映画評「雪夫人絵図」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1950年日本映画 監督・溝口健二
ネタバレあり

没後50年ということでNHK-BS2で溝口健二の特集が組まれている。「夜の女たち」も「浪華悲歌」もないのは寂しいが、入門編に必要な作品は全て網羅されております。本作は耽美主義作家・舟橋聖一が1948年から50年にかけて発表した同名の代表作を映画化したもの。

名門信濃家の娘・雪(小暮実千代)が、華族制度廃止の為に持参金付きで成金の直之(柳永二郎)を婿に迎えるが、父の死によりいよいよ直之がのさばり始める。
 妾(浜田百合子)をこしらえただけでなく、それを旅館に変えた彼女の別荘に連れてきて女将にするなどと言い、雪を娼婦扱いにするが、彼女も自らの肉体的要求の為に愛人である小唄の師匠(上原謙)の許へ走れず、夫の誤解も受けた末に芦ノ湖に入水自殺する。

という話が若い小間使(久我美子)の視点で語られている。
 戦後の華族制度廃止に伴う没落階級を巡って小説では「斜陽」、映画では「安城家の舞踏会」「お嬢さん乾杯」といった秀作・佳作が生まれたが、溝口のこの映画版はまあまあといったところで佳作とまでは行かない。
 当時の映画倫理の都合上官能的な場面が全く描けなかったことで、嫌悪する夫の要求を自らの淫蕩さ、被虐性により拒むことが出来ないヒロインの心理的相克と矛盾が曖昧になったことがその主な理由だが、小間使の態度を通して間接にその淫蕩さを描くなど工夫の跡は伺われる。

50年代ヴェネチア映画祭で三年連続で受賞した作品がいずれも時代劇なので、溝口は時代劇の作家と思っている方も多いだろうが、実は現在をリアリズムで切り取り人間を描き出すことを映画作りの目標としていたように思う。
 <現在>を描いた作品では「浪華悲歌」「祇園の姉妹」など戦前作に秀作が目立つが、戦後でも「夜の女たち」は上出来。

また、溝口と言えば長廻し若しくはワンシーン・ワンカットが話題になるが、本作ではその必要性がなかったせいかこの時代としては平均的な長さのショットが多かったように思う。
 長廻しは役者のテンションを上げる為には良い手段だが、省略ができない手法故に展開に時間がかかるので、映画の性格によっては使うべきではない。長廻しだから芸術になるなんてのはとんでもない勘違いである。

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この記事へのコメント

ぶーすか
2006年08月31日 17:05
TB有難うございます。連日放送の「没後50年 溝口健二特集」嬉しい企画で歓喜してます。溝口健二の作品はそう沢山みてないので、今回のも見てない作品が多いのですが、「浪華悲歌」「夜の女たち」も未見なので見たかったです。他「祇園祭」「浪花女」も見たかった!そして再見したかったのが「お遊さま」と「西鶴一代女」。はちゃめちゃな「新・平家物語」はラインナップから外してもイイのに…。
オカピー
2006年09月01日 01:10
ぶーすかさん、こんばんは。
良い企画ですね。入門編として抜けて残念なのは「西鶴一代女」くらいで、充実したラインアップですね。「西鶴」はフィルムが手に入らなかったのでしょう。
出来れば私が挙げた二作も加われば満点でしたね。私の観た一番古い溝口作品は「瀧の白糸」ですが、これ以外のサイレント映画は殆ど消失してしまい、傑作と評判の「紙人形春の囁き」も観られません。嗚呼日本映画界の不甲斐なさよ!

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  • 「雪夫人絵図」

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