映画評「酔いどれ天使」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1948年日本映画 監督・黒澤明
ネタバレあり

黒澤明戦後第3作。以前の作品もヒューマニズムに裏打ちされていたが、黒澤の方向性が決まった記念碑的作品ではないかと思う。

幹部がいなくなり幅を利かせるようになっていたヤクザ・三船敏郎が結核にかかっていることが判明、医師・志村喬にかかり、酒を飲むなと釘をさされる。同じように田舎出身の女給・千石規子とは同病相憐れむような関係で、足を洗いたいと思う気持ちはある。が、幹部・山本礼三郎が出所してくると具合がおかしくなり、互いに殺し合ってしまう。彼を見守っていた医師はやりきれず、汚れた水たまりに石を投げるしかない。

「宇宙の摂理に対して人間は余りに卑小である」。これが以降の黒澤作品に共通する主題と言っても良いが、酔いどれ医師と内面の弱いヤクザの交流という内容の中に実に巧く溶け込んでいる。

脚本・演出共にすこぶるタイトで歯切れ良く、戦後のムード醸成が抜群である。三船のギラギラした演技も圧巻。黒澤と三船の出会いこそ、戦後の日本映画界最大の出来事であったと思い知らされる。

上は、2002年に観た時の映画評ですが、30年近く前学生時代に書いた映画評が手元にあるので、肝要部分だけを転記してみます。若干青い感じがします。

<この作品の主題は、三船と同じく結核を患っている高校生・久我美子の存在で明らかになる。即ち、彼女は弱い少女だが病気に対してきちんと立ち向かう勇気がある、三船が見かけだけは格好よく強さを誇っているが病気或いは誘惑に負けてしまう、その対照である。少女の健康的な笑顔と彼の血まみれの最期を対照的に扱ったドラマ作りが非常に見事なのだが、彼の惨めな死に様に浮かび上がる少女の生命の美しさ、それを監督は主張したかったのであろう。それだけに彼女の出番は少ないが、重要な役割を負っている。
 また、三船演ずるところのヤクザも弱さを指摘されてはいるが、きわめて人間的な人間として描かれ、社会の圧迫が弱い人間をこれほどまでに駄目にしてしまうと訴えていることも、黒澤的なヒューマニズムの現れとして興味深い。>

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この記事へのコメント

2008年07月16日 11:21
若き三船敏郎の格好良さと、対照的によれよれ中年の志村喬が魅力的で、手放しで満点だったのですが「青い」見方だったのかなぁ…。数年後にまた見直したらオカピーさんと同様に欠点も見えてくるのかも…。
オカピー
2008年07月17日 03:14
ぶーすかさん、こんばんは!

黒澤ファンの方の多くがお好きな作品ですから、敢えて欠点に気付かなくても良いと思いますけどね。

>三船敏郎の格好良さ
これがヒントと言っても良いかも。

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