映画評「サボタージュ」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1936年イギリス映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
完全ネタバレ、鑑賞前に読むのは避けられたし

アルフレッド・ヒッチコック第20作。「逃走迷路」(原題Saboteur)と似た題名であるが、お話は全く違う。こちらは現代のテロリズムを直接予見したような物語だが、日本では劇場未公開。

序盤ロンドンの街が停電になり、これがサボタージュ(破壊行為)と判明、そして主人公であるオスカー・ホモルカが現れる、という表現主義的な映像は凄みがある。
 映画館を経営しているホモルカは、実は破壊工作者(Saboteur)で、上位工作者の小鳥屋から受け取った時限爆弾を或る場所に設置しなければならなくなるが、八百屋の店員に化けて内偵していた刑事ジョン・ローダーが通路にいた為若い妻シルヴィア・シドニーの弟である少年を使うことにする。
 しかし、少年はまだ12歳くらいで好奇心旺盛の為に時間を食いつぶしてしまうのである。

少年が映画館を出てから暫くは時限サスペンスで、事情を知らない少年が呑気にしている間事情を知っている我々はずっとヒヤヒヤしなければならない。極めてシンプルな原始的な設定であるが故にサスペンスとしては却って強烈になり、本作を評価する人もここの印象の強さがベースになっていると思われるが、ヒッチコック本人も認めているように少年を殺してしまったことは後味が悪すぎて、そのプラス面を帳消しにしてしまう。
 時限サスペンスには避けられない時計の扱いは定石的ながらやはり巧く、時限爆弾の歯車が透けて見える辺りは「やってるわい」と微笑ましいのだが、少年爆死にはこちらの心も曇る。

しかし、弟の死を知った彼女の心理を描く一連の場面は相当興味深く、デリケートだ。映画館でディズニーのアニメ映画をやっているのだが、鳥が殺される場面で彼女の悲しい微笑は止まり、「誰が駒鳥を殺したか」という歌がそこへ覆い被さって来る。この歌詞が彼女には「誰が弟を殺したか」の意味に聞えているのは確かで、そのまま夫が食事をしているダイニング・ルームに入った彼女はナイフに気付く。
 しかし、ヒッチコックは他の監督のように彼女の心理を描き切らない。その理由は観客の緊張感を維持する為である。何故なら観客が彼女の殺意の芽生えを感じたなら後のショットは単なる確認になってしまう。実にデリケートであり、天才の天才たる所以である。

終盤は「疑惑の影」と同じような決着の付け方だが、厳粛な気持ちにならざるを得なかった同作に比べるとメロドラマ的な甘い余韻。シルヴィア・シドニーは好演の部類と思う。

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この記事へのコメント

FROST
2006年07月23日 15:52
オカピーさん、こんにちは。誕生日おめでとうございます。この一年もバリバリご活躍ください^^
この作品、ヒッチコックの勇み足ですかね。一線越えてみてふとやりすぎに気がついたとか。やはり、少年が愛嬌たっぷりなだけに後味の悪さも際立ちます。
オカピー
2006年07月24日 00:57
FROSTさん、有難うございます。
ヒッチコックは映画作りの天才、即ち人間洞察の達人だったわけですが、その彼でも時には失敗を犯す。本作の少年爆死、「舞台恐怖症」の映像トリック。ヒッチコックはこの作品を以って映像トリックは使ってはいけないと宣言したのも同然なのに、今のどんでん返しは平気でそれを使っています。観客もそれを看過してしまう。観客のレベルの低下は映画のレベルの低下を招きますので、危惧しているのです。
カカト
2006年07月25日 17:04
私はこの映画けっこう好きです。
こう書くと誤解を招きそうですが、「まさか!!」という展開がすごく印象的でした。
でもヒッチコック自身は後悔していたんですね・・。
オカピー
2006年07月26日 00:57
カカトさん、こんばんは。
この映画からテロの恐怖を学ぶ、という視点で観たら、素晴らしい映画だと思います。
ヒッチコックの基本は娯楽だから、私のように否定的な受け止められ方をされてもやむを得ません。
かよちーの
2007年04月28日 20:58
オカピーさん、こんばんは。
TBできなくてすみません、記事にリンクがないとはじいてしまう設定になってました。
今度は出来ると思います。
ところでこの作品、やたらと動物が出て来ませんか?
少年が本当にかわいいのに残酷な話ですねー。
オカピー
2007年04月29日 03:25
かよちーのさん

出来ました。有難うございました。
>動物
そうでしたっけ? シルヴィア・シドニーばかり見ていて忘れました(笑)。
>少年
そうですね。ヒッチコックに非難が集中したそうですね。たかが映画の話のに。そのほうが怖いかもなあ。

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