映画評「父と暮せば」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2004年日本映画 監督・黒木和雄
ネタバレあり

「美しい夏キリシマ」に続く黒木和雄による<戦争レクイエム三部作>最終作。原作は井上ひさしの戯曲である。

終戦3年後の広島、図書館に勤める美津江(宮沢りえ)が原爆資料を収集している利用者の青年(浅野忠信)に好意を寄せているが、愛する人を見殺しにして生き残った後ろめたさに前に進むことはできないでいる。父親(原田芳雄)はそんな彼女を慰める、「俺の分まで生きてくれ」と。

リアリズムを基調としていた前作とは全く正反対に、即ち、舞台劇風に展開するわけだが、映画らしさがないということにはならない。仮に舞台劇的すぎる弱さを認めたとしても、それを超えた内容の見事さに拍手喝采である。

事前情報は極力得ないようにしている上にうっかり観ていた僕は父親が彼女の手紙を盗み読みする場面まで父親が幽霊とは気付かなかった。お恥ずかしい。しかし、それが怪我の功名、驚きも覚めやらないうちに二人の演技が益々白熱する後半に入るので、のめり込んで見入ってしまうのである。

ヒロインのように、原爆に生き残った後ろめたさと死んだ人間の為に前向きに生きようという意識との葛藤に苦しみながら後半生を生きてきた人々は少なからずいたはずで、その苦悩ぶりは壮絶だ。実際そうした心境は理解出来ないが、理解は出来なくても想像は出来る。だからこそ息苦しさは増すのだが、彼女の最後の言葉「おとったん、ありがとありました」にはホッとし、感涙。思い出しても涙が出てくるほどである。

事実上の二人芝居で、「竜馬暗殺」以来黒木のお気に入りである原田芳雄の熱演ぶりも高く評価したいが、宮沢りえの線の細い儚げな演技に惚れ惚れした。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

lin
2006年01月16日 00:41
こんばんは、NUMBの管理人です。
コメント頂きありがとうございました。
此方の的確で一貫した客観性のある記事内容、非常に参考になります。
記事数の充実ぶりも凄いですね。また拝見させて頂きます。
オカピー
2006年01月16日 17:09
linさん、こんばんは。
linさんのような素晴らしい名文は書けませんが、意図的に文学的にならないようにしている部分もあります。近年の映画批評に対して一家言ありますので。
そうですね、70%の客観、30%の主観くらいかなあと自分のレビューを分析しておりますが、なるべく短い文章の中でポイントを抑える短評に徹しております。的確さを目標としていますので、面映いと同時に有難いお言葉です。
特に注目してほしいのは星の数です。☆☆★(5点)を水準作としていますが、簡単に満点も出さない代わりに1点も出しません。客観的に映画を観ると、どうしても☆☆★から☆☆☆★くらいまでが多くなりますね。linさんも同じような感覚をお持ち合わせていらっしゃるようで、嬉しくなりました。
つまらないところですが、またお越しください。
batako
2006年03月02日 15:40
初めまして。
今日私もこの作品を観ましたが、主演二人の演技と
監督の技量が光る、とても素晴らしい作品だと
思いました。

宮沢りえは、“儚げな演技”という言葉が本当にピッタリ
ですね。いじらしくかわいらしい姿に心を打たれました。

TBさせて頂きます。
オカピー
2006年03月02日 17:57
batakoさん、初めまして。
TB有難うございました。
原田芳雄のいかにも舞台的な大きな演技も良いですが、宮沢りえは儚げで良かったですね。いつの間にこんな素晴らしい女優になったのでしょう。
一時期難しい時期がありましたが、それがきっと良い糧になったのでしょうね。
またお越しください。
batako
2006年03月03日 16:54
コメントありがとうございました!

> 画面を引きにした場合の効果は、客観的な描写になり寧ろ説得力が増す

なるほど。そういう効果があるのですね。
今まで引き画の効果を意識しながら見たことがないのですが、
この作品では、私が“舞台”に慣れていないせいか、
やけに気になってしまいました~。

原田芳雄の一人芝居のシーンは気にならないどころか
すごい!と思ったのですが・・・。

宮沢りえは、本当に様々な問題の後に復活した頃は
やせ細ってしまっていて心配でしたが、
最近では見事な復活ぶりを見せ付けてくれますね☆
オカピー
2006年03月04日 16:10
batakoさん、こんにちは。
淡々と撮るか、情感を込めて撮るかは、作品によって違いますが、僕らのようにベテランになりますと、寧ろ淡々と撮ったほうが却って身に沁みることが多くなってきます。
いずれにせよ、良い映画でしたし、二人とも好演でした。また観たいです。
ぶーすか
2006年08月30日 09:10
TB&コメント有難うございます。こちらにもTBさせて下さい。黒木和雄監督の作品を観るのはこれが初めてでしたが、無駄を一切省いた研ぎすまされたセリフがとても良く、泣けました。原田芳雄って昔はギトギトしたイメージであまり好きな役者ではなかったのですが、最近のはすごく味のある演技で好きになりました。宮沢りえもしっとりした演技で良かったですね。
オカピー
2006年08月30日 17:56
ぶーすかさん、こんばんは。
一度はあそこまで痩せ細った宮沢りえが立派な演技者となって帰ってきたのが嬉しかったです。あの体験は演技者として良い糧になったのだと思います。
2008年04月29日 01:28
宮沢りえ、吉永小百合(「夢千代日記」)、麻生久美子(夕凪の街、桜の国」)の3人が、僕の中では、原爆後遺症の女性を描いて、出色でした。
オカピー
2008年04月29日 02:28
kimion20002000さん、TB&コメント有難うございます。

>夢千代日記
TVドラマはまず観ないので、タイトルを知っているだけです。
いや、そういうお話でしたか。
そう言えば、吉永小百合が原爆の朗読をするようになったのも、本作が原因と聞いたことがあるような。

>夕凪の街、桜の国
佐々部清は割合好きなので、是非観たいと思います。
kimionたん、情報、ありがとありました(笑)。

この記事へのトラックバック

  • <父と暮らせば> 

    Excerpt: 2004年 衛星劇場・バンダイビジュアル他 99分  監督 黒木和雄 脚本 黒木和雄  池田眞也 撮影 鈴木達夫 音楽 松村禎三 出演 福吉美津江:宮沢りえ    福吉竹造:原田芳雄  .. Weblog: 楽蜻庵別館 racked: 2006-01-07 11:47
  • 「父と暮せば」

    Excerpt:  父と暮せば 通常版 「父と暮せば」 ★★★★ THE FACE OF JIZO (2004年日本) 監督:黒木和雄 原作:井上ひさし キャスト:宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信 公式.. Weblog: NUMB racked: 2006-01-14 12:38
  • 父と暮せば

    Excerpt: TSUTAYAの半額セールでDVDを3本借りてきました。 そのうちの1本。 父と暮せば 通常版 終戦から3年後の広島。図書館に勤める美津江(宮沢りえ)は、 たった一人の家族だった父親.. Weblog: shirotsumekusa* racked: 2006-01-15 00:01
  • 父と暮せば ★★★★☆

    Excerpt: 宮沢りえ、原田芳雄、そして黒木和雄 3人の表現力に脱帽です。 『父と暮せば』 近所のレンタルビデオで100円レンタルをやっていたので 久々に借りて来ました☆ .. Weblog: 1日1本!映画好き嫌い日記 racked: 2006-03-02 15:43
  • 「父と暮せば」「トラ・トラ・トラ!」

    Excerpt: ●父と暮せば ★★★★★ 【NHKBS】4月に脳梗塞のため亡くなった黒木和雄監督(享年75)の戦争4部作の一つ。広島に原爆が投下され、家族を一瞬で皆亡くした美津江(宮沢りえ)の幸せを願って死んだはず.. Weblog: ぶーすかヘッドルーム・ブログ版 racked: 2006-08-30 09:05
  • mini review 05053「父と暮せば」★★★★★★★☆☆☆

    Excerpt: 日本 Weblog: サーカスな日々 racked: 2008-04-20 15:56
  • 映画評「母と暮せば」

    Excerpt: ☆☆☆★(7点/10点満点中) 2015年日本映画 監督・山田洋次 ネタバレあり Weblog: プロフェッサー・オカピーの部屋[別館] racked: 2017-01-08 19:22