映画評「下宿人」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1926年イギリス映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり

アルフレッド・ヒッチコック第3作。
 ヒッチコック最初のスリラー映画であり、出世作。フランソワ・トリュフォーとの対談の中で本人は「最初のヒッチコック映画だ」と述べている。
 原作は英国のマリー・ベロック・ローンズの小説及び戯曲「彼は誰?」。その後二度リメイクが作られ、そのうち44年版は「謎の下宿人」として日本に輸入されている(鑑賞済)。因みに、本作は公式には日本未公開。

ロンドンで金髪娘だけを狙った連続絞殺事件が発生する。出だしは晩年の傑作「フレンジー」の原型である。暫く事件が電子タイプライターや電光掲示板、そして人々の噂を介して世間に広まる様子を描いた後、いよいよ主人公たるイヴォー・ノヴェロが現れる。
 電灯がガスの欠乏により暗くなり、コインを入れるとガスが供給され電灯が明るくなる。そこへ顔の下半分を隠した彼が現れるのだが、観客は彼が報道されている犯人の姿と同じなのでびっくり、ガス電灯が恐怖映画風の小道具として上手く扱われている。しかし、こういう形でガスが供給されていたとは知らなかった。

彼は下宿人となるが、この家には妙齢の金髪娘ジューン(紛らわしいがこれで芸名)がいて二人は懇意になる。彼女の恋人はスコットランド・ヤードの刑事だが、激しく嫉妬するので嫌われてしまう。下宿人が家から出た晩またもや事件発生、いよいよ怪しくなってくる。
 この辺りでは彼が二階で落ち着かず歩き回っている場面が下から透けて見える演出がある。これはサイレント映画だから面白いのであり、足音を挿入することの出来るトーキーではうるさい映像になってしまう。因みに、天井を透明ガラスにして撮ったと言う。

また家の中での視点は不安を醸成する為に殆ど母親のものである。サスペンスでは客観ショットと主観ショットの切り替えの適切さが特に重要だが、この一作に関してはその上手さより、サスペンスにおける主観ショットの重要性を提示しただけで十分価値がある。後年の傑作「鳥」の室内シーンと見比べると大変興味深い。

以降のサスペンスは彼が犯人なのか否か観客がわからない作劇により構成されるが、終盤遂に警察が現れ、彼を逮捕する。隙を見て逃げ出した彼が手錠により鉄柵に引っかかってしまい、群衆がリンチを仕掛ける。
 鉄柵にぶら下がる彼の姿は、キリストの磔を意識したものというが、ヒッチコックによれば<何か>に縛られていることを暗示したかったらしい。それは後で判るが、ここでは伏せておこう。

弁士なしのサイレント映画は大変緊張を強いられる一方で、サイレント映画を観続ければ明らに映画の読解力は増す。昭和30年世代としては相当サイレント映画を観てきた僕ではあるものの、見落とす場面も多く、それ故に巻き戻して観た個所も幾つかある。二度目の鑑賞だが、まだまだこの作品を十分把握したと思っていない現状では、上記の星が限界。

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この記事へのコメント

nessko
2018年08月13日 19:01
原作を読んだのでトラックバックしました。映画もYouTubeに出ていました。
映画は映画向けにうまく脚色されていましたが、原作はじっくり楽しめるおはなしになってて、こういう小説はいいなあと思いました。
オカピー
2018年08月14日 10:48
nesskoさん、こんにちは。

>YouTube
映画は一部の作品を除くと、製作後70年(以前は50年)でパブリック・ドメインになるので、自由に観られるんですね。
良い時代だなあ。

>原作
おおっ、日本語で読めますか。
読んでみたい。残念ながら、群馬県の図書館にはなさそうなので、買うしかないようです。

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