。その頃と比べれば大分しっかりした文章が書けるようになりました。
相変わらず時間を掛けないと駄目で、今でもコメントを読み返すと<てにをは>が出鱈目ですけどね。書き換えると却って間違いが置きやすいのは解っているのですが、ついやってしまう。

勿論サスペンスフルでもありますが、やはりムードですね。この作品を観終えると、まるで彼らと一緒に旅してきたように寂しくなります。
しかし、Life still goes on...

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    Excerpt: (1959/イェジー・カワレロウィッチ監督・共同脚本/ルチーナ・ウィンニッカ、レオン・ニェムチック、ズビグニエフ・チブルスキー/100分) Weblog: ::: SCREEN ::: racked: 2007-02-24 16:30