映画評「ヴィタール」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2004年日本映画 監督・塚本晋也
ネタバレあり

塚本晋也は観念的な映画作りが解りにくく苦手な映画作家だが、「六月の蛇」辺りからピンと来る部分が現れてきた。恐らくカットや場面が適切に整理されてきたのだろう。

自殺願望もあった恋人・柄本奈美を自らの交通事故で失い、自らも記憶喪失になった医学生・浅野忠信が、偶然実習で献体に付された恋人の死体を解剖することになる。この時から彼の精神は、生を享楽する天国的な世界とその正反対の絶望的な世界を行き来するようになる。その周囲には死の原因である男の手により娘が解剖されるのに反感を覚えやがて理解していく彼女の父親や、浅野を思慕して現実的な世界に引き戻そうとする女子医学生KIKIがいる。やがて解剖実習を終えた頃彼は記憶を取り戻し、現実世界に生きていく力を身に付ける。

塚本監督は人間の肉体的変化、特に一般的な感覚で美から醜へと変わる時に美を感じるのではないかと思わせる作品が多いが、この作品でも美しい肉体から臓器を見せ、その片鱗を見せる。
 しかし、本作の眼目はそこに留まらず、生と死、精神と肉体の問題を複合的に提示しているような印象があり、「鉄男」辺りと比べれば相当内容的に豊潤になっていることは認めたい。
 一回見た限りでは映像面では従来通りの手法を繰り返したに過ぎないように思うが、柄本奈美に演じられたモダン・バレエのような踊りは新機軸であり、意外と重要度も高いのではないか。これは彼の頭の中で起こっている出来事であるが、彼女が脳裏から消えた時彼は現実へと立ち戻るのである。

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