映画評「山椒太夫」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1954年日本映画 監督・溝口健二
ネタバレあり

児童向けには「安寿と厨子王」として知られる、長者没落伝説に取材した森鴎外の同名小説を溝口健二が映像化した悲劇で、溝口がヴェネチア映画祭で三年連続受賞(銀獅子賞)の快挙を遂げた作品。

平安時代末期、筑紫に流された元国守(くにのかみ)の父を訪ねて、母・玉木(田中絹代)と共に旅をし続けた安寿と厨子王が越後で人買いにさらわれ、母は佐渡、兄妹は丹後の荘園主・山椒太夫(進藤英太郎)に売られてしまう。
 時は流れて成長した安寿(香川京子)は兄(花柳喜章)を逃した後湖に入水して果て、見事逃げ切った厨子王は都へ上り、持仏の導きにより丹後国守に立身出世、国内での人身売買を禁じると自ら辞職し、佐渡へ渡って漸く老母と再会する。

姉と弟の関係が逆転している以外物語のアウトラインは原作とほぼ同じで、権力の凄みと諸行無常、盛者必衰を同時に感じさせる物語となっている。
 しかし、この物語が心にしみ渡るのは、宮川一夫の神業的な美しい撮影のおかげと言って良い。
 一行が野宿する前のススキ野、安寿が入水する透明な湖、そして母と再会する佐渡が島の樹木など、最高の水墨画と比肩しうる幽玄な美であり、嫌が上にも物語が心に染み込んで来るのである。

最高の撮影監督に支えられた溝口の長廻しも既に堂に入ったもの、頗る自然体なので展開が非常にスムーズに行われている。

演技的には臈たけた貴婦人から盲目の老女まで流転の人生を演じ切った田中絹代が抜群。凛とした強さを持つ安寿を演じた香川京子も良いが、原作のように安寿にもっと光を当てる展開ならさらに物語のコントラストが増したように思う。

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この記事へのコメント

ぶーすか
2006年09月07日 21:59
原作どおりに姉・弟にしていたら、もっと「安寿にもっと光を当てる展開」になったと思うのですがあえて逆にしたのにはそれなりの訳があったのでしょか…?逆になったおかげで「ダメな兄貴」が強調されている感じは受けましたが…。女よりも男は駄目だというテーマを貫きたかったのかなぁ…?
オカピー
2006年09月08日 02:47
ぶーすかさん、こんばんは。
原作どおりにすれば勿論安寿に光を当てることができたと思うのですが、その理由は解りませんねえ。案外ヒッチコックが苦しんだキャスティングの問題かもしれません。例えば、花柳喜章を押し付けられて兄にせざるを得なかったとか。
溝口健二に詳しそうな用心棒さんにでも訊いてみましょうか?
2006年09月09日 01:52
 オカピーさん、こんばんは。もともと企画を辻久一が持ってきた段階で、花柳喜章と香川京子の競演自体は決まっていたようです。
 また溝さんも原作のように子供を撮りたくはなかったので、奴隷絡みのリアリズム作品として製作されました。年齢が花柳のほうが年長だったため彼を兄にして、香川を妹にしたようです。
 奴隷絡みなので、香川を売春婦にまで落魄れさせるという、もっとドロドロした展開にすることも出来ましたが、流石にそこまで救いのない話しには出来なかったんでしょうね。
 厨子王の落魄れ方に比べ、安寿は処女性を保ち、穢れていないのは不自然なんです。綺麗な女は商品としての価値はあったので、あの場所にあの年齢の彼女がいること自体、ある意味で映画的ではあります。
 
2006年09月09日 01:53
続きです。
 母も娘も落魄れさせる方が、貴族が崩壊していく過程のリアリティと滅びの美学を表現できるという芸術性は増しますが、やりすぎると不愉快にもなりますし、娯楽の殿堂の映画に観客がそのような展開を望むとも思えません。
 ただ堕ちる女を描かせれば右に出る者がなかった溝口監督でしたので、もしこのように母娘ともに生き地獄に落としていれば、さらなる凄みが加わっていたのは確実でしょう。ただ香川京子ファンとしては、そのような彼女を観たいとは思いません。
オカピー
2006年09月09日 14:23
 用心棒さん、かたじけありません。
 やはり、最初にキャスティングありき、でしたか。当時はスター・システム時代ですから、なかなかこれは避けられなかったようですね。
 その障害がなければ原作どおりの方が良かったと思います。原作では、額に刻印を押される残酷場面はありますが、掃き溜めに鶴といった風情の凛とした安寿が強い印象を残します。彼女が厨子王を終始リードして逃亡場面に至る。映画では安寿が妹にしてしまったので、その辺りが心理の流れとして弱いというかやや強引な印象があります。
現象
2006年12月18日 01:21
オカピーさんこんばんは。いやはや美しさに目を奪われました。すすき野や湖、浜辺など、人物と空白のバランスが芸術だと思いました。まさしく幽玄ですね。香川京子は見る度に好きになっていく… 僕の中でアイドル化しつつあります。
オカピー
2006年12月18日 15:38
現象さん、こんにちは。
溝口健二と宮川一夫のコラボレーションの素晴らしさでしょうね。新しい映画ではちょっと期待できそうもありません。
香川京子は昔から好きでした。黒澤明・小津安二郎・溝口健二・成瀬巳喜男・木下恵介と、日本の五大監督と称しても良い巨匠たちに使われましたね。品もあるし、演技もしっかりしている。良いですなあ(笑)。
オカピー
2006年12月18日 15:47
上の文の訂正
香川京子は、木下恵介の作品には出演されていないかもしれません。
トム(Tom5k)
2007年03月09日 23:26
>オカピーさん、連コメ、お許し下さい
毎日、溝口作品ばかり観て、疲れてぐったりです。頭の中とはいえ、厨子王の浮き沈みを体験したものですから。
公家から奴、奴から公家、そして、正義を貫いてしまった故、平民になって乞食同然の元公家の母に再会、最愛の父と妹は他界しているという、ただでさえ疲れるストーリーテリングを、更に疲れるあの「長回し」で観せられることに苦痛すら感じます。
芸術を享受することは、観る側にも強い緊張を強いられますね。
しかし、溝口監督、素晴らしいです。
では、また。
オカピー
2007年03月10日 02:55
トムさん、こんばんは。
ヴィスコンティやフェリーニやベルイマンを連続で見ても疲れるでしょうね。まして溝口の影響が大とも聞くアンゲロプロスなんて一本でもぐったり、二本連続なら謝礼が貰いたいくらい(笑)。その点、ヒッチコックは良い。

かつて故・淀川長治さんは<映画と格闘する>つもりで映画を観なさいと仰りましたが、上記監督の作品はヒッチコックを含めてそういうタイプの作品を作る映画作家でしょうね。

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