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zoom RSS 映画評「光」(河瀬直美)

<<   作成日時 : 2018/05/27 09:34   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2017年日本映画 監督・河瀬直美
ネタバレあり

同じ題名の作品について製作年を括弧付きで記すことにしているが、本作は例外的なケースで、「光」という同じ年に発表された大森立嗣監督の作品があるので、年度ではなく監督の名前を付ける必要性が生じた。逆に、この年以外に「光」というシンプルな邦題の作品はないと思う。

河瀬直美の新作は従来と違ってシンプルなタイトルになったのと合わせるように、内容がなかなか親しみやすく、気に入った。全体のセミ・ドキュメンタリー手法は変わらないながらも、個々の手法で自縄自縛になるところがなく大いに進境を感じる。手法ありきでなくなった感じがするのである。

視覚に障碍(しょうがい)のある人の為に映画に音声ガイドをつける仕事をするヒロイン水崎綾女が、試案中にモニターの一人永瀬正敏の遠慮ない問題指摘に反感を覚える。説明が過剰だと言って対応すると今度は足りないと言う。とにかく、かくして二人は知り合う。
 彼は失明寸前の元カメラマンである。彼女は彼の夕陽の写真が気に入り、撮影した場所へ連れて行ってもらう。実際には彼女が運転するわけだが。自分のおかれた状況への怒りで彼は愛着のあるカメラを捨ててしまう。それを見て彼女は突然彼にキスをする。

この映画には色々ポイントがあるが、僕はまずこの彼女の反応について考えざるを得ない。憐憫とも同情とも違う、カメラマンにとっての視覚という、一番大事なものを失う彼の苦しみを何とかしなければならないと言わんばかりの突発的行動だったのではあるまいか。他方、彼女は決して追いつけない夕陽を追いかけるような、一種切迫した精神状態にある。

二人は互いの欠落感(一人は実際の喪失感、一人は先験的な欠落感)を理解しようと想像力をフルに働かせていく。無理に考え込まないけれども懸命に相手の内面と同化しようとする。それは視覚障碍者用に音声を付ける作業と類似・呼応するものである。彼女はその作業でヒントを得て難題である場面に付けるべき言葉を紡ぎ出す。

実際の上映では樹木希林が音声案内を担当する。問題箇所で彼女の言葉が流れる時、映画は劇中劇ではなく、それを見る永瀬の顔を映す。太陽が映される場面では彼の顔が明るく照らされる。彼は彼女の仕事ぶりに満足し、同時に自らの苦悩を解放させる。

この幕切れの映像言語の扱いに僕は本当に感心した。感心すると共に当然のように感動しなければならなかった。
 この手の巧さは他にもある。永瀬が通りで転ぶ。愛用のカメラがバッグから転がり出す。それを誰かが持ち去る。彼は赤い靴を見る。正面からでは見えないものが、転がった為に視覚にアングルがついて見えたのである。その特徴的な靴の持主は後輩カメラマンである。彼の部屋に押し込んでカメラを取り返した彼が出て行こうする時玄関にある赤い靴が観客の目に飛び込んでくる。
 この辺りの言葉による説明と映像言語とのバランスが絶妙で惚れ惚れさせられる。映像言語という点でここまで感心したのは河瀬作品では勿論初めてだし、他の監督作品でもそう体験できるものではない。

違う種類の欠落感を抱える二人の心の触れあいが実にうまく表現され素晴らしい。視覚障碍者への音声案内というモチーフにより、映画における映像と音声の関係を考えさせることにもなり、大変興味深い作品と言うべし。

【障碍】という表記は、障害の“害”が勘違いを引き起こすとして近年【障がい】と共に新聞や役所で使われるようになったが、新たに発明されたわけではない。【障碍】が読みにくいので、戦後併用されていた【障害】に統一されたのである。どちらにしても【障碍】のほうが古い表記である。【選考】も昔は【銓衡】などと書いた。

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