映画評「フルメタル・ジャケット」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1987年アメリカ映画 監督スタンリー・キューブリック
ネタバレあり

完全主義者と言われる人はどうしても作品が少なくなる。半世紀に近い監督人生で僅かに12本(その他習作4本あり)しか作らなかったスタンリー・キューブリックもそうした一人で、これは長編第11作。次回作にして遺作「アイズ・ワイド・シャット」を発表するまで12年もかかっているが、題材選びにこれほど時間を掛ける人を他に知らない。

ヴェトナム戦争を背景にしたこの作品は二部構成のような形で作られ、前半は海兵隊特訓場面。
 「愛と青春の旅立ち」でも特訓場面は見られたが、あちらは士官候補生であるしロマンスが主眼だった。こちらは鬼軍曹R・リー・アーメイが初々しいマシュー・モディンたちを殺人マシンにすべく徹底的にしごくので、遥かにすさまじい。温情など一切ない。
 そして、肥満気味で運動能力の劣るヴィンセント・ドノフリオが集中砲火を浴びた結果遂に最終日の夜に爆発、軍曹を射殺して自殺する。
 旧日本軍のしごき、兵士の扱いの悪さは有名だが、人間性を重視すると思われたアメリカ軍も、兵士を発憤させる目的があるとは言え、大差がないような気がしてくる。

後半の舞台はいよいよヴェトナムだが、都市部なので暫く戦闘場面はない。60年代半ばを代表するナンシー・シナトラ「にくい貴方」に乗ってヴェトナム人街娼が歩く様を描くなどモラトリアム的なムードである。

しかし、報道部に配属されたモディンが或る小隊に張り付いて移動中、廃虚の町で突然攻撃を受ける。敵はただ一人らしいが、素晴らしい腕前で兵士を銃撃、助けようとする兵士も狙い撃ちにされてしまう。
 廃虚を移動する兵士を捉えた横移動は映画的気分とサスペンスに横溢して見事で、かかる魅力はただの戦争アクションでは見ることが出来ない。馬力が違う。

キューブリックは溯ること30年前「突撃」を作り戦争における非人間性を描いたが、ここでは直接話法を取らずにしかし遥かに辛辣に、同じテーマを扱ったと言って良い。

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この記事へのコメント

豆酢
2007年01月09日 13:59
プロフェッサー、今年も映画評を参考にさせていただいて、いろいろ勉強していきたいと思っております。よろしくお願いします。
この作品は確か、「プラトーン」とほぼ同時期の公開でしたね。劇場で何度も繰り返して観まして、廃墟となった市街地での姿なき狙撃者との息詰まる対決シーンが今でも目に焼きついています。モディン達が狙撃者を追い詰めると、なんとそれはほんの少女だったというオチ。蜂の巣にされた彼女が、命乞いすらせず「殺せ」と言ったときのまなざしの激しさが、なぜか強烈に印象に残っています。
確かに「突撃」よりも作品の体温はうんと低く感じられますが、その底にある反戦意識はもっと激しさを増しているように思えます。
オカピー
2007年01月09日 15:36
豆酢さん、明けましておめでとうございます。こちらからも積極的にお伺いしたいと思います。

>少女
子供や女性を駆使するのが南アジア的なやり方なんでしょう。「キリング・フィールド」のカンボジアではもっと小さな子供たちを操って人を殺させましたよね。
「プラトーン」は映画館でしたが、こちらはWOWOWで数回。市街戦の場面だけでも大スクリーンで観たいなあ。
カカト
2007年02月22日 16:07
オカピーさん、こんにちは。
2本分の映画を一気に観た気分になりました。グッタリしました~。
キューブリックの映画は、観てる側の生命力を吸い取っていく力があるような気がします。
オカピー
2007年02月23日 03:48
カカトさん、こんばんは。

何だか、言い得て妙ですね。
スタンリー・キューケツッキだったりして?(笑)

キューブリックの「博士の異常な愛情」以来彼の作品は本作を除いて映画館で観ましたので、それで私はこんなにガリガリなんでしょうか?(笑)

冗談はともかく、映像にかけるキューケツッキもといキューブリックの思い入れは凄いですから、映像を見ているだけでも圧倒されてしまいますね。
カカト
2007年02月23日 19:12
あ~、今後は絶対「キューブリック=キューケツッキ」と脳内で変換されてしまいますよー!!
新たなジャンク記憶の誕生です・笑
オカピー
2007年02月24日 02:52
カカトさん、こんばんは。
かよちーのさんのところでも、キューケツッキ宣伝しておきましたから、今年の映画界の流行語大賞に・・・そもそもそんなものありませんって(笑)。

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