映画評「この素晴らしき世界」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2000年チェコ映画 監督ヤン・フレベイク
ネタバレあり

ユダヤ人の悲劇を扱った作品には優れたものが少なくないが、さすがに毎年何本も見せられるとうんざりしないでもない。
 この作品もチェコを舞台にしている点を除けば平凡なユダヤ人もので終わるはずだった。親ナチスのドイツ系チェコ人の下で働いているチェコ人夫婦(ボレスラフ・ポリーフカ&アンナ・シィシェコヴァ)がユダヤ人の裕福な家庭の出身だった青年(ヤロズラフ・ドゥシェク)を匿うお話だからだが、途中からその印象は完全に払拭されていく。

まずユダヤ人ではなく匿うチェコ人の苦悩を描いているということ。かつての部下がドイツの侵攻以来上司となる地位の逆転があり、その卑屈な上司は不妊症夫婦である妻に横恋慕していて、その地位を利用してものにしようとする。運命の皮肉がここから始まる。

会社の重役だったドイツ人が息子の脱走により裏切り者になり夫婦の家に住まわせてほしいと頼みにくる。そういうわけにはいかない夫婦は言い訳として妻が妊娠したと言い、その為にユダヤ人青年に妻を孕ませてもらわねばならない。苦悩する夫婦。しかし命には代えられない。そして、ナチスの家捜しでかつての部下である上司は誤魔化してくれる。
 見事に妊娠して疑惑を晴らし臨月を迎えた頃ナチスの敗走が始まり、今度はチェコ人による協力者への処刑が始まり、今度は親ナチスに協力した罪で危うくなるのだが、出産の為医師を探すはずだった夫は前回の恩返しの為に上司を担当医として家に連れ帰る。ユダヤ人を匿っていたことを証明すれば疑いも消えるが、青年は恐れて姿を消してしまう。が、結局は赤ん坊も無事生まれ、疑惑も消える。

乳母車を押す夫の目にその期間に消えていった人々や動物が映る幕切れは、戦犯の人間以外は全て犠牲者であるという声が聞こえるようだ。ナチスへの憎悪を声高に叫ぶわけではなく、人間喜劇というスタイルを貫き通し、戦争への静かな風刺を浮かび上がらせているのである。

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この記事へのコメント

viva jiji
2006年05月15日 19:01
ルイ・アームストロングの名唱(R・ウィリアムズの「グッド・モーニング・ヴェトナム」に効果的に使われていました)と同名の本作も最後の最後のあの主人公(夫)の視線の意味を広域に鑑みなければ理解できづらい意味深い「題名」ですね。思い切ってDVD買って「大正解!」でした。
オカピー
2006年05月16日 01:30
viva jijiさん、コメント有難うございます。
「この素晴らしき世界」か。うん、上手い邦題ですね。
しかし、観た人はきっと少ないでしょう。批評家でも見落とした人はたくさんいますよ、きっと。勿体ないですねえ。
モカ
2019年09月24日 18:21
私もこのDVD は買いました。
チェコの映画ってあまり見かけませんが、イジーメンツェルもこの監督もユーモアを忘れず人間を肯定している所が大好きです。チェコの国民性なんでしょうか。
私の偏見かもしれませんが、お隣のポーランドでは同じ題材を扱っても全然違うんじゃないかな。
ちなみに、この夫婦の名前はヨゼフとマリエ(マリア)なんですよね。
子供にもわかる当たり前のメッセージ 「私たちは助け合わなくてはならない」が
宗教のメッセージより重く感じました。
モカ
2019年09月24日 18:32
すいません、また勇み足で間違った事をかいてしまいました。
原題の意味、 「私たちは助け合わなければならない」はマタイ伝からきているそうです。
オカピー
2019年09月24日 22:35
モカさん、こんにちは。

素晴らしい映画だったのにすっかり忘れていました。
思い出させてくれて有難うございました。

>チェコの映画
アニメ映画はよく知られています。アニメと言っても人形を使ったストップモーション・アニメといったタイプが多いのですが。

>お隣のポーランドでは同じ題材を扱っても全然違うんじゃないかな。
ポーランドは概してユーモアが欠如しているかもしれませんね。

>ヨゼフとマリエ(マリア)なんですよね。
僕は、ストーリーを紹介する時に出演者を兼ねて俳優名で記すことが多いのですが、この映画は役名も記すことが必要だったようですね。

>「私たちは助け合わなければならない」はマタイ伝から
聖典も良いことを言います^^

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