映画評「ヒトラー ~最期の12日間~」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2004年ドイツ映画 監督オリヴァー・ヒルシュピーゲル
ネタバレあり

1942年にアドルフ・ヒトラーの秘書に採用されたトラウドゥル・ユンゲという女性の回想録を映画化した戦争秘話というべき種類のドラマである。歴史家ヨアキム・フェストのノンフィクションがアウトラインを為している。

物語や映画において結末を知っていることほどつまらぬことはないが、本作には当てはまらない。ヒトラーが最後の日々をどう過ごしたかという興味が先に来ること、それをドキュメンタリー・タッチによる重厚な描写が支えていることがその理由である。倒叙もの的な楽しみがあると言えるのかもしれない。

若きユンゲ女史に扮したのはアレクサンドラ・マリア・ラーラ。

1945年4月、ヒトラー(ブルーノ・ガンツ)はソ連の猛攻に地下要塞仕立ての首相官邸に身を潜める。彼自身も絶望的な状況であることを知りながら無理難題を繰り出した挙句に、12年の愛人生活の末に結婚したエヴァ・ブラウン(ユリアーネ・ケラー)と愛犬と共に4月30日に自殺するが、戦争が終結するまでにさらに八日間も要することになる。

ヒトラーの人間面に迫った内容と言われているが、僕はそう思わなかった。確かに、絶望的な状況にあるのを知って本人も暗澹たる心境になっていたかと思うと、突然未来都市に夢を馳せ、地図を見ながら原油基地奪還などを語る不安定な情緒にそうした面を見出すことが出来るが、それよりも、その周辺にいる人々の盲信がドイツを誤った道に招いたのだというテーマが仄かだが力強く感じられるのである。
 ゲッベルス夫人(コリンナ・ハルフォーフ)の言動に特に顕著で、無理に道連れにされる6人の罪のない子供が憐れでならない。

と、思っているうちに本編が終った後本物のユンゲ女史が現れて「大量のユダヤ人が殺されたことに関して、知らなかったことは言い訳にならない」と述べる。「なーんだ、言っちまうのか。つまんないの」てなもんだが、僕の考えていたことも満更間違いではなかったと安心もした次第。そうした盲信や盲従が八日もの間無駄な血を流すことに繋がったと思うと、自業自得の面があるとは言え、残念でならない。

現在大きく取り沙汰されている学校でのいじめ問題が頭を過ぎった。ナショナリズムという時代のムードと、他人と違うことが容易に言えない空気が頗る似ているような気がしたのである。

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この記事へのコメント

viva jiji
2006年11月27日 20:36
岩波か中公かの文庫で「ヒトラーの左手、毛沢東の摺り足」(逆だったかも知れません)という本を本作鑑賞から数週間後、読みました。
ヒトラーはこの時期になるだいぶ以前からパーキンソン症を発症していたという証拠写真などを列記して検証していた興味深い本でした。
ガンツは口から食べ物を飛ばして激昂するヒトラーをうまく演じていました。

閑話休題。
ドイツではヒトラーという苗字は「抹殺」されたのでしょうね。
ああ、彼はベルギー人ですからベルギーでも。
じゃあ、ヨーロッパ全体でも・・ですね。

今の若者の保守化が不気味で仕方がありません。
ただ、世間知らずでの守りならいいのですが、どうやら違うようです。
“知る”ことに全く貪欲じゃないあの姿勢はどうしたものかしら。
彼らは“知らない”、ということが「怖くない」らしい。
それでなくても日本人は自分の考えを整理して述べ伝えることがヘタな国民だと国際社会に思われているのに。
オカピー
2006年11月28日 04:35
viva jijiさん
>パーキンソン病
映画の中でも後ろに廻した手が震えていましたね。
ヒトラーの父親がユダヤ人との混血という話もあるようですが? もし本当ならヒトラーこそ最初に死ぬべきだったでしょうに。

>ブルーノ・ガンツ
似ている似ていないなんて評は余りに無意味なので避けましたが、力演でしたね。内面から表情が出てくる良い演技でした。

>若者の保守化
三無主義的保守化ですね?
ああ、だからいじめで自殺するのですかなあ。物事に関心がなければ、将来はつまらないもの。
現在の若者の右傾化も大半は無知による思い込みによるものでしょうし、大分嫌な時代になってきましたよ。空気が・・・
ここは映画ブログなのでこの辺に留めますが、戦争だけは勘弁です。

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