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zoom RSS 映画評「永い言い訳」

<<   作成日時 : 2018/05/11 09:06   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2016年日本映画 監督・西川美和
ネタバレあり

西川美和は「ゆれる」が素晴らしかったので、どうしてもかの作品がリファレンスになってしまう。簡単に到達出来たり超えられたらリファレンスの価値はないわけだが、この作品は大分迫れたのではないか、という気がする。彼女らしく、明確な結論はなく、同時に観客の理解に任せるという丸投げの態度でもないが、相変わらず曖昧な作品ではある。その辺りの微妙な匙加減が良い。丸投げはダメだ。

人気小説家・本木雅弘は、編集者(黒木華)との情事中に妻・深津絵里が旅先のバス事故で親友の女性と共に亡くなったことを知らされるが、長い冷たい関係や後ろめたさの為に、悲運の夫を演じる一方でその死を悲しむことができない。後日、一緒に死んだ妻の親友の夫・竹原ピストルと知り合い、スランプに陥っている中、彼のことをよく聞かされていたらしい一家の家を訪れる。トラック運転手をする貧しい家庭で小学6年生くらいの長男(原田健心)がまだ幼い妹(白鳥玉季)のいる家庭の事情から自分の学業を諦めようとしているのを知り、週に二回ほど父親と少年のいない間娘を世話し、少年の勉強もみるなどする。

小説家のこの態度は些か謎めていて色々推測したくなるのだが、直接的には、子供のいない彼が本能的に子供世話をしてみたい欲求が生れたのではないか。端的に言えば、実現することのなかった子育てのごっこをしてみたいということ。疑似家族の形成だ。それはマネージャー池松壮亮が言うように逃避の可能性もあるし、勿論小説のネタにする可能性もあるが、少なくとも本人はその時点でそれを意識していない。
 後段で彼は“自分がクズであるからその遺伝子を引き継ぐ子供を作りたくなかった、妻もそうであったろう”と、子供たちの前で、話す。自分がクズであるという自認は本当かもしれないが、それと切りせば“子供を作りたくなかった”というのは本音ではなくなるだろう。

大人の前では相変わらず嘘で塗り固める皮肉屋の彼も子供の前では実に素直である。厳密に言えば、それが彼に限らず多くかれ少なかれ大人の世界であり、大半の子供達とは一線を画す部分であることを、西川監督は実に正確かつ精密に描き込んでいる。
 妻のケータイの下書きフォルダーに残された「もう愛していない」は心底から湧き出た本音ではないだろうし、自分のことではない可能性もある。主人公の同じような自覚も果たしてどうか。涙が出ないのは愛していないからとは言い切れない。急激に何かを失った時に起こることもあると思う。ただ一つ確かなのは、主人公は自分を一番愛していたという事。それが幕切れの時点で変わったか否か?

髪を切るという行為を記号として使っているのが映画的な工夫。特に最初に美容師の妻が彼の髪を切るシーンを置き、その後彼の髪の毛が伸びていることで妻の不在と彼の甘えた性格を表現する辺りが巧い。幼女が自分で髪を少し切るのはどういうことだろうか。最後に中学に上がった少年は坊主頭で登場する。

人間は、特に男は、複雑で曖昧な生き物である。これが監督の人間観ではなかろうか?

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