プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画評「スノーデン」

<<   作成日時 : 2018/01/13 09:58   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 8

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2016年アメリカ=フランス=ドイツ合作映画 監督オリヴァー・ストーン
ネタバレあり

日本で所謂“共謀罪”法が成立した日に観たドキュメンタリー映画「シチズンフォー スノーデンの暴露」の、言わばドラマ版である。2013年“現在”の様子はかの映画そのもので、新味がない代わりに非常に解りやすく観られる。監督のオリヴァー・ストーンは“2013年現在”を比較的軽く扱っている。この“現在”に、そこに至るまでの経緯が随時挿入、厳密には過去の場面に随時“現在”が挿入される形で進行するわけだが、“現在”が軽めに扱われるのは、過去で説明されるからである。

9・11により愛国心をかき立てられて入隊したものの体を痛めたエドワード・スノーデン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は、CIAの採用試験を受けて合格、コンピューターの知識と才覚を買われ、NSA(米国国家安全保障局)の仕事に就く。並行して、SNSで知り合ったダンサーのリンゼイ・ミルズ(シェイリーン・ウッドリー)とステティーな関係になって同棲を始めるが、国家による全世界的な通信傍受・国民監視の実態を知れば知るほど、仕事に疑問を覚えるようになる。
 恐らく決定的になったのは、上司がリンゼイの私生活を恋人である自分より知っていた事実であろう。これに背中を押されて国家情報を一枚のカードに収め香港へ逃げ込んだ彼は、信頼の置けるジャーナリストのローラ・ポイトラス(メリッサ・レオ)と接触し、カメラを前に語り出すのである(それが上記ドキュメンタリー)。

国のレベルで語れば彼は紛うことなき犯罪者。しかし、国のやることは全て正しいと盲信する全体主義者以外には英雄であろう。僕は相対的に自分を保守とみなしているが、個人主義者なので、当然彼を英雄視する。

結局、彼の公表によって、アメリカの愛国者法は改正された。アメリカに帰れば犯罪者であろうと、そのアメリカ自身が彼の言っていることには尤もな部分があると認めたことに他ならない。アメリカはとんでもない我が儘な国であるが、こうしたところは大変素晴らしい。民主主義や立憲主義が機能している。
 翻って日本には、憲法裁判所はないし、最高裁判所も政府に遠慮して十分に判断できることについても「高度に政治的で司法的判断になじまない」と言って逃げる傾向がある。司法が弱すぎるのだ。現憲法の最大の失敗は憲法裁判所を作らなかったことで、もしあれば、特定秘密保護法と“共謀罪”法は違憲とされていたであろう(前者に関してはアメリカの元国務副長官が自国なら間違いなく違憲になると述べている)。憲法改正をするなら憲法裁判所を望むが、その元になる憲法が国家を全く縛ることができない前の自民党案みたいなものなら全く意味を成さない。

政府側の必要であると主張した根拠が全て嘘と判明した“共謀罪”法については、これまでのところ同法による逮捕者は出ていない。それに関連してなのか、麻生大臣が「やって良かったじゃないか。東京新聞は前言を取り消した方が良い」という趣旨の意見を発したそうだが、「良かった」と判断される材料は出ているのだろうか? 現状では逮捕者がいないことだけだと思うが、これとて国家を構成する権力者の思惑通りに、単に市民が大人しくなったからだけかもしれない。懸念されていた事態が実際に起きていないからと言って何の根拠にもならぬ。反対派の主張は穴のある法律では、将来(安倍首相や麻生大臣が死んだ後のような将来)とんでもない人間が出てきて悪用するかもしれないという懸念だ。東京新聞などが撤回する必要は勿論ない。同趣旨のことを、本作の最後でスノーデン(多分本人)が「国家による監視を放置すると独裁者を生みかねない」と言っている。反対派が心配しているのはこのことに他ならない。僕は、オリンピックが終わった後、”共謀罪”法の適用が本格化するのではないかと危惧している。
 一部の左翼と違って、街中でのプライバシーなど僕は構わない。市民にとってプラスの方が大きいと思うからである。しかるに、家の中まで土足で入り込まれては困る。
 それ以上に困るのは、国家が国の政策に異論を唱えるような人物を監視して自由を奪うか言論を封鎖し、独裁者を誕生させてしまうこと。歴史が証明しているように権力者は欲望をどんどん膨らませていくので、法律には穴があってはいけない。為政者にあっては「(政治家であろうと)人は間違いを犯す」という、法律が存在する根本理由を忘れてはいけないのだ。

閑話休題。
 ストーンであるから進行ぶりは解りやすく堂々たるものだが、彼の映画にままあるように、劇映画としては少し散文的なところがある。それでも恋人との関係を彼の映画としては丁寧に描いていて、潤いのある部類であろう。内容と作り方との関連を分析するのが好きな僕には不本意ながら、彼の映画、特に本作のような作品については内容がどうしても先に立ってしまう。

ストーンも"Me Too"運動で非難された一人だが、カトリーヌ・ドヌーヴが言うように、純粋に刑法に抵触する行為と、シンプルな口説きなど一般的な男性的行為とを同視してはいけないだろう。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
ナイス

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
そう、この映画の評価は不当に低い気がするので、高く評価されたのはうれしいです!
onscreen
URL
2018/01/13 10:45
 >"Me Too"運動

大女優、カトリーヌ・ドヌーヴの<男性には女性を一所懸命に「口説く自由」が認められるべき>とのコメントは、やはり、というか、いつもアメリカのアンチテーゼを出してくるフランスからの発信で、ぼくも正論だと思いましたね・・。日本の美保純が(ド・ヌーブに賛同の意味で)「口説かれてこそ女優」などと頓珍漢な発言をしたのには唖然としましたが・・。

 エマ・ワトソンなんかのスピーチを聞いていると、当初のセクハラ・パワハラ告発よりも、ムーブメント自体に関わること、純然たるメンバーであることの方が重要になっていて見苦しい・・。

人は正しさを追い求めるときほど暴走する、ということなのではないでしょうか。そしてその正義をより正確に定義しようとするときに、容赦なく他者を排除してしまう。

確かにことわりもなく女性の体に触れたりするのは愚かな行為ですが、逆に、愚かでなければ始まらなかった関係だってあるかもしれない・・。
「サヨナラCOLOR」で子宮がんを患った原田知世の命を救ったのは竹中直人演ずる同級生のしつこさでした。

 当たり前のことですが、男女の仲は、その間で落とし所を見つけるべきであり、法律や思想信条の類で処理できるようなものではない…ということではないしょうかね。
浅野佑都
2018/01/13 18:51
onscreenさん、こんにちは。

やはり21世紀に生きる我々にとっては実に大きな問題で、それを効果的にドラマとして告発していましたね。
日本人は、今のところ大きな問題は起きていない共謀罪法についての関心も低かったですよね。
オカピー
2018/01/13 20:47
浅野佑都さん、こんにちは。

勿論、暴力はいけませんが、くどくこともできなくなったら、日本など草食系男子ばかりになってしまいますよ。そうでなくても多いのだから。

>愚かでなければ始まらなかった関係
男と女の間には深くて暗い川がある、と昔の歌にありましたが、違う意味でそうなってしまいそう。

>「サヨナラCOLOR」
おおっ、僕はすっかり忘れていましたが、映画評を読み返すとそんな感じです。
 僕も中学を卒業して、大学へ入ってから、高校3年間を経ても忘れられなかった初恋の人にラブレターにはしませんでしたが、手紙を出したことがあります。彼女が何と思ったか知りませんが、僕も相当にしつこい(笑)。

>当たり前のことですが、男女の仲は、その間で落とし所を見つけるべきであり、法律や思想信条の類で処理できるようなものではない…ということではないしょうかね。

カトリーヌ・ドヌーヴが指摘したように、その運動に参加しない人を「裏切者」と扱うのは間違いですね。運動というのは、権力側に傾いても、権利者側に傾いても、全体主義的になる。全体主義は、違う意見を排除するので、僕は嫌悪しますよ。
オカピー
2018/01/13 21:05
男と女の間には深くて暗い川がある〜(^^♪
野坂昭如さん。懐かしいですね。自費で出されたレコードを買いました。

昔、好きな女性芸能人がある事件に関わって引退に追い込まれたとき、そばにいたらたとえ1000人の男と寝ていても付き合いたいと言ったら呆れられましたね。

最初は嫌いだったけどひつこく口説かれたので結婚したという女性はけっこう多いですしね。

寛容さというのはその国によって違うんでしょうね。
明治の政治家なんて愛人を連れて歩いていましたしね。
デーモン閣下が、悪魔だと名乗って10055歳だと言っていまだにテレビで活躍しているのは日本ぐらいでしょうしね。
ねこのひげ
2018/01/14 07:21
ドヌーヴはよく言ったと思いますし、ドヌーヴだからああ言ってもなんとか通せるのだな、とも思いました。彼女は公開書簡に署名した一人なのですけれども、あの書簡が注目されて大勢に読まれるきっかけになったのなら目立った甲斐もあるでしょう。
ただ、フランスのインテリが書いた文章なので、全文ちゃんと読める人が大勢になるのかというと、そこは不安です。現に、ほんとうにちゃんと読んだのかとうたがうような非難がネット上で飛び交っていますし orz
ワインスタインがらみの芸能ニュースを読んでいると、『ハリウッドバビロン』を思い出します。昔ながらのハリウッドゴシップ消費がなされているだけなのに、#MeToo参加者はその自覚がなく、もはやワインスタインに同情したくなったりします。
nessko
URL
2018/01/14 11:27
ねこのひげさん、こんにちは。

>女性芸能人がある事件に関わって引退
誰かなあ。思い出せないなあ。

>最初は嫌いだったけど
食べ物でもよくあります。
最初嫌いだった食べ物ほど、はまったりします。

>寛容さ
日本は寛容な国だったと思いますが、ネットの普及により人性があれてきたような気がします。

>デーモン閣下
キリスト教圏でないということもありますが、オカマの出演が多いということを考えてもこういうところは寛容ですね。その割に保守の政治家によるLGBTへの批判が多い気がします。


オカピー
2018/01/14 14:22
nesskoさん、こんにちは。

>ドヌーヴだからああ言ってもなんとか通せるのだな
そうですね。
若い人が言ったら、仕事がなくなります。

>非難
普段は個人主義を自ら任じている人も、権利が絡むと、全体主義的になって他の意見を認めなくなる。嫌ですね。

>もはやワインスタインに同情したくなったり
詳細は知らないのですが、中庸を外れ極端になると、どちら側に立っても嫌らしいです。極端はダメです。
オカピー
2018/01/14 14:33

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画評「スノーデン」 プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる