映画評「ノー・マンズ・ランド」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2001仏=伊=ベルギー=英=スロヴァキア映画 監督ダニス・タノヴィッチ
ネタバレあり

2003年度第2位です。下記はその時の映画評です。

19世紀以来ヴァルカンの火薬庫と言われる地帯が再び火薬庫に戻ったのは東欧諸国の共産党体制が崩壊した1990年頃であるが、これは旧ユーゴ解体で敵国同士となったセルヴィアとボスニアとの間に起きる珍騒動を皮肉たっぷりに描く反戦映画である。

両国の中立地帯【ノーマンズ・ランド】に息を潜めていたボスニア兵の前にセルヴィア兵2名が現れ、ボスニア兵の死体の下に地雷を仕掛ける。
 その隙に銃を奪ったボスニア兵が敵兵1名を射殺するが、その時死体と思われていたボスニア兵が生きていることが判明、彼が動いた瞬間に地雷が爆発してしまうので、ボスニア兵と生き残ったセルヴィア兵はいがみ合いながらも一致団結して彼が動かないように見張り、同時に地雷を取り外す手筈を進める羽目になるのだが、手配した国連軍がやって来ても結局取り外しは不可能と判明する一方で、騒ぎを聞きつけたマスコミが駆けつけ、中立地帯は大騒動になる。

今までユーゴ紛争絡みの作品は少なからず観ているが、鑑賞後の戦慄という点でこの作品を超えるものはない。
 その戦慄は、直球ではなくブラックなユーモアにより大きく醸成されているものであり、印象も実に深い。それも当事国であるボスニアの人間ダニス・タノヴィッチ(デビュー作)が作ったという事実がその価値をさらに大きくする。
 馬鹿げた騒ぎの向うに戦争本体の狂気を浮かび上がらせるという手法の鮮やかさは、彼が実際軍人だったから成しえたものか知れない。
 屋外のドラマにも拘らず場所を限定し舞台劇的なムードに繋げられたのがブラック・コメディーとして成功した要因ではないかとも思う。

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この記事へのコメント

十瑠
2006年09月11日 14:58
そうそう!舞台劇のような面白さがありましたよねぇ。

3年前に、内容を知らずに観た時の記事は<http://blog.goo.ne.jp/8seasons/e/a2191b9e5e9f35f856164a787b5df9f7>。
ラストシーンの衝撃というか、やるせなさはタイトルを聞く度に思い出しますね。
オカピー
2006年09月11日 15:50
十瑠さん、こんにちは。
素晴らしかったですね。ラストシーンには戦慄を覚えますね。
デビュー作にしてこの巧さ。そういう面でも感動致しました。
それでは、今からそちらへ出かけたいと思います。
FROST
2006年12月15日 22:19
オカピーさん、TBありがとうございました。主人公がローリングストーンズのTシャツを着ているあたり、第二次大戦など昔の戦争に関する映画よりもはるかに生々しさがあります。この作品を機会にボスニア紛争のことも多少調べてみましたが、酷い内戦だったようですねぇ。ラストシーンはゾッとしましたよ。忘れられないと思います。
オカピー
2006年12月16日 02:55
FROSTさん、こちらこそ。
同じブラック・コメディーでもヒッチコックの「ハリーの災難」は笑わせることが目的ですが、こちらは心底からぞっとさせるのが目的ですね。
神の視点ではぞっとするような悲劇も笑いである、そういう意味でのブラック・コメディーであり、バルザックの言う【人間喜劇】でしょうね。ボスニア軍の軍人だったという監督としては大悲劇としては作れなかったのだと思います。
モカ
2021年02月15日 11:25
隊長、おはようございます。

昨日報告し忘れた事がありまして、突然ノーマンズランドに現れた次第です。 
アマゾンプライムで「みかんの丘」というのを観ましたがご覧になりましたか? まだなら是非ご覧ください。
「ノーマンズランド」とは少し味わいは違いますがこの「みかんの丘」も負けていないと思いました。 私の情報不足なだけかもしれませんが、「ノーマンズ・・」ほど話題になっていないようで、「タイトルからほのぼのした感じがするからか?」とか20年前と比べて地味なヨーロッパ系映画が許容されにくい状況なのかとか色々考えてしまいました。
冒頭、エストニア、グルジア、コーカサス、アブハジア・・・と簡単な状況説明が入り、正直これはややこしそうな映画かも?と危惧しましたが、その辺に無知でも(もちろん知っているにこした事はないですが)大丈夫でした。

朝のニュースによると今回の地震で津波が起こる可能性は十分あったらしいですね。 怖いです。
2,3日前に孫となぞなぞの本を読んでいたら「海べで行ったり来たりしてるものなぁに」に1年生が「つなみ!」と答えました。
答えはもちろん「波」ですが何だかびっくりしました。
モカ
2021年02月15日 15:36
追記です。
アマゾンプライム無償視聴はあと5日で終了するようです。御用とお急ぎのない方も若干ある方も見ていただきたいです。
オカピー
2021年02月15日 20:18
モカさん、こんにちは。

>アマゾンプライムで「みかんの丘」というのを観ました
>アマゾンプライム無償視聴はあと5日で終了するようです。

みかんならで、未鑑賞です^^
情報有難うございました。明日にでも観ます。

>20年前と比べて地味なヨーロッパ系映画が許容されにくい状況なのか

1980年代以降アニメに引っ張られてきた邦画が90年代後半くらいにTV界に牛耳られ、あるいはCG が賑やかなハリウッドの大作により、映画文化が次第に子供化してきて、欧州映画は映画マニア以外から敬遠されているのでしょう。シネマコンプレックスというのも良くないかな。

>今回の地震で津波が起こる可能性は十分あったらしい

マグニチュードが7くらいでしたから、あったかもしれませんね。10年前の大震災のマグニチュードは9くらいでしたから比較になりませんが。

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  • #025『ノー・マンズ・ランド』ダニス・タノヴィッチ監督/2001年フランス他

    Excerpt: ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争真っ只中の1993年。塹壕の中に取り残された2人のボスニア兵チキ、ツェラとセルビア兵ニノ。ツェラは砲撃で気を失っている間に、セルビア兵によって体の下に地雷を仕掛けられてしま.. Weblog: カルトでも、インディーズでも、アートでも。(C.I.A) racked: 2006-12-15 22:05