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zoom RSS 映画評「フェンス」

<<   作成日時 : 2017/10/21 11:06   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2016年アメリカ映画 監督デンゼル・ワシントン
ネタバレあり

アカデミー賞4部門の候補になり、ヴィオラ・デーヴィスが主演女優賞を獲得としたのに、日本劇場未公開に終わったドラマ映画である。日本では配収の増加にも拘わらず映画ファン、特に洋画ファンが激減しているから、地味な実物を見るとやむを得まいかとも思う。

舞台は1950年代後半、僕の計算では、1904年生まれらしい主人公デンゼル・ワシントンが53歳なので1957年のピッツバーグ。
 ニグロ・リーグでかの伝説の大投手サチェル・ペイジ(*下記注参考)から8本もホームランを打った元野球選手で現在はごみ収集企業従業員として働いている黒人男性ワシントンは、少年時代の経験や大リーグに入れなかった差別が脳底に定着している為、音楽に夢中になって定職に就かずたまに金の無心に訪れる長男(前妻の子)ラッセル・ホーンズビーや、プロのフットボール選手を目指す次男(現在の妻ヴィオラとの息子)ジョヴァン・アデポの人生に対する態度が気に入らず、父親風を吹かせて横暴にふるまう。妻ヴィオラは基本的にそれをたしなめないが、勿論心底では不満である。
 彼が白人にしか認められていなかった念願のごみ収集トラック運転手になった頃、彼の浮気が明るみに出る。相手が身ごもった為である。その相手は娘を生んで亡くなり、ヴィオラは自分の娘として育てることを夫に約束する。その頃次男は海兵隊に入る。
 7年後次男が家に戻って来る。父親が死んだのだ。しかし、葬儀には出ないと言う。母親の説教を聞いた後、7歳の少女になった娘サニヤ・シドニーと、父親の歌っていた歌を唱和する。かくして心のもつれをほどいた次男は父親が見下ろしているかのような空を眺め、葬式に参列することにする。

台詞が多いことからも解るように舞台劇が原作(作:オーガスト・ウィルスン)。全体の構成から言えば3幕5場くらいの感じだが、幕切れはいかにもクラシックな演劇的に、敢えて言えばユージーン・オニール的に非常に綺麗な形で終了する。

劇的な起伏の多い物語を求める人を中心に「つまらない」という意見が目立つものの、人間の内面を見るのが好きならばそれほど退屈しない。邦画「葛城事件」の父親にも伍する父権主義の父親の評判が悪いが、こちらの父親は自分の経験値から黒人の生き方を示す親心が感じられるから、個人的にはさほど憎めない。
 特に、黒人の脳底にしみ込んだ被差別の意識というのは白人は勿論、本国に住んでいる日本人にはなかなか理解できないものがある。こうした黒人の、理屈を超えた被差別意識は、リチャード・ライトの「アメリカの息子(ネーティヴ・サン)」を読むとよく解る。親切にしてくれる共産主義の女性をその親切故に自分が惨めに感じられ殺してしまう少年のお話だが、これを読んでいたのでこの父親の心情が実によく解るのだ。一言でいえば、この中年黒人は白人が支配する社会で諦観しか持てなくなっていたのである。

時代は1957年、公民権運動が胚胎し、やがて芽生えようとしている頃で、それを考えると、子供たちの成功してやろうという気持ちもよく解る。多分一般の日本人にはそれが解りにくいし、反復的な台詞の多い台詞劇ということもあり、日本での劇場公開が見送られたのであろう。

(*)サチェル・ペイジは、ニグロ・リーグで2500試合に投げて2000勝したと言われる。ニグロ・リーグでは公式記録が残っていないので全く確認のしようがなく、実際には他国での勝ち星等も入っていると思われるが、球速が170km/hを優に超えていたのは確からしい。メジャー・リーグで当時一番速いと言われた火の玉投手ボブ・フェラー(160km投手)が、交流戦で投げ合った時に「自分の球がスローボール(正確にはチェンジアップ)に見える」と言ったほど。
 ニグロ・リーグは大リーグより格下だったのかと言えば、そんなことはない。黒人が大リーグに入れていたなら、ベーブ・ルースのホームラン数も、サイ・ヤングの勝利数も、テッド・ウィリアムズらのシーズン4割もなかったであろう。実際ページは、大リーグ選抜との交流戦で彼は一試合22奪三振という物凄い公式記録を残している。
 戦後黒人が大リーグに入れるようになり、彼が入団した時既に42歳(生年が不正確で、もっと年上であった可能性あり)で、5年間ほど活動し、通算28勝31敗という記録を残している。1965年に一試合だけの契約により大リーグで投げて引退した。この時の年齢は何と59歳。


大リーグでも日本プロ野球でもプレーオフがたけなわ。群馬県人の大半が応援する読売ジャイアンツは出ていないが、ヤンキーズと戦っているアストロズのユニフォームが一時期のジャイアンツに似ている。アストロズを応援しましょう(笑)

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
台詞劇が好きな当方でも、本作のあの父親の
台詞は長い。長いってからやや暫く長い。
「葛城事件」のお父ちゃんがふつうに感じるほど。(^^)
単語や感嘆詞に甘やかされて見ている今の方々には
面白くも何ともなく、拷問のような映画かもね。

大上段に振りかざす一方的思考の父親、
それを耐えつつ賢く家庭を守る母親、そして
弾圧のある時期を経ねば世に出れない息子、
ふた昔前くらいの我が国にも、こういう
色合いの家族はゴロゴロいましたね。
私は秀作と思います。

vivajiji
2017/10/21 15:42
vivajijiさん、こんにちは。

>「葛城事件」のお父ちゃんがふつうに
日本人は「男は黙って」が多く、言葉より行動の方が先なのかもですね。
おしゃべりな黒人はとにかく喋るようで、ましてそれが説教臭いからたまらん、という人物でした。
しかし、数百年に渡る諦観が体に染みついた1950年頃の黒人にはこういう人が結構多かったと思われます。悲しいことです。

>こういう色合いの家族
ここは村で、昔は横暴の父親が多かったものです。家の中でのことまでは解りませんが、隣近所に対する態度である程度は想像がつきます。
亡父は大人しい人物で、言葉のそれを含めて、暴力とは無縁の人でした。

>秀作
vivajijiさんや僕みたいな人がたくさんいれば、日本でも公開されたでしょうに。現在は、他愛ない映画ばかりヒットする日本ですからねえ。
僕が若いころは「ジョニーは戦場へ行った」とか「スケアクロウ」などという地味な映画が大ヒットしたものですが。
オカピー
2017/10/21 22:28

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