映画評「断崖」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1941年アメリカ映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり

アルフレッド・ヒッチコック第27作。

英国は地方都市の令嬢ジョーン・フォンテインが遊び人らしきケイリー・グラントと駆け落ち的に結婚するが、彼が父親から貰った大事な椅子を勝手に売り捌き、勤め始めたと思った事務所も金を使い込んだという理由で首になった挙句に、自分にかけられた保険の存在を知り、夫が自分が殺めようとしているのではないか疑心暗鬼になる。

「サイコ」が僕が最古(最初)に観たヒッチコック作品だが、これが二番目で、その後何度か観ている。初めて観た時はまだ中学生で、主人公の新妻宜しくヒヤヒヤしながら観たものである。

さて、フランシス・アイルズの「犯行以前」を映画化した本作の結末は原作とは違うらしいが、ヒッチコック自身が撮りたかった結末はどちらとも違うという。
 実際撮られた結末はネタばれせずとも、ケイリー・グラントが夫を演ずることにより予想されてしまうし、ヒッチコックもそれを口実にしている雰囲気があるが、彼自身にしても悪人が仮にでも勝利するような作品は作りたくはなかったのではないかと想像される。ヒッチコックは警察を怖がる優しき人物と思うからである。

英国人のヒッチコックにしてみると強調されすぎて余り気に入らないらしいが、序盤は「レベッカ」を踏襲したようなゴシック・イメージで優秀と思うし、恋愛場面の捌きも非常に上手い。
 原題は「疑惑」で、彼女の大切な椅子を無断で売ってしまったことから始まる彼女の夫への疑惑はその度直後に消え、再び別の事件によりまた発生し、その波動(揺れる思い)は次第に大きくなっていく。

作品をうまく成立させる要件はグラントの性格と正体を曖昧にすることだが、その為結末はひどく唐突な印象を受ける宿命にある。この題材を映像化する為には必然なので致し方がないとは言うものの、ややすっきりしないものが残るわけだが、そこに至る妻の心理の浮沈は大変面白く描かれている。何だかんだと言ってもヒッチコックの話術にしてやられてしまうのだ。

個々の演出で最も印象に残るのは、暗い階段でも白く光る終盤のミルク。中に豆電球を入れて光らせたのだというが、嫌が上にも疑惑が募る。

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この記事へのコメント

FROST
2006年06月19日 01:55
こんにちは。作品の結末も微妙ですが、ケーリー・グラントとジョーン・フォンテインという組み合わせが私にとっては微妙。このころの作品だとケーリー・グラントなら”汚名”、ジョーン・フォンテインなら”レベッカ”の方がずっと気に入っているため、やっぱり今ひとつ乗り切れないんだなぁ。
カカト
2006年06月19日 14:37
こんにちは。
一応この「疑惑」は一件落着しますが、この二人の結婚生活はこの後も波乱万丈なんじゃないかなぁと思ったりします・・。
オカピー
2006年06月19日 20:13
>FROSTさん
この作品は彼女の心理が中心になる為却ってヒッチコックはクローズアップの多用を避けたのではないでしょうか。その為クローズアップを多用した「レベッカ」ほど強い印象が残らない。私はそんな印象を受けました。心理劇だからクローズアップというのでは、逆に芸がない、そんな気がします。

>カカトさん
何しろ彼は未だかつてまともに働いたことがないですし、方やお嬢さんですしね。
最初観た時は13歳くらいですから、それはドキドキしました。

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