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zoom RSS 映画評「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」

<<   作成日時 : 2017/12/03 10:45   >>

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☆☆☆(6点/10点満点中)
2015年ドイツ映画 監督ラルス・クラウメ
ネタバレあり

欧州からナチス絡みの作品が次々と送られてくる。以前より製作本数が増えたのか、配給会社が好んで選んでいるからなのか判然としないが、いずれにしても、その背景にあるのは、全体主義の静かなる潜行なのではないか。日本はともかく、世界的には一時的な反動なのではないかとノンポリの個人主義者たる僕は案外楽観視している。

本作は2010年代に入って僕が見る3本目のアイヒマン絡みの作品である。
 アイヒマンはナチスのユダヤ人“移住”係で、本人は「自分がいなければ、これほどの偉業はできなかった。しかし、全滅させなかったのが自分の失敗だ」と恥知らずにもうそぶいている。

時は1957年、ドイツの検事長フリッツ・バウアー(ブルクハルト・クラウスナー)は自らユダヤ人であり、ナチス政権に屈して釈放された過去を悔やみ、ナチス残党追及に注力している。当時は政権や当局にナチ党員だった人物が数多くいて、上席検事(セバスチアン・ブロンベルク)もその席を狙い、彼の亡命先デンマークでの男性との淫行事件と、アルゼンチンにいる証拠を掴んだのにアイヒマン逮捕(拘束)にやる気のないドイツ当局ではなくイスラエルの諜報組織モサドと接触したことを以って、彼の失脚を狙う。検事長は「クウェートにいる」と鎌をかけてきたナチ残党派とアイヒマン本人を欺くために「クウェートに引き渡しを要求する」とメディアに宣言する。

後はご存知の通り1960年にモサドによりアイヒマンは拘束されるが、本作のハイライトと言うべきは、彼を尊敬する若い検事カール・アンガーマン(ロナルト・ツェアフェルト)が妻が念願の子供を宿した直後にも拘わらず同性愛による風俗紊乱罪について自首することで、バウアーの計画が頓挫することを防ぐ犠牲精神である。結局彼がナチ残党派の交渉に応じなかったことでアイヒマン拘束ができたのである。
 ここについては上司への同性愛的意識と言うよりは、検事長の国の将来を思う気持ちを保身より優先したのである。

地味すぎて万人向きとは言えないものの、総合的にはなかなか興味深い内容で、特にまだナチ残党が国家の中枢にい、また、同性愛が犯罪であった、現在とは真逆の環境に、“世界に冠たる民主主義国家ドイツは一日にしてならず”の感を強くした。「民主主義が国家の礎である」としたバウアー、そしてその主張を理解したアンガーマンのような人物がいたから現在のドイツがあるわけである。本作の主題はこれであると言っても良い。

それを思うと、明治回帰へのムードが強い我が国の現政権が口では立憲を標榜しながら立憲主義を無視し、果ては民主主義まで破壊しようとしている(ように見える)現状に危機感を覚えないではいられない。ノンポリだから現在進行形の政治の話はしたくないのが本音だが、十年後あるいは二十年後に「北朝鮮より、中国よりは多少マシ」などとなっていないことを切に願う。

自民党幹部が「(同性愛は)日本の伝統にそぐわない」と言ったが、昨年同主旨の発言をした自民党地方議員がいる。同性愛のタブー視は西洋に始まり(実際には古典を読んでみると同性愛者・両性愛者は多くいたので、マンパワーを必要とした産業革命がそれを厳格化させたと僕は考える)、それを明治時代に日本が輸入したものである。これにより解るのは彼らの“伝統”は明治以降を指すこと。自民党というより、日本会議あたりの共通認識なのだろう。彼らは「日本書紀」に基づく紀元を後生大事にしながら、同じ「日本書紀」が最初の方で触れる同性愛の記述を無視する。二重基準も甚だしい。そもそも日本の古典を読んでもいないのだろう。真に母国の伝統を愛する者の態度ではない。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
たしかに地味でしたが、興味深いものでした。アイヒマンについて今まで詳しく知りませんでしたし。
ボー
URL
2017/12/26 23:46
ボーさん、こんにちは。

TBが入らないのに、わざわざお越し戴き有難うございます。

>アイヒマン
名前だけは大昔から知っていましたが、僕が詳細を知ったのは「ハンナ・アーレント」ですね。今春「アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち」を観て補完し、今回こちらを観て益々解った気がします。
 最初の作品はアメリカ、次がイスラエル、そして本作がドイツという、主たる舞台が違うためにアングルもそれぞれ異なり、興味深いですよ。
オカピー
2017/12/27 18:07

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