映画評「ハーフ・ア・チャンス」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1998年フランス映画 監督パトリス・ルコント
ネタバレあり

この作品は古いフランス映画に親しんできたファンにとっては一種の感慨を起こさせる。60年代から70年代フランス映画界を二分していたと言っても良い二大スター、アラン・ドロンとジャン=ポール・ベルモンドが共演しているからである。
 二人は「ボルサリーノ」で人気絶頂期に本格的共演を果たしているが、それ以来29年ぶり、初老に入った二人の共演には全く別の意味があると思う。

車を盗むのが上手いお嬢さんヴァネッサ・パラディが、高級車専門ディーラーのベルモンドとレストランの経営者で実は大泥棒ドロンの前に現れて「自分はどちらかの娘である」と告げるが、この三人が血液検査でバタバタしている間に、お嬢さんが南仏を拠点に麻薬組織と関係を結んで暗躍しているロシア・マフィアの大金を積んだ車を拝借したことから、命がけの大騒ぎに発展。
 大金は麻薬組織を捜査中の警察が奪っていて、マフィア側は誠に無駄な攻撃をしているわけだが、このベテラン二人が世紀の大泥棒と軍隊の精鋭だった人物なのでとんでもない反撃を受けてしまう。

監督がパトリス・ルコントというのは意外だが、同時にただのコメディー・アクションではないことを匂わせる。つまり、パロディーである。ハリウッド・アクション映画のパロディーであるのは言うまでもないが、60-70年代フランス映画に対するオマージュでもあるというのは考えすぎだろうか。
 娘が20年後にどちらが父親であるか調べようとする設定は、実は、20年前二人のどちらがフランス映画の王様だったのかという楽屋裏的な命題を洒落っ気たっぷりに提示し、フランス映画の一つの時代を懐古する目的もあったような気さえするのである。
 絡んで来る若い刑事の名前がキャレラというのは、単なる偶然かもしれないが、二人に続くもう一人のフランスの大スター、ジャン=ルイ・トランチニャンがかつて演じた刑事の名前であり、実に面白い。

全体にコミカルさはベルモンドが60年代に出演した「男」シリーズを思わせ実に楽しく、「ルパン」ファンの僕が個人的にルパンを演じて欲しかった唯一の俳優ドロンが世紀の大泥棒に扮しているのがご機嫌。

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この記事へのコメント

かよちーの
2006年07月07日 17:31
ベルモンドとドロンはそれぞれ素敵だと思うのですが、多分わたくしとしてはこれを観てベルモンドのほうが素敵と思ってしまいました~。
アホコメントですみません・笑。
オカピー
2006年07月07日 21:23
わ~い、かよちーのさんだっ!
映画に関するコメントなら何でもOKです。
同じフランス人でもああ違いますかね。ドロンはラテンの血が濃さそうですね。てなわけで、ドロンの大泥棒もいいんじゃないかなあ(笑)。
見たかったよ~、ドロンのルパン。ロマン・デュリスみたいな小僧じゃ駄目だよ~。実はルパンが大好きなのでした。
トム(Tom5k)
2006年07月07日 22:55
>オカピーさん
いいですよね。ドロン&ベルモンド
そして、キャレラ刑事でトライティニャンを忘れていないとは、ルコント監督は憎いですね。わたしは、オカピーさんの記事を読むまで、全然、気づきませんでしたよ。
ところで、ルコント監督は、この14年前にジェラール・ランバンとベルナール・ジロドーのコンビにより、似たテーマの『スペシャリスト』というコメディー・アクションを撮っているようです。そういう意味で『ハーフ・ア・チャンス』は、『スペシャリスト』の連作とも考えられるようですね。『スペシャリスト』は、フランスで大当たりしたそうで、ドロンとベルモンドに1度に20年も年を取って、時代遅れの俳優になったような気分だ。とまで言わしめさせたそうです。
まさか、その時点では、14年後にドロンどベルモンドでルコント監督が映画を撮るなど、誰も想像していなかったでしょうね。
そういえば、楽蜻庵別館でも『ハーフ・ア・チャンス』をアップされているようですよ。
では、また。
オカピー
2006年07月08日 14:35
トムさん、こんにちは。
今回はトムさんばりに、内容的には大して書くこともありませんから、背景にまで踏み込んで見ました。
キャレラに関しては偶然かもしれませんが、仮に関係なくても、そう思って観ていると実に楽しい映画ですよね。そうすれば70年代犯罪映画中心に活躍した三人が揃い踏みということになりますから。
この作品のお遊び感覚が分らないと「くだらない」という評価になるでしょうが、映画は硬くばかり観ても駄目です。
みのり
2006年07月08日 20:58
TBありがとうございます。
オカピーさんの記事を読み、そういうことだったのかと改めて感じ、面白く思いました。 
オカピー
2006年07月09日 00:20
みのりさん、こんばんは。
ルコントの作品をそのままストレートに観ても、何ですからね。
観ているうちにそんな気がしてきました。
キャレラは実際どうなのか、ヒッチコックに対するトリュフォー宜しくルコントに訊いてみたいものです。
シュエット
2008年05月03日 00:54
今晩は。
山中貞夫の「百万両の壷」観まして、感想はまだですが、P様レビューされているかと探していて、本記事が眼に入り…
「ボルサリーノ」ではクレジットで大いにもめたとか…このエピソードは「タワーリング・インフェルノ」のポール・ニューマンとマックィーンだったかな?…いずれにせよ嬉しい共演。当時を髣髴とさせるような台詞などには思わずニヤリとしました。オマージュでしょうが、ルコントのこんな粋な計らいは嬉しい。
>ジャン=ルイ・トランチニャンがかつて演じた刑事の名前
ここまでは気がつかなかった。多分そうでしょうね。
かつてトラティニャンが極悪人でドロンがそれを追う刑事役で共演してましたね。この二人の共演などもしないかしらね。
しかし本作、ベルモンドが案外と素直に年取っていて万年青年ぽい中年になっていて、ちょっと年月を感じましたね。
シュエット
2008年05月03日 01:07
山中貞夫→山中貞雄でした。すみません訂正。
オカピー
2008年05月03日 02:37
シュエットさん、こんばんは。

一つの映画でフランス犯罪映画史を俯瞰できるなんて楽しいですよね。
まあ、これは僕の勝手な理解なんですが。
60~70年代のドロンとベルモンドの犯罪映画、アクション映画で楽しんできたファンとしては、こんなに嬉しい作品はないのでした。
今の40以下には解らん感覚でしょう。

>百万両の壺
簡単な記事ですが、一応あります。
http://okapi.at.webry.info/200509/article_73.html
トム(Tom5k)
2017年12月31日 22:21
オカピーさん、こんばんは。
年末年始休暇中に、久しぶりにブログ更新いたしましたよ。ようやく、この「ハーフ・ア・チャンス」の更新です。
世間で言われている父・娘の関係のことを内容にしましたので、映画のコラムになっていませんよ(笑)。お暇な時にでもご高覧ください。
最近、ジャン・ギャバンの作品をよく見るんですけれど(「現金に手を出すな」の前に撮った作品のDVD3集目が発売されました)、ギャバンも40代は柄にもないメロドラマをたくさん撮っていて、作品の主人公として女性にどう接していいのか試行錯誤していたことが良くわかります。
この時期を徹底したダンディズムで乗り切ったことが、つまり「現金に手を出すな」に巡り会ったことが50代になって全盛期を迎えることができた原因だったことがわかりますよ。
ドロンもベルモンドもそこは弱かったのかな?

この作品は最も客入りの良かったアクションやノワールの作品で考えると、この二人のキャリアへの賛美を作品にしたともいえますよね。逆に淀川長治さんはドロンとベルモンドの作品にしすぎたためにルコントの作家性をうまく出すことができなくて残念な部分もあると雑誌で読んだ記憶があります。
スターと作家主義の矛盾ってこんなところにもあったんだなあって当時、考え込んだ記憶がありますよ。

では、また。来年もよろしくお願いします。
オカピー
2018年01月01日 19:53
トムさん、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

>映画のコラムになっていません
年末から年始で多忙ですので、いずれ、拝読した後にそちらの記事に何かしら書きたいと思います。お待ち下さい。

>ギャバンも40代は柄にもないメロドラマ
観ていますよ。「狂恋」あたりはつまらないですが、「港のマリィ」は割合好きでしたよ。

>ドロンもベルモンドも
比較すれば、そういうことになりますかね。
ところで、「太陽が知っている」のリメイク「胸騒ぎのシチリア」はご存じですか? まさかあの作品のリメイクが作られるとは。

>ルコントの作家性をうまく出すことができなくて
淀川さんの指摘に異論はありませんが、ルコントのお遊びと思って見れば相当楽しめると思います。それが常態になっては困りますが、時には良いでしょう。僕は結構買っています。

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  • <ハーフアチャンス> 

    Excerpt: 1998年 フランス 110分 原題 1 Chance sur 2 監督 パトリス・ルコント 原案 ブリュノ・タルドン 脚本 パトリック・ドゥヴォルフ  パトリス・ルコント 撮影 スティーヴ.. Weblog: 楽蜻庵別館 racked: 2006-07-08 20:11
  • 『ハーフ・ア・チャンス』~娘の父親として ジャン・ポールとともに③-①~

    Excerpt:  アラン・ドロンとジャン・ポール・ベルモンドが共演し、パトリス・ルコントが監督した『ハーフ・ア・チャンス』の映画製作のことを私が知ったのは、1998(平成10年)7月13日(月)付け北海道新聞(夕刊).. Weblog: 時代の情景 racked: 2017-12-31 21:45
  • 『ハーフ・ア・チャンス』~娘の父親として ジャン・ポールとともに③-②~

    Excerpt: 【<『ハーフ・ア・チャンス』~娘の父親として ジャン・ポールとともに③-①~>から続く】 さて、次に、『ボルサリーノ』以後、『ハーフ・ア・チャンス』までのアランとジャン・ポールの作品を少し振り返ってみ.. Weblog: 時代の情景 racked: 2017-12-31 21:46