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zoom RSS 映画評「家族」

<<   作成日時 : 2018/04/14 09:02   >>

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☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1970年日本映画 監督・山田洋次
ネタバレあり

山田洋次シリーズ。
 「家族はつらいよ2」の次は・・・と、当初はNHKが先日放映した「故郷」を再鑑賞しようと思ったが、やはりその原点である「家族」を先に観ておいた方が後々良いと思い、こちらへ選んだ。3回目か4回目の鑑賞。

長崎の伊王島に住む労務者・風見精一(井川比佐志)が、妻・民子(倍賞千恵子)と子供二人そして老父・源造(笠智衆)を養っていくのに限界を感じて、同郷の沢亮太(塚本信夫)の成功を聞き、同じように北海道の根釧台地で酪農をやろうと決心する。最初は単身で臨もうとするが、結局妻子は勿論、弟(前田吟)に預けようとした祖父まで連れていくことになる。
 長崎本線から始まる列車の旅は、青函連絡船を経て、釧路本線と乗り継いで遂に目的地に着くのだが、その間にまだ乳飲み子の長女を失い、喪失感をぬぐい切れない。頑張ってきた老父も到着を祝って酒を飲んだ翌日帰らぬ人となる。
 しかし、友人から生まれたばかりの雌牛をもらい受けると共に民子のおなかの中には新しい生命が宿っているのだ。

日本全体としては高度経済成長真っ只中にあってもそれに乗れない人々もいた。地方それも観光資源のない小島ではそういうことであったろう。
 精一は起死回生の挽回策のつもりで考えたものの、殆ど無謀な挑戦である。実際には妻子や老父を巻き込む形で、辛い旅により二人まで家族を失う。自責の念は強いが、そうであっても人はそれを非難する人にやつ当たりしたがるものである。
 かかる心境において青函連絡船の中で精一は民子をひどく責める。それを老父がたしなめる。この場面に僕は驚きました。昨日の「家族はつらいよ2」にほぼ同じシチュエーションがあるからである。しかも、この老父が酒を飲んだ翌朝息をしていない状態で発見される。これもまた似たシチュエーションがある。三つ子の魂百までと言おうか、或いは山田監督は「家族はつらいよ2」を書く時に本作に当たったのかもしれない。

そして、両作に共通するのは、楽観論的な結末。つくづく山田監督は楽観主義者であると思う。家族の死にもめげず連綿と生を営む生命を喜怒哀楽でつつんで優しく見つめる。本作は大半を哀と怒で占めながら、苦労の末に訪れる喜を爆発させる。厳密には映画が終った後夫婦には新たな艱難が待っているはずだが、人は一時の喜びへの希望さえあれば生きていける。山田作品の全てに共通するのはその思いであろう。

内容を少し離れれば、セミ・ドキュメンタリーの手法を本格的に取っているのが特徴で、河P直美がずっと試みている俳優を一般大衆の中に置く演出を披露しているが、僕は日本映画史上この映画が一番うまく行っていると思う。その手法の本来の目的が果たされている感じがするからである。
 本作が狙ったのは、1970年の日本、九州から北海道までを取り込むことであったであろう。特に大阪万博の場面が凄い。人々が無数にいる中で俳優が動き回るのを撮るのは難しいだろうし、その中で披露された倍賞千恵子の演技も圧巻だった。業界用語的に言えば、「噛んだ」まま台詞を言い続け、迫真である。

繁栄する大阪や東京と、荒涼たる長崎の小島や北海道の原野、その対比。ドラマの中でこれほど“本物”が観られる映画は他に殆ど記憶がない。この作品の十年後がほぼ「遥かなる山の呼び声」(1980年)ということになる。その間に精一は死んでしまったのか? もう一人の子供はどうなったのか? それとも「若大将」シリーズのように、同姓同名別人の設定だろうか。いずれにしても、コンセプト上は、こちらの民子とあちらの民子は同一人物である。

彼らの日本縦断の旅は、そのまま喜怒哀楽につつまれた彼らの人生を意味する。「男はつらいよ」が全48作品で日本全国の旅を通してやったことを本作一本で見せ切ったという印象を多くの人が覚えるだろう。日本人なら一度は観ておいたほうが良い。

十代の僕は友達と万博の本を見て憧れたものである。我が家では父親が社員旅行で行った。しかし、わが父、旅先で記憶してくるのはいつも人なのだった。あらら。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
>殆ど無謀な挑戦
冒頭、男はつらいよ「口笛を吹く寅次郎」で、前田吟の長兄役の山田組の俳優、梅野泰靖扮する市役所職員が、万感の思いで一家を見送るシーンにも現れていますね・・。
井川比佐志は、男はつらいよ第5回にもゲスト出演しています。


>セミ・ドキュメンタリーの手法
素人とのからみは味の出る反面、俳優の演技とのギャップが強調されてしまう場合も多々ありますが、この作品では実にスムーズですね・・。

>業界用語的に言えば、「噛んだ」まま
これも山田組の重鎮俳優、花沢 徳衛演じる強欲金貸しに突っかかるシーンですね(笑)劇中、数少ないコミカルなシーンでもあり、僕もあの場面は好きですね。

 >万博の本を見て憧れた
当時は新幹線も開通して間がなく、群馬から大阪は距離がありました・・。EXPO’70は、まさに当時の子供たちの夢の合言葉。夏休みに行ってきたという友達から、土産のパンフレットやパビリオンの写真を貰い、矯めつ眇めつ眺めては、「遥か千里」の現地へ思いを馳せましたねぇ・・。

大人になってから、公園になった開催地を訪れ、太陽の塔も見学・・。まさに、20世紀の日本人が夢見た”21世紀”だったでしょうか・・。
浅野佑都
2018/04/14 15:57
浅野佑都さん、こんにちは。

>井川比佐志
山田組と言っても良いでしょうが、「男はつらいよ」には余り出ず、その周辺の映画の出演が目立ちますね。先日観た「続・深夜食堂」もまあその周辺映画に近い感覚のドラマです。

>素人とのからみ
実に難しく、僕は余り上手く行った例はないと思います。世界的には、ロッセリーニの「ストロンボリ」がありますが、イングリッド・バーグマンが素人の間で浮いてしまって、倍賞千恵子のようには行かなかった。
本作でも北海道に着いてからの少数との絡みでは撮影自体はさほど難しくないでしょうが、万博での無数の人々で撮るのは大変だっただろうと思います。

>花沢 徳衛演じる強欲金貸しに突っかかるシーン
その通りです。よくご記憶されていますね(@_@)
映画の目的故に、倍賞千恵子は殆ど化粧っ気なしでも、まだ若かったので可愛いです。

>群馬から大阪は距離がありました
まさに。
図鑑を見るのが好きな僕でしたから、一種の図鑑である万博の本を飽かず眺めていましたねえ。友人の本なので、一日中というわけには行きませんでしたが。
正に「夢の合言葉」という感覚でした。
修学旅行でも遠くへ行く時代ですから、僕らの感覚はなかなか理解できないでしょうねえ。
オカピー
2018/04/14 21:42

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