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zoom RSS 映画評「かくも長き不在」

<<   作成日時 : 2018/06/29 07:54   >>

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☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1961年フランス=イタリア合作映画 監督アンリ・コルビ
ネタバレあり

40年近く前大学時代にミニシアターで観た。

セーヌ川に程近いパリの郊外に中年女性テレーズ(アリダ・ヴァリ)の経営するカフェがある。彼女は運転手の恋人と避暑に出ようかとも思うが、毎日店の横を通る浮浪者(ジョルジュ・ウィルソン)のことが気になり街に留まることにし、ある時手伝いの娘に誘わせてビールを飲ませる。彼は16年前にレジスタンスの為にゲシュタポに捕えられた生没不明の夫と瓜二つだが、記憶喪失の為に証明書を持っていても正体は解らない。しかし、彼女は彼が夫であることを確信する。田舎の母と甥を呼び出して確認させるが、彼らはどちらとも言い切る自信がない。

この場面は、三人がわざと声高に“彼”のことを話題にして男の反応を見ようとすると男がそそくさと出て行くというもので、まず最初に強い印象を残す場面と言って良い。これ以降映画は佳境に入って行く。

彼が口ずさむアリアのレコードを聞かせたり、彼の記憶喪失後の話を聞いたり、ダンスをしたり回復のきっかけになりはしないかと色々試みるが効果はない。しかし、踊る時彼女の回した手が彼の後頭部にある傷に至るところで、彼女と同時に観客たる我々もハッとさせられることになる。収容所にいた時の傷だろうか。

さらにそれ以上のショックを与えるシークエンスがその直後に出て来る。
 即ち、カフェを出た彼の背後から彼女に同情する男友達数名が“彼”の名前を呼ぶと、それに反応して彼は立ち止まり、降伏するように手を挙げる。名前の連呼が逮捕前あるいは収容中のトラウマを呼び起こしたのであろう。これだけで確かとは言えないが、名前の連呼に強い反応を示したことにより、かなりの確率で彼女が確信したように夫だったと推測したくなる。いずれにしても鬼気迫る場面と言って良い。

男は逃げるに夢中で飛び出し、トラックに轢かれる。ここでブラックアウトした後目覚めた彼女に、ある男が“あの男はまた旅立った”と告げる。
 これを文字通り旅に出たと解釈する人が多いが、昔書いた映画評で僕は“車に轢かれて死ぬ”と断言している。彼の死を知った後も彼の帰還を望みに生きていくしかない、というほうが哀切極まりなく、映画的に辻褄が合う。まして(恐らく)主筆が「二十四時間の情事」(1958年)で戦争が個人に落とす大きな影を描いたマルグリット・デュラスであるだけに。
 ここでもまたデュラスは、戦争に関する記憶を底に置いた類似する主題を、前述作とは正反対に解りやすく浮き彫りにし、強く胸を打つ。戦争が終わって十数年後の市井だけを捉えて厭戦を強く表明する。圧巻と言うしかない。

監督をしたアンリ・コルビの唯一日本で公開された単独監督作品である。これだけの作品を作る力がありながらどうして重要な仕事が回ってこなかったのだろうか。

山田洋次監督「虹をつかむ男」(1996年)で、主人公の営む映画館でこの作品が掛かっていました。

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
11年前に書いた記事にコメントもいただいておりましたが、gooブログにトラックバック機能が無くなったので、名前に記事をリンクさせています。

気になったのはラストで男性主人公がトラックに惹かれたかどうかですね。
僕の記憶では、トラックに轢かれそうになっただけで、そのまま何処かへ行ってしまったことになっているようです。
書棚の録画DVDを探しましたが見当たらず、後日出てくれば見直そうと思ってます。
十瑠
URL
2018/06/29 16:43
DVD出て来ました。
博士の言う通りでした。
いくつかモヤモヤした箇所があったので、これも曖昧な結末にしたと思い込んだんでしょうかね。
あの時代の表現としては、トラックに轢かれたとみるのが正解でしょう。
『哀切』という言葉が似合う映画でした。
十瑠
2018/06/29 22:24
十瑠さん、コメント&忍びのTBありがとうございました。

>ラスト
完全に轢かれる前で画面は終わっていましたから、「死んでいない」という理解も不可ではないでしょうが。
モノクロによる、夜のあの画面。強烈でした。
オカピー
2018/06/29 23:09

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