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zoom RSS 映画評「祭りの準備」

<<   作成日時 : 2017/07/06 08:58   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1975年日本映画 監督・黒木和雄
ネタバレあり

1970年代を代表する青春映画の名作である。先日見直したばかりの秀作「津軽じょんがら節」(1973年)の共同脚本を書いた中島丈博の自伝的作品らしい。

群馬県に住んでいたのでロードショーでは観られなかったが、少し後に進学の為上京して観た。映画が見たくて東京の国立大学を選んだのだった。それ以来40年ぶりの鑑賞だから、すっかり忘れているところが多かったが、序盤の台詞は結構憶えていた。

昭和30年代半ばの高知県。新藤兼人に憧れ、信用金庫に勤めながら脚本家を目指す二十歳の楯男(江藤潤)は、清純な涼子(竹下景子)に憧れる一方で、家を出て複数の愛人の間をうろちょろする父親(ハナ肇)に似せまいと教育する母親(馬渕晴子)のせいもあって、ひどく真面目な性格につき彼女にモーションをかけられない。
 そこへヒロポン(覚醒剤)を服用しすぎて痴呆になってしまった隣家の娘タマミ(桂木梨江)が帰ってくる。楯男が涼子で果たせない性欲をタマミで雲散しようとしたところへ祖父(浜村淳)が割り込んでくる。タマミは妊娠して出産すると同時に頭が元に戻り(この時の「頭がどうかしたのか」という母親の台詞が可笑しい)、共同生活の夢破れた祖父が縊死する。
 抵抗にあって涼子と疎遠になっている間に商売女に筆卸ししてもらった楯男は、その間にオルグの男と肉体関係を持った涼子と再会する。これにより彼女は性的に積極的になり、楯男と結ばれる。しかし、彼としては夢が叶った一方清純なマドンナの変節に失望を禁じ得ず、町の暮らしにおける閉塞感を助長させる。母親の干渉もうっとおしく、前から考えていた上京を実行に移す。

「祭り」とは人生のことらしく、つまりこの題名は青春時代を指す。これまた先日再鑑賞したアメリカ映画「草原の輝き」(1961年)に似た青春時代への決別までの希望と失望を描く映画である。性的な懊悩が中心となっているのも共通する。

隣家のやんちゃな次男(原田芳雄)の言動や母親と愛人の変な共同戦線などそこはかとないユーモアがあり、後味の爽やかさを別にすると、全体的に爽やかではないが妙に陰鬱すぎるわけでもない作品の境地がなかなか良い。その一方で、地方らしく性的に奔放な町民たちの野趣溢れる描写には猥雑なムードがあって、映画的な魅力を添える。

僕は都会への憧れはなかったが、当時、地元での暮らしに閉塞感を覚える若者たちに本作がもたらした共感は大きかったと思う。アメリカ映画でもこの主題が多く扱われているためか、アメリカでの評価も高い(観た人は極めて限定的だが)。

若い映画ファンには、黒木和雄と言えば「戦争レクイエム」3部作の監督であろう。しかし、僕には断然この作品のイメージである。同様に江藤潤と言えば映画デビュー作の本作を思い浮かべる。竹下景子もほやほやの新人で好演だった。

戦後生まれの人は「日本人は性的に淡白」というイメージを持っているかもしれない。確かに現在の日本人はそう感じられるが、昔からそうだったわけではない。今村昌平の日本人観が正しい。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
飯田橋の名画座で、「八月の濡れた砂」や「青春の蹉跌」などのATG作品とともに観ましたねぇ。あまりに気に入ったので、1日に2回観たと思います(笑)
同じく、それ以来の鑑賞になりますが、かなり記憶は鮮明でした・・。

 この映画を語るとき、みな、竹下景子と原田芳雄のことばかり持ち上げるのも心外(笑)で、
流石にプロフェッサーは、作品の抑えどころを的確に挙げておられていつもながら見事な手際です。
>「祭り」とは人生のこと
まさに、その華やかさも、吉野弘ではないですが終わった後の日々の慰安も含めて青春時代の通過儀礼なんでしょうね・・。
>そこはかとないユーモア
ある時を境に狂女が別人のような変身を遂げることで、浜村淳(好演)の祖父にとっては悲劇となり、彼女の家族にとっては喜劇となる。このような悲喜劇はこの映画の中では他にも幾つか見られました

 桂木梨絵が野放しにされていることも、ハナ肇が平然と愛人宅を転々とすることも、仕立て屋の店先で足の不自由な息子と母親が近親相姦にふけることも、世間体や醜聞を気にしないアバウトなライフスタイルのかつての日本の農村では”ありえる”ものとして見ることができます。
続きます。
浅野佑都
2017/07/07 14:25
>今村昌平の日本人観
本作を見た後に、今村昌平の「神々の深き欲望」や「楢山節考」といった作品を見ましたが、今村監督も地方の農村を舞台にした作品を撮る事が多かったですね。
西日本の太平洋側では、昭和三十年代まで夜這いの慣習もありましたし、おおらかな性こそ、日本人たる面目躍如とも思えますけどね・・。
僕がこんなことを書くのは、この映画の若者のレビューで、主人公の性的願望の妄想描写が多くて辟易する・・というのを読んで唖然としたからです(笑)
この程度で吃驚しているようなら日本人は地球上から雲散霧消してしまうでしょうに・・。

 劇中で人を殺め、江藤潤に逃走資金を無心するも、彼の上京の決意を知るやいなや翻意して精一杯のエールを送る原田芳雄の姿には涙を禁じえませんが、この作品は、それ以外にも素晴らしい役者の競演があります・・。
なかでも、原田の兄嫁役を演じた日活ロマンポルノ(最近、復活したらしいですが)の戦士、杉本美樹の野生動物の敏捷さを想像させる演技は、やはり野性的な原田と相まって、二人の濡れ場はさながら肉食動物同士の戦いのようでさえありました・・。

竹下景子演じるインテリ女も、最後は、性で男を絡め取ろうとする・・。彼女は、巨泉の番組で人気者になりましたが、デビュー作といってもいい映画で、出番は少ないながらもこういう果敢な芝居のできるのは、只者ではなかったな、と感じ入っています
浅野佑都
2017/07/07 14:29
浅野佑都さん、こんにちは。

>飯田橋の名画座
ギンレイホールですか? 佳作座は洋画専門だったような記憶があります。

>一日に二回
二本立ての名画座でそれをやると、6時間くらいかかるんですよね。
この作品ではないですが、「隣の女」「裏窓」(後者はロードショーですが二本立て)など僕もよくやりました。

>吉野弘
最近人気の詩人ですね。よく知りませんが、本当に戦後の詩は解りやすくなりましたよ。

>祖父にとっては悲劇となり、彼女の家族にとっては喜劇
悲劇性と喜劇性とが共存する鮮やかさでしたね。本当に「頭がどうかしたのか?」はおかしかったなあ。

>かつての日本の農村では”ありえる”もの
僕の祖父は、配偶者の死亡という事情があるにせよ、両親の組み合わせが全員4人兄弟の次男でした。祖父の次男も長男である僕の父とは母親が違います。彼はおじさんですが、僕の兄より若い。
僕の近所で年下の幼馴染のお祖母さんは、戦死した夫の父親とできて男児をもうけたので、その男性は幼馴染にとっては叔父さんであると同時に大叔父でもあります。そのお祖母さんは同時に近所の男と懇ろでもあったようで、その男性は我が家にもよく来たお爺さんでした・・・etc.

続きますよん。
オカピー
2017/07/07 23:41
>主人公の性的願望の妄想描写が多くて辟易する
日本人について何も知らんな(笑)
まあ、日本には同性愛の伝統がないと議会場で発言したどこかの自民党議員がいました。「日本書紀」の3ページ目くらいに早くも同性愛に関する記述があることも、(男色相手になることの多かった)小姓や稚児さんの存在も知らないらしい。日本くらいあらゆる性行動におおらかな国民はなかったくらいでしょう。

>翻意して精一杯のエールを送る原田芳雄の姿
これは見事に泣かされました。
最初は上京のことを知って無心に来たのかと思いましたが、違いましたね。

>彼の状況の決意
家を出る前にメジロを籠から放つのも象徴的で良かったですね。本作最初のショットが籠に閉じ込められたメジロ。主人公そのものでしたねえ。

>インテリ女も
「所詮はこの町の他の女(や男)と同じだったのか」という幻滅は、僕のような「女性は生涯一人(あくまで自分のポリシー、他人はその限りにあらず)」という人間にはよく解りますね(笑)

>巨泉の番組で
それが竹下景子が、素晴らしい演技力や存在感を持ちながら、大竹しのぶのような名女優になりきれなかった要因かもしれませんね。寅さんで見る彼女は本当に素晴らしい。逆に他のドラマで見た記憶が殆どない(笑)。TVドラマを観ないせいもありますが。
オカピー
2017/07/07 23:44

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