映画評「妻」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1953年日本映画 監督・成瀬巳喜男
ネタバレあり

成瀬巳喜男が好んだ閨秀作家・林芙美子の短編「茶色の目」を映画化した作品。

結婚10年を過ぎた妻・高峰美枝子の冷たい態度に疲れ、会社員の上原謙が同僚のタイピスト・丹阿弥谷津子と道ならぬ関係に入る。
 妻がタバコを吹かす場面が夫婦関係の冷えた様子を象徴し、高峰の演技も冷たい感じをよく出している。

夫婦は部屋を貸しているのだが、一人の男は妻と犬猿の仲のようになっているし、彼の後に入った水商売の女性は社長に食わせてもらっていて、社長夫人の訪問もある。
 映画は、亀裂の入った夫婦を見せることで、夫婦の行く先の暗さを暗示する。

タイピストは子連れで大阪へ引っ越していくが、出張で大阪に出た彼は彼女と子供のいる部屋で幸福な時間を堪能する。やがて彼の不義が妻にばれ、妻は東京に出てきた元タイピストに会う。元タイピストは大阪に戻り、倦怠を抱えたまま救いのない夫婦の生活がまた始まる。

「浮雲」がそうであったように林芙美子の小説における男女関係は、ふんぎりがつかない状態が続くのが特徴で、これもまた夫婦ではあるが同じようなものである。
 見終わった後やりきれないものが残るが、夫婦二人の心にあるのは諦観である。こらえ性のなくなった最近の若い人には分からないかもしれないが、これも一つの愛の形であり、やりきれないものが残ったら作者の狙いは成功しているわけである。成瀬演出の細かい心理描写に裏打ちされたものと理解できる。

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この記事へのコメント

ジューベ
2005年12月20日 00:36
どうもお邪魔いたします。
成瀬作品ではウジウジとふん切りの悪い男女がよく登場しますね。成瀬監督自身の自己投影だったのかなと思えるところもありますが,林芙美子作品とは相性がよかったみたいですね。

リンクの設定をいただきまして,ありがとうございました。私のブログからもリンクさせていただきました。
今後ともよろしくお願いいたします。
オカピー
2005年12月20日 16:59
ジューベさん、ようこそ。
ジューベさんは的確に映画を把握し、それを巧く文章化されていて、本当に感服致します。私はその映画の本質を見抜くのが比較的得意と思いますが、何しろ文章がお粗末なもので、恥じ入るばかりです。
こちらこそ宜しくお願い致します。
viva jiji
2006年10月04日 18:25
「た行」で散策してましたらこの作品に出会いました。
あれほどシニカルで突きぬけていませんけど、男女の駆け引きと本音と“あや”にかけては、日本のルコントは成瀬監督じゃありません?
市井に暮らす一般の夫婦の軽妙さは本作のような“山椒は小粒で~”的な巧さですね。
「浮雲」は、トリュフォーの「隣の女」の非情さと情熱に匹敵すると私、思っています。
TBさせていただきました。
オカピー
2006年10月05日 01:23
viva jijiさん
いやあ、成瀬監督も相当に皮肉屋ですよ。選んだ原作が女性作家が多いせいで、シニカルなんでしょうね。お国柄の違いが作風に出ていますが、いい勝負だなあ。
正に、「浮雲」は「隣の女」と(粘っこさでも)互角ではないでしょうか。甲乙つけがたいです。どちらも生涯ベスト100に入れている傑作です。
成瀬監督は僕らの青春時代にはマニアックな人気しかなかったのですが、最近は違いますね。嬉しいです、はい。

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  • 『妻』 ~成瀬の夫婦観~

    Excerpt: 1953年 日本・東宝 監督:成瀬巳喜男 原作:林芙美子 脚本:井手俊郎 撮影:玉井正夫 美術:中古智 出演: 上原謙( Weblog: キネマじゅんぽお racked: 2005-12-20 00:24
  • 成瀬巳喜男・・・女優映画の名作たち・・

    Excerpt: 52年前の日本映画である。 10年ひと昔に倣えば“5むかし”、 半世紀前・・・ですね。 私の父母も若い頃観たであろう、 市井に住む庶民の姿をホンワカと した眼差しで描いた成瀬作品、「妻」。 .. Weblog: 映画と暮らす、日々に暮らす。 racked: 2006-10-04 18:11