映画評「イン・ハー・シューズ」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2005年アメリカ映画 監督カーティス・ハンスン
ネタバレあり

この手のハリウッド製愛憎ドラマにはシャーリー・マクレーンが欠かせない。「愛と喝采の日々」「愛と追憶の日々」「マグノリアの花たち」がいずれも秀作になったのは、勿論ハーバート・ロスやジェームズ・L・ブルックスの演出の良さもあるが、何より全編を引き締めるシャーリーの好演であった。早々から言ってしまうが、今回の彼女も断然素晴らしい。

監督は先日「8 Mile」を上げたばかりのカーティス・ハンスン。「L.A.コンフィデンシャル」など、質実な演出をする印象の強い監督である。

優秀な弁護士だが太目なのがコンプレックスの姉トニ・コレットとは対照的な妹キャメロン・ディアス。抜群の曲線美を誇り男性には不自由しない代りにステディな付き会いは出来ず、仕事も長続きせず、難読症がコンプレックス、義母と相性が悪く家を出て姉に頼るが、姉の靴を履いて出回った挙句に、上司である恋人リチャード・バージにちょっかいを出して家を追い出されてしまう。

この映画での【靴】は人生の代名詞のようである。
 妹は姉の靴を履くことで彼女の生活をかき回し、昔から妹の面倒を見てきた姉は遂に爆発する。が、近親憎悪であり、心の底では妹を深く案じている。
 そうした微妙な心情を若き名女優トニ・コレットが見事に表現し、軽薄に見えながらも実はそれほど脳天気でもなさそうな妹を演じたキャメロンも好演の部類。

そんな二人には鬱で自殺した母の死後実父に隠された祖母シャーリー・マクレーンがいて、追い出された妹はフロリダに祖母を訪れる。全てを見すかされて養老施設の老人の世話をさせられるが、それにより難読症を克服し自信を得ていく。
 一方、ちょっかい事件により法律事務所を辞めたトニは元同僚マーク・フォイアスタインと親密になって行くのだが、これもまたすんなりとは行かないところへ、自信を得た妹の電話により新たな局面を迎えることになる。

ライトコメディの定石的なお話と思えるが、多くの現代人が抱いている孤独への潜在的な不安を癒すかのように真摯に作られた作品である。
 ほぼ文句なしだが、唯一残念なのは、自殺した母親を巡る一連の会話場面が冗長に感じられること。撮影に工夫が欲しいが、まあこれは好みレベルの不満と言うべきか。

シャーリーを支点とした女優三人の素晴らしいアンサンブルにハリウッド役者陣の底力を感じる。見事なものだ。
 また、妹の難読症を治癒する老プロフェッサー(私のことではないですぞ)に「逃走迷路」の悪役で映画デビューしたノーマン・ロイドが扮している。あれから六十余年。出演時91歳だったが、若い時の印象をそのまま残しご活躍とはご同慶のいたり。

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この記事へのコメント

viva jiji
2007年01月13日 09:13
>「逃走迷路」の悪役で映画デビューしたノーマン・ロイドが扮している。あれから六十余年。出演時91歳だったが、若い時の印象をそのまま残しご活躍とはご同慶のいたり。

あの場面はとても印象的で好きでした。
ノーマン・ロイドという名前、覚えておかなくっちゃ。
マクレーンといい、この男優さんといい、黄金期に
活躍した俳優さんは目の輝きが違う!

難読症。
昔、国語の時間に、歯がゆくなるくらい読めない同級生が
いましたけど“字を知らない”という原因だけでは
ないのかしらね。
読めない、という恐怖心からくる切迫心身症の一種かも。
2007年01月13日 22:43
オカピーさん、明けましておめでとうございます!☆
今年もよろしくお願い致します。

古き良き名優は、シャーリー・マックレーンもノーマン・ロイドもあまり作品を観たことがないのですが、その確かな名演によって脇をささえられ、演技派で知られるトニ・コレットと、こういう役はぴったりと思えるキャメロンディアスそれぞれの演技が良かったです。ほんとに大好きな作品の一つになりました。
オカピーさんが80点を付ける映画もなかなかないですよね☆
オカピー
2007年01月14日 01:36
viva jijiさん
そうそう、私もあの強烈な目のことを言おう迷った挙句に結局書かなかったのですが、素晴らしい目ですよね。

何度苦笑・・・ではなく・・・難読症とは余り聞きませんなんだ。
>切迫心身症
私は中学1年まで極度の上がり症で、教室で意見など言ったことがなかったですが、先生から馬鹿にされて奮闘、たまたま合併で新しい編成になった中学2年から積極的に発言するようになりました。
そんな私が後に会社で上役に反抗する一等の人間になるなど、当時の担任は想像だにできなかっただろうと思いますよ。
オカピー
2007年01月14日 01:40
rikocchinさん、おめでとうございます。
今年も宜しくお願い致します。

シャーリー・マクレーンはたくさん出演作がありますが、
上に上げた3本を御覧になったなければ是非御覧ください。
彼女のデビュー作「ハリーの災難」(ヒッチコックのおとぼけ作)での若々しく、達者な演技も見ものですよ。

若手の二人、ベテランのノーマン・ロイド、皆さん良かったです。
十瑠
2007年11月24日 16:26
いつか観ようと思いながら忘れていましたら、娘がレンタルしてきたので彼女より先に観ました。なかなかイイ映画でしたねぇ。

ところで、見ました原題の【in her shoes】の意味がいまいち掴めずにいまして、翻訳ソフトで探したら、「shoe」には「状況、立場、苦境」というような意味もあることがわかりました。
勿論、姉の「靴」にもかけているんでしょうが、in her と付くと、別のの意味もあるような気がしてきましたネ。
オカピー
2007年11月25日 01:56
十瑠さん、こんばんは。
トラコメ有難うございました。

娘さん、なかなか良いセンスをしているんじゃないですか!?

>題名
そうですね。
in her shoes は「彼女の身になって」といった慣用句、つまり、トニの靴を履いたキャメロンにトニの身になって行動せよという意味を掛けた洒落です。同時に、観客に対してキャメロンの身になって、と言っているような気もしますね。

一方邦題は工夫が足りないとは思いませんか。
十瑠
2007年11月25日 08:37
>「彼女の身になって」といった慣用句

あぁ、そういう慣用句があるんですか。この洒落はそれを知っていないと分かりませんよね。
邦題を工夫するとしたら、「靴」からは離れた方が(多分)いいでしょうネ。

昨日の私のコメント内に、余計な言葉や文字が入っていまして読みづらかったと思います。改めて陳謝いたします。(汗々)
オカピー
2007年11月25日 20:03
十瑠さん、コメント有難うございます。

>邦題
「鞄を持った女」という映画がありましたが、「靴を履いた女」ではタイトルになりませんよね。やはり靴は忘れた方が良いみたい。(笑)

>コメント
いえいえ、私など間違いがないことが滅多にありません。何より書いて戴けることが大事。^^

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