映画評「男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1984年日本映画 監督・山田洋次
ネタバレあり

「男はつらいよ」シリーズは第1作を除いてテーマ【映画 あ行】から省きましたので、テーマ【山田洋次】にて検索をお願い致します。

シリーズ第33作。今回の夢は「第三の男」を思わせる音楽と「霧の波止場」を思い出させる霧にむせぶ都会の片隅。ということで今回は霧がムードを盛り立てる。

今回のマドンナ・風子(中原理恵)との出会いは釧路の理容室という変わり種。彼女が理容師の免許を持っていて職探しの最中だからである。
 出会った理容室ではなく広場で初めて二人に会話を交わさせるのがうまい。

釧路から根室まで一緒に旅することになった二人は、出ていった妻を追いかける未練男(佐藤B作)と知り合う。男が話を始める時に背広を脱ぐところなど細かい演出にも手抜きがない。

彼女が霧が舞う中を旅館にいる寅さんを訪れる場面はプロ好みの優れたシークェンスにより成り、その旅館でフーテンを気取っていても根は堅気の娘であると察知した寅さんが風子に説教する場面は彼の心情が篭っていて実に重い。
 翌日別れる時風子が「寅さんがもう少し若かったら結婚するのに」などと言う。何とも罪深い言葉で、寅さん即ち渥美清の寂しげな笑顔が身に染みるのだが、これは山田洋次の「寅さんは傍観者」宣言のような気がしないでもなく、彼は彼女に恋をするより身の置き所を心配するばかりで、大人になってしまった寅さんに一抹の寂しさも禁じえない。

それから舞台は柴又になり、アクロバット・ライダーのトニー(渡瀬恒彦)と同棲中に病に倒れた風子をとらやの一家が救出し、彼女も堅気の重大さに気付き始める。

今回は<浮草稼業と堅気>がテーマで、弟分(秋野太作)と出逢う序盤から色々な形で語られているが、寅さんがトニーに別れを勧告する場面でトニーの放つ「あにさん、見かけによらず純情ですね」という言葉は寅さんの性格を端的に示して、我々の心に切なく響く。
 結局彼女は北海道の山奥で堅気の男と結婚、寅さんが熊にかじられた雪駄を見て気を失う不始末の後、カメラは俯瞰してとんでもない山奥であることを示して全巻の終り。

珍しい終わり方だが、僕の住んでいるところも似たようなもので、夜になると日本猿が家の廻りに出没する。猪に気を付ける以上に猪を狙う猟銃に気を付けろと言われてもいる。幸い熊の話は聞かないが、たぬきやはくびしんやうさぎは当たり前のようにいる。

余談はさておき、全体としての重量は中量級といったところだが、霧などの小道具、カットの呼吸、場面の繋ぎ、相変わらず見事だね。

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この記事へのコメント

PANA
2006年10月23日 12:58
本レビュー拝見して、すっかり、共感しましたね。

昨日、民家に熊が出没するニュースを見たばかり。この映画の最後は面白いのですけど、現実に戻ると、笑えなくなりました。
オカピー
2006年10月23日 17:46
PANAさん、こんばんは。
TBは戴いておりましたが、コメントは初めてでしたよね。今後とも宜しくお願いします。

そうなんですね。私も笑ってばかりもいられないなあと思いました。クマが出没するのにも人間が無関係ではなく、にもかかわらず一方的に殺されるケースが多い。悲しいですね。
ぶーすか
2006年10月27日 17:17
「第三の男」っぽい音楽を使った夢など、オールド・ムービー・ファン泣かせの夢でしたねー。
しかしそちらにも熊がよく出没するんですか!私は熊には縁がない沖縄なので、雪駄を半分かじられ気絶する寅さんに大笑いして楽しんでましたが…現実に熊被害がある地域では笑い事ではないですね…スミマセン^^;)。
オカピー
2006年10月28日 01:06
ぶーすかさん、毎度です。
浅間山と妙義山に挟まれたところですからね、動物はかなりいますよ。うっかり山に入られたら猟銃に襲われる可能性もあるので、怖いですね。子供時代はそんなことはなかったのですが、やはり環境破壊ですかね。人間も罪深いものです。
しかし、映画を観ている間は笑ってください。

映画のほうですが、昔観た時よりずっと面白かったですね。主題のたたみかけが素晴らしく、細かい演出も実に上手い。

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