映画評「イン・ザ・カット」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2003年アメリカ映画 監督ジェーン・カンピオン
ネタバレあり

「ピアノ・レッスン」で名を馳せたジェーン・カンピオンの最新作で、水と油としか思えないロマンティック・コメディーの女王メグ・ライアンを主演にもってきたことが注目に値する。

文学講師のメグは言葉は得意だが対人関係では苦手で、心を許しているのは母違いの妹ジェニファー・ジェースン・リーだけである。場末のクラブで猟奇殺人事件が起き、偶然その時間帯に現場を訪れていた彼女は刑事マーク・ルファローの訪問を受けるが、クラブで見かけた濃厚な場面に精神的に影響され、何度目かの訪問で肉体関係を結ぶ。

猟奇殺人は単発に留まらず徐々にメグの周辺に迫り、彼女にしてもルファローを犯人と思わざるを得ない証拠を握ってしまう。しかし、彼女の周囲には神経症の青年ケヴィン・ベーコンもいれば、実は彼女をものにしたいと思っている学生もいて、観客にとっては刑事をそのまま犯人と信じ込むわけにはいかない。とは言え、メグと刑事が森の中に入っていく場面ではサスペンスを感じることだろう。

その辺りの人物配置や場面設定は悪からずサイコ・スリラー的な要素は十二分にあるが、勿論ジェーン・カンピオンはそうした娯楽的な面を描こうとしているわけではない。手は込んでいようとそれらは、一人の都会の女性が孤独を埋め対人関係を変えていく様子を凝視的に観察するドラマとしての材料に過ぎず、その狙いは十分に映像に移されていよう。

この作品ではクローズアップの多用により強烈な官能性が醸成されるが、最も印象的なのは妹と二人で下着姿で話す場面の、近親相姦レズビアン的ムードである。

メグが以前「戦火の勇気」で新境地に挑戦した時は空回りした印象があったのに対し、今回は演技の達成度としては成功であると思う。しかし、そろそろロマコメ女王からの脱却という年齢であるとしても、そう無理をする必要もなかったのではないだろうか。

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この記事へのコメント

ぶーすか
2006年08月14日 21:48
TB&コメント有難うございます。「ピアノ・レッスン」は残念ながら未見です。女たちがどれも生々しくて美しくかっこいい存在に感じない…。かといってリアルに感じるか?というとそうでもなく…。どうも感情移入できない作品で私はダメでした^^;)。
オカピー
2006年08月15日 16:18
ぶーすかさん、TB返し&コメント有難うございます。
書籍で言えば純文学ですから、余り表面的に捉えても映画としての良さは見えてこないに違いありません。途中で真相が判るかどうかは殆ど評価には影響しないと言っても良いでしょう。仮に影響したとしても、それをどう描くかが演出であるので、それ次第では減点にならない、というのが私の考えです。

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