映画評「山猫」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1963年イタリア=フランス映画 監督ルキノ・ヴィスコンティ
ネタバレあり

ルキノ・ヴィスコンティは貴族出身の共産主義信奉者という極めていびつな背景を持っていたイタリアの大監督である。
 映画監督としてスタートして暫くは自らの関心に従って社会の底辺層を描いていたが、初めて貴族の世界を描いた「夏の嵐」から10年後自らの所属している階級をぐっと本格的かつ低回的に描いたのが本作である。以前観たものは160分版で、今回観たのは186分の完全復元版。

1860年、教科書でもお馴染みのガリバルディ率いる赤シャツ隊(義勇軍の一つ)がシチリア島に上陸する。島を300年間支配してきたサリーナ家の当主ドン・ファブリツィオ公爵(バート・ランカスター)は争乱を憂えるが、息子のように可愛がっている甥タンクレディ(アラン・ドロン)は義勇軍に身を投じ、自ら新しい世界に飛び込んでいくのだ。
 彼らの統一運動の結果シチリアはイタリア王国に組み込まれ、公爵も現状を諦観するしかない。

原作はシチリアの貴族トマシ・ディ・ランペドゥーサが唯一遺した自伝的小説で、自らイタリアの名門貴族であるヴィスコンティとしてはその落日ぶりに大変共感を覚えたのに違いなく、油絵で何度も絵の具を重ねていくようにこれ以上考えられないほどじっくりと場面を重ねて映画化している。
 一見冗長と思われる部分もあるが、古い権威が新しい要素に置き換えられていく、そうした時代における老貴族の心境を描くにはこの程度の長さは必要と理解すべきである。
 彼の甥は自ら来るべき世界を期して闘い、その象徴である新興ブルジョワジーの娘アンジェリカ(クラウディア・カルディナーレ)と結ばれ、舞踏会で二人が踊り、また彼女と公爵が踊ることは二つの全く別の価値観を持つ新旧貴族の対比に他ならない。

貴族が内部から崩壊していることにも公爵は気付く。そこにいる貴族の娘達は醜悪極まりない。舞踏会を終え街路を歩く公爵は自らの死を希望する。
 この作品の現代版が「家族の肖像」であることが見直して改めて解り、ダブらせて観ているうちに幕切れで感極まってしまう。

まがいものは使わないと言われる衣装・美術を含め、舞踏会場面の豪華絢爛さは、圧巻。ヴィスコンティ自身の後年の作品でもここまでの重量感は見ることはできない。だからこそ、そこから滲み出す主人公の悲しみも深いのである。

バート・ランカスター、クラウディア・カルディナーレからかかる上流階級のムードを醸し出させた演出力が凄いが、その中でも特にお気に入りはアラン・ドロン。僕のかつてのアイドル、アルセーヌ・ルパンを演じられるのは後にも先にも彼しかいなかったと、この作品を観て再確認した。

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この記事へのコメント

ココ(ココのつぶやき)
2006年03月29日 16:28
はじめまして。TBありがとうございました。
すばらしい作品でしたね。「本物」とは、
ヴィスコンティ自身なのかもしれませんね。
ぶーすか
2006年03月29日 22:26
TB有難うございます。「山猫」はリアルタイムで観て、録画しなかったんですが、いまだにジワジワと感動が残っていて、「ルードヴィヒ」よりも良かったのでは?!と思い、録画しなかったことを今頃後悔してます(>.<)。バート・ランカスターがすごーーく良かったです。
オカピー
2006年03月30日 00:27
>ココさん
初めまして。コメント有難うございます。
正にヴィスコンティこそが本物ですね。あの舞踏会に出演したエキストラも大半が本物の貴族だそうです。ヴィスコンティらしい拘りです。

>ぶーすかさん
こんばんは。
それは惜しかったですね。私はハイビジョンで放映されたら、もう一つ保存版を作ろうかなと思っています。やらないかな。
実はランカスターも良いなあと思ったのですが、彼は「家族の肖像」で絶賛しましたので、アラン・ドロンを取り上げました。「山猫」のドロンこそ私のアルセーヌ・ルパンのイメージなのです。本当に観たかったなあ。
オカピー
2006年03月30日 15:17
ひとりごとです。
「海猫」の次に「山猫」をUPしたのは一種の洒落ですが、どなたか気付いた人はいませんか。本当は、「海猿」「海猫」「山猫」「山猫は眠らない3」と出来れば最高でしたが。
鈴之助
2006年04月01日 09:04
はじめまして。カカトさんのところから流れてきました!
ヒッチコックご教授ありがとうございます♪
(観る映画が偏っているため古い名作程よくしらない人間です)
山猫の記述があったので出てきました。
私この映画大好きです。一昨年映画館で観てポーっとなりました。
舞踏会でのワルツの場面が本当に素晴らしく優雅で。
偶然4年ほど前にシチリアを旅行していたのですが、その時観た景色とあまり違いがないところも感慨深かったです。

あ、ちなみに4月に海猿2の試写会に行く予定です(笑)
オカピー
2006年04月02日 00:33
鈴之助さん、こんばんは。
私は欧州は行ったことがないので、羨ましいです。
洋画は極力全て、邦画は好きな監督を中心に観ております。古い映画の方が映画文法がしっかりしているので、好きです。
以前「犬猫」という映画も取り上げましたので、並べると壮観ですね(笑)。
トム(Tom5k)
2006年04月02日 01:31
>オカピーさん
こんばんわ。TB、コメントありがとうございました。わたしもTBさせていただきました。

>『山猫』のドロンこそ私のアルセーヌ・ルパンのイメージ
とのこと。
わたくしも前々から、そう思っていたんですよ。
彼はクラシック、つまり古典がよく似合う俳優だと思います。ですから、『ルパン』以外にも『ドラキュラ』や『ジキルとハイド』など、古典の名作に、もっと出演して欲しかったと思っています。
そういう意味では『ゾロ』や『世にも怪奇な物語』のウィリアム・ウィルソン、多くのフィルム・ノワール作品などは、はまり役だったと思っています。
ところで、最近、色々なブログでオカピーさんのコメントに出会います。わたくしの映画の嗜好と似ているのでしょうか?
非常に愉快です。
オカピー
2006年04月02日 17:16
トムさん、こんにちは。

用心棒さんやジューベさんのところでお会いしましたね。基本的に古い映画をとても大切にしている方たちばかり。映画に対する愛情と探究心が深く、文章も大変うまい。おかげで自分が<井の中の蛙>であったことを思い知らされました。

ルパンを演ずるにはやや陰もある貴族の末裔的な雰囲気が重要だと思うのですが、ロマン・デュリス(先般の「ルパン」でのルパン役)では散文的でお話になりません。尤も未見ですけど。
「ゾロ」は展開は荒かったですが、ドロンは良かったなあ。「黒いチューリップ」は最近観ていませんが、結構好きですね。
トム(Tom5k)
2006年04月04日 02:46
>オカピーさん、夜中に失礼します。
うかつだったのですが、ジャック・ベッケル監督の『怪盗ルパン(Les Aventures d'Arsène Lupin)』があったのを忘れておりました。わたくしは、未見ですが、いつか観たいと思っております。残念ながらDVDもビデオも販売されていないようです。
しかし、かのベッケル監督ですから、期待できそうな気がしており、DVD化を強く期待しています。
かつて『ベルモンドの怪盗二十面相』というルパンのパロディ作品が公開されたときのことを思い出しました。わたしは、オカピーさんと同様にドロンにルパンを演じて欲しかったので、ライバルのベルモンドに先をこされたような気がして(作品は、本来のルパンのイメージとは全く異なるドジな泥棒のコメディでしたけれど)、くやしい気持ちになっていたことを思い出します。
オカピーさんは、ドロンのルパンが実現していたら、監督は誰が理想ですか?
わたしは、なんと言ってもジュリアン・デュヴュヴュエ監督に演出して欲しかったです。
オカピー
2006年04月04日 21:11
トムさん、こんばんは。
ベッケルの「怪盗ルパン」は私も観ていません。ベッケルはタッチの良い監督ですので、確かに期待できますね。ルパンはイメージが出来ているので、怖い感じもしますが。
「ベルモンドの怪盗二十面相」・・・そんな映画もありましたね。ベルモンドとは古い付き合いのフィリップ・ド・ブロカが監督でしたが、全く記憶に残っていないところを見ると、大したことはなかったのでしょうか。

古典的なムードを出せ、洒落っ気があり、流れるような文体を誇るデュヴィヴィエで文句なし。スリラーにも実績がありますし。
晴雨堂ミカエル
2009年06月24日 16:08
こんにちは、映画ブログの晴雨堂です。
 
舞踏会の撮影現場はたぶんに汗と体臭と蝋燭の臭いで充満していたことでしょう。
 
ところで、ルパン役はアラン・ドロン、同感です。れいの100周年紀念ルパンを観て思いました。眼帯をしたタンクレディはルパンですね。
オカピー
2009年06月24日 22:26
晴雨堂さん、こんにちは。

>体臭と蝋燭の臭い
あははは、何とも冷静な。

>タンクレディはルパン
ご賛同有難うございます。
ドロンのルパンを見たかったファンが案外多いのではないかという気がしてきました。
トム(Tom5k)
2011年02月12日 13:09
オカピーさん、こんにちは。
オカピーさんの「山猫」と「若者のすべて」に直リンさせてもらってます。
我流の公式に当てはめすぎたり、また、ルネ・クレマンをからませたりして、ちょっと疑問点も多くあるかもしれませんが、久しぶりに「山猫」を鑑賞して、自分なりに考えたところを記事にしてみました。
大江健三郎さんの本とオカピーさんのヴィスコンティ評を参考にして、ちょっといつもより力が入り、更に読みにくい記事になっています(笑)。TBさせていただきました。
いずれにしても、思うのは、ヴィスコンティは、初期の作品から順序よく整理していかないと、本質が見えてこないです。
どうしても絢爛豪華な貴族趣味に酔ってしまうことに軽薄な人気が出てしまって少し残念です(とはいえ、わたしもそこに魅力を感じてしまうのですが)。特に日本では「郵便配達は二度ベルを鳴らす」や「揺れる大地」「若者すべて」(これはドロン人気も手伝って鑑賞されている方ですが)などよりも、後期の貴族趣味映画ばかり、取り上げられていますよね。
でも、今回、ヴィスコンティの本質は首尾一貫していたんだとちょっと無理な理屈もあるかもしれませんが、わたしなりに理解してしまいました。一般論にはなかなかならないかもしれませんが・・・。
オカピーさんの参否の意見もお聞きしたいです。
では、また。
オカピー
2011年02月13日 00:28
トムさん、こんばんは。

>ヴィスコンティの本質
直感的に、敗北を描き続けることでヴィスコンティは一貫していたと僕は思っていますが、そこから一歩踏み込んで、貴族の敗北を描くことで下層階級の勝利を逆説的に描いた、というトムさんの説は大変面白いです。
ヴィスコンティは勝利を描けなかったのでしょうか、それとも描かなかったのでしょうか?
トムさんは以前描けなかったのではないかと仰っていましたが、今回の説では敢えて描かなかったようにも理解できます。
作家というものはなかなか変わらないもので、フェリーニも華麗なるファンタスティックな映像世界に入ったように思われていますが、フェリーニを支えていたのはやはりスタート地点と同じくリアリズムだと思うんですよね。

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