映画評「恐喝」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1929年イギリス映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり

アルフレッド・ヒッチコック第10作。
 日本未公開なので、メディアにより「脅迫」「ゆすり」「ブラックメイル」という異なった邦題もある。英国の劇作家チャールズ・ベネットの同名戯曲の映画化。
 本作は日本未公開ではあるが、映画史において重要な一編。ヒッチコック最初のトーキー映画というだけでなく、英国映画トーキー第1作でもあるからである。

ドラッグストアの娘アニー・オンドラが知り合ったばかりの画家のアトリエで強姦されそうになり、手元にあったナイフで刺す。翌日画家は死体で発見されるが、担当となったのが彼女の婚約者である刑事ジョン・ロングデンで、現場に落ちていた手袋から彼女の犯行と気付く。

序盤は最近の映画と同じように、スコットランドヤードの逮捕劇である。かなり奇妙な感じを与えるのが第一巻丸ごとサイレントで作られていることだが、実は本作はサイレント版とトーキー版が同時に作られたらしく、その名残りかもしれない。
 続いては、ナイフで刺した後の娘の茫然自失とした様子がかなり重点的に描かれる。例えば、ネオン・サインがナイフを振り下ろすように見えたり、巡査の手が倒れた画家の手に見えたり、主観ショットを巧みに織り込んで興味深い場面が連続するのだが、他の言葉が小さくなり<ナイフ>という言葉が強調される、トーキーの特徴を生かした演出がやはり断然際立っている。
 彼女の主観ショットは幕切れの画家の絵でも巧く扱われているので、お見逃しなく。

さて、正体不明の男が二人の秘密を知って脅迫しようと店に居座ろうとするのが後半の見どころの一つであるが、現在のストーカーの恐怖に通じるものがある。「サボタージュ」などのテロリズム、「殺人!」の同性愛問題、「汚名」の核開発など、ヒッチコックの先見の明には驚かされることが多い。
 また、この脅迫男を巡る追っかけシーンは、後の「逃走迷路」や「北北西に進路を取れ」と共通するものがあり、ヒッチコック研究には欠かせないものである。

当時は同時録音だった為にヒッチが苦労した逸話が知られている。
 前作「マンクスマン」でも主演したアニー・オンドラは、ドイツ人で英語が全く駄目なので、ジョーン・バリーという英国女優の言う台詞をヘッドフォンで聞きながら彼女の演技を見ることになったという話である。「雨に唄えば」を見れば分るように、トーキー初期にはこの類のドタバタは幾つもあった。
 因みに、ジョーン・バリーは第14作「リッチ・アンド・ストレンジ」で主演している。

作品全体としては若干バランスの悪さを感じさせるものの「暗殺者の家」以前のヒッチコックの作品としては1,2を争う出来栄えと言って良い。

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この記事へのコメント

FROST
2006年11月17日 01:42
TBありがとうございました。こちらからもお返しいたしました。
ヒッチコックらしい細工は満載で楽しかったですね。私が観たDVDは画像がひどくて、役者の顔が白く抜けてしまって、例の影で悪党ひげが出来るところなど良く見えな九手残念でした。良い画像で見直したいものです。
オカピー
2006年11月17日 03:42
FROSTさん、こんばんは。
TBは入っていましたか。何度繰り返しても反映されていなかったものですから。
私のDVDも輸入品で大したことはなかったかも。それ以外にビデオも持っていますけど、そちらはどうだったかな。

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