映画評「笛吹川」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1960年日本映画 監督・木下恵介
ネタバレあり

木下恵介が「楢山節考」でも取り上げたことのある深沢七郎の同名小説を映画化した時代劇。

甲斐国(山梨県)は笛吹川の河岸に虫篭のような家があり、貧農一家が住んでいる。長男・半蔵はお屋形様・武田信虎の起こした飯田河原の合戦(1521)で活躍。しかし、その父は信虎の息子(後の信玄)誕生に際してへまをやらかして処分され、半蔵も後の合戦で命を失うが、祖父の死と同時に生まれた半蔵の甥・半平(成人後:田村高廣)は戦さに加わらない固い意志を持つ。
 しかし、彼がおけい(高峰秀子)との間にもうけた長男・惣蔵(市川染五郎)や次男・安蔵(中村万之助)は現在のお屋形様・勝頼を崇拝し妹まで担ぎ込み、しかも両親の依頼で引き戻しに戦場へ駆けつけた三男・平吉(田中晋二)も交渉に失敗して兄弟と行動を共にし、おけいまでも繰り出すのだが、織田・徳川軍に包囲された武田軍は全滅、勿論おけいや孫娘も例外でない。
 笛吹川に流れる武田軍の旗差物を何も知らない半平が拾ったところで、悲劇は幕を閉じる。

1521年から83年にかけておよそ60年間に渡る武田家の興亡を農民の側から見つめた異色の時代劇であり、そこには深沢七郎らしい庶民への同情がある。
 物語が展開するに連れ観ている我々には空しさが増していくのだが、モノクロ映像に青や緑、黄色に赤と部分着色した実験的な映像や時に挿入されるストップモーションが派手な戦乱絵巻の代わりに割りの合わない惨めな合戦風景を演出し、哀感と空しさを増幅していく。

木下恵介というと我々には保守的なイメージがあるが、その認識が必ずしも正しくないことは「カルメン純情す」や本作を観れば容易に解る。

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この記事へのコメント

N_ardis
2006年01月15日 07:50
オカピーさん、こんにちは。

この作品は、ボクに歴史がわったくわかっていないというのもあって、農家一族の悲しい物語、その連鎖に終始した感じに終わってしまってました。
高峰秀子が足をひきづりながらの演技がまた悲しくて。。。

と悲しんでばかりいるのも寂しいので、映像的にはいろいろと実験的だったのですね。

ボクにはまだ木下監督が遠い存在だなあ(たんなる食わず嫌いかもしれないけれど)。
オカピー
2006年01月15日 15:02
N_ardisさん、お久しぶりです。

寅さんがお好きなようですから、日本的叙情を代表する木下恵介も解ることを期待致します。「野菊の如く君なりき」などはもっとストレートな作品ですので、一見をお奨め致します。こちらも悲しいですが。

また遊びにいらしてください。
N_ardis
2006年01月16日 18:23
木下作品のお奨めをありがとうございます。
「野菊の如く君なりき」との出会いを楽しみにしておきます。
ぶーすか
2006年08月22日 13:58
TB&コメント有難うございます。こちらにもTBさせて下さい。時代劇なのにモノクロに原色の色彩を施したり、かなり斬新な映像で面白かったです。戦闘シーンの荒々しさは「七人の侍」にも似た迫力を感じました。高峰秀子の演技も素晴しいのですが、地道に農民で一生を送った長男を演じた田村高廣が良かったですねー。
オカピー
2006年08月22日 18:32
ぶーすかさん、TB返しとコメント有難うございます。
基本的には、庶民の側から見た戦ですね。武士の戦であろうと大掛かりな戦争であろうと、とかく最初に犠牲になるのは庶民ですから何としても避けたいものですね。
<おやかたさま>が親方様でもお館様でもなく、お屋形さまであることに注意したいところです。
オンリー・ザ・ロンリー
2008年07月21日 00:21
確かに仰るように木下監督は保守的に思われがちですが本作品の「人工着色」は言うに及ばず何しろ我が国ではじめてカラーで映画(カルメン)を撮ったのだからスゴイ!。
オカピー
2008年07月21日 03:34
オンリー・ザ・ロンリーさん、こんばんは!

>カルメン故郷に帰る
そうですね。
僕が見たのは後年ですが、後の時代の作品と比べても遜色のない、良い発色でした。

この作品にはお話も異なるというモノクロ・バージョンがありますが、ご覧になっていますか?
残念ながら未見なのです。
オンリー・ザ・ロンリー
2008年07月21日 03:59
内容も違いモノクロとは?、はじめて聞きました。
オカピー
2008年07月21日 20:59
オンリー・ザ・ロンリーさん、こんばんは。

あるんですよ。
お話は違うといっても大体同じなんでしょうけど、想像の域をでないんです。
因みに、昭和26年のキネ旬ベスト10で、カラー版が4位、モノクロ版が15位に入っています。足を引っ張り合った可能性も大ですね。

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