映画評「浮草物語」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1934年日本映画 監督・小津安二郎
ネタバレあり

ジョージ・フィッツモーリスの「煩悩」の翻案と言われる小津安二郎戦前の代表作。

旅芸人一座座長の喜八(坂本武)は4年ぶりにおつね(飯田蝶子)と中学生になるその息子・新吉(三井秀男)のいる田舎町に興行にやってくる。新吉は彼の実の息子で、養育費を送り影から母子を支えているのだが、当人は知らない。喜八の現在の情婦であるおたか(八雲理恵子)は嫉妬して妹分のおとき(坪内美子)に新吉を誘惑させる。が、おときは新吉に本気となり、やがて喜八の知るところとなる。おたかの策略と知った喜八は一座の解散を宣言し、息子を激しくなじる。この時おつねが「この人は実の父親だ」と新吉に打ち明けるが、喜八はおときの優しい気持ちを理解すると彼女を一家に預け、また当てのない旅に向う。駅にはおたかがいて二人揃って車中の人となる。「男はつらいよ」の寅さんとリリーを思わせる関係である。

演出的には戦後作の特徴となるロー・ポジション、静物による場面転換などが観られ、「父ありき」と同じような親子での釣りの場面で二人が同じ呼吸でさおを動かす擬似性が微笑ましい。擬似性は初期の頃から多用されている小津の特徴的な演出だった。

が、やはり心に残るのは人情と愛情の交錯である。「喜八もの」には戦後のハイブロウな作品には観られない庶民的な味わいが顕著で、その中でも本作は随一と言って良い。安っぽいお涙に流されない詩情を湛えた演出が余韻を醸し出す。

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  • 「浮草物語」

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