映画評「シンデレラマン」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2005年アメリカ映画 監督ロン・ハワード
ネタバレあり

映画先進国のアメリカにおいても、映画技術上の力もないのにミュージッククリップやCM畑から即デビュー、CGという打ち出の小槌に恵まれて碌に工夫もせずにこしらえることを憶えた輩が多く、きちんと映画の撮れる人が少なくなっている。
 スティーヴン・スピルバーグ、クリント・イーストウッド、ロバート・レッドフォード(最近ご無沙汰)、そしてこのロン・ハワード辺りがクラシックな上手さを持っている代表格である。
 ハワードには職業監督的な弱さがあると思ってきたが、実話ものの秀作だった前々作「ビューティフル・マインド」に続くこの実話ものもがっちりと作っているので、そろそろトップクラスに据えて良いかもしれない。

1920年代後半ヘビー級ボクサーとして台頭したジム・ブラドック(ラッセル・クロー)は世界タイトル戦に失敗した時に右手を故障して以来連戦連敗、折しも勃発した世界恐慌の影響で妻と三人の子供たちを養うのもままならぬ状態になり、34年遂に右手を骨折、免許を剥奪されてしまう。日雇い人夫の仕事もそうそうなく、電気も止められ、生活保護局に赴き、ボクシング協会の人々に無心して子供を取り返す。
 その直後世界タイトル戦の前哨戦に空きが出来一戦限りの条件でリングに復帰するが、何と世界第2位の強敵から無心の勝利を勝ち取ったことで免許が再交付され、遂に世界タイトル戦にまで漕ぎ着けるのである。

勿論クライマックスは野獣的なチャンピオンとの試合で、激しい拳闘場面を撮らせたら実績のあるアメリカ映画は強い。ハワードは古い秀作群から学んだのであろう、ミドルショット、セミクロース、クロースアップを縦横無尽に駆使して力感たっぷりに試合模様を織り成していく。これだけでも観た甲斐がある。

一方、内容はボクシング映画としては異色と言えるかもしれない。貧しいのでハングリー精神は他のボクシング映画の主人公と共通するが、この作品の狙いはアメリカンドリームやサクセス・ストーリーではなく、家族を守ろうと謙虚にプライドをもって生きた男の半生を描くことにある。他のボクサーのように野心や自負心とは殆ど無縁で、とにかく家族を食べさせることのみが彼の関心であったことがよく解るように台詞その他に工夫が為されている。

彼の死を案ずる妻(レネー・ゼルウィガー)の描写もバランスが取れ好調。「炎のメモリアル」における消防士の妻の皮相的な描写とは雲泥の差である。

豊かな情感を内包しながらも、実話ということもあり、押し付けがましくなっていない点も大いに宜しい。ハリウッド映画の良い部分が全面的に出された秀作と言って良いと思う。

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この記事へのコメント

viva jiji
2006年11月02日 21:10
あんれ?プロフェッサー、ロン・ハワードに懐疑的じゃなかったのぉ~?
すごくホメられたよ~、ハワード監督。(笑)

1年以上前の私の記事、読み返しましたら興奮気味ですなあ、この文面。
だってこういう感じに作られているアメリカ映画って安心して観ていられるんですもの。

<ちょっと小さい声で・・・>
スピちゃんの「宇宙戦争」、私、買ってないから、最後の数行、読まんといてね、プロフェッサー、お願い!(笑)
chibisaru
2006年11月02日 22:57
いつもありがとうございます。
迫力の試合のシーンもよし、貧しくとも家族とともに支えあう姿もよし、何よりマネージャが良かったなぁ。
ただ、最後の試合のシーンが長く痛々しすぎて盛り上がっていた気持ちがちょっと冷めていってしまったのが残念でした。いい話だっただけにそこのところが勿体無いように感じちゃった。
オカピー
2006年11月03日 03:29
viva jijiさん
だから、認めようと言うんです(笑)。かなり映画作家的な素質もあるような気もしてきました。
ボクシング場面は、良いお手本が幾つもあるとは言え、上出来も上出来。見事でしたね。
どこかのブログで説明不足と書かれてありましたが、そんなことはありません。彼だか彼女だか知らないけど、世界恐慌のことを余り知らないんじゃないの?

「宇宙戦争」もそろそろWOWOWさんで出てくるんじゃないかなあ。私ね、53年の「宇宙戦争」が気に入っているので、楽しみにしているんです。評判なんて気にしない、気にしない。
オカピー
2006年11月03日 03:34
chibisaruさん、コメントなしで御免なさい。
カメラワークを堪能したから、かなり満足でした。映画にも色々な要素がありますから、そういうところで満足する小生みたいのもいます。勿論、物語と映像のバランスが取れている映画が良いわけですが、本作は物語もしっかりしていました。
長いと言えば長いですが、必要な長さじゃないでしょうかねえ。

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